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最終更新日:2021-03-07

審判官の民間登用は“低空飛行” 「審査請求」と「再調査の請求」を賢く活用

  • 2021/03/07
審判官の民間登用は“低空飛行”「審査請求」と「再調査の請求」を賢く活用

今回は、「国税不服審判所の国税審判官(特定任期付職員)」の採用との納税者の主張が認められる「容認率」について触れてみる。

毎年「50名」の民間人登用を維持

特定任期付職員の採用は平成19年から実施され、初年度は税理士4名、20年は税理士1名、21年は弁護士3名と採用は僅かだった。しかし、平成23年度税制改正大綱において、「納税者の簡易・迅速な権利救済を図り、審理の中立性・公正性を高める観点から、行政不服審査制度全体の見直しの方向を勘案しつつ、不服申立ての手続、審判所の組織や人事のあり方について見直しを進める」との文言が付されるとともに、①民間からの公募により年15名程度の採用、②3年後の平成25年までに50名程度を民間から任用することとされ、これを受けた国税不服審判所は、事件を担当する国税審判官の半数程度を外部登用者とする「国税審判官への外部登用の工程表」を設けた。そして、この工程表に基づいて、採用試験が行われ平成23年~25年の3年間は15~17名が採用され25年度に在籍者数は50名に達した。

その後は、退職者分を補充する形で平成28年の49名を除いて令和元年度まで50名を維持している。特定任期付職員は、税理士、弁護士、公認会計士の士業、大学の教授若しくは助教授の職にあった経歴を持つものから採用される。経験や実績が求められ、資格者なら実務経験が3年程度の者も採用されているが、平均的に10年程度の経験者が多く、採用のハードルは決して低くない。

そもそも、審判官の民間登用は、従来は国税職員の出向者で占められていたことから、「第三者機関としての公平性が保てない」などの理由で始まった。そのため、民間の専門家が審判官に登用されたら採決における納税者側の主張が受け入れられる認容率は飛躍的に上がってくるのではないかと予想されていた。

ところが、蓋を開けてみれば、審判官の半数が民間専門家となった平成25年度以後の方が、何らかの形で納税者の主張が認められる「認容割合」が予想外に低くなっている。これはあくまでも結果論だが、結局のところ「容認割合が低い」ことと、国税審判官が国税出身だけに占められていたことの因果関係はなかったということになる。

「再調査の請求」を効率よく活用

ところで、平成28年から国税不服申立制度が見直され、納税者は税務署等の課税処分に納得できない場合、税務署等に「再調査の請求」(改正前:異議申立て)及び国税不服審判所長に「審査請求」(不服申立)、または、裁判所に対して訴訟を提起して処分の是正を求めることができるようになった。その影響もあり28年度以降、審査請求の発生件数は増加傾向にあり、28年度、29年度、30年度と2割ずつ増加している。

一方で、「再調査の請求」は、平成27年度から28年度の制度改正のときに3191件から約半分の1674件に大幅に減少。統計を始めた昭和26年以降、最も少ない件数となった。その後は29年度が1814件、30年度が2043件と持ち直しつつあるが、平成22年度のピーク時には5103件もあったことからすると、一時期より「再調査の請求」は敬遠される傾向が強いと言える。

これは、納税者の代理人である税理士が、「再調査の請求」と「審査請求」の使い分けに慣れていないことにも影響しているかもしれない。

国税OB税理士は、税務調査時に納税者自身が調査官に主張を伝えきれていなかったり、証拠の提出が出来ていない場合などでは、再調査の請求時に改めて税務署に主張等を提出して審理してもらうことで、たとえ再調査の請求で負けたとしても、審査請求での戦い方が変わってくる可能性があるとしている。また、近年では複雑な事案も多く、税務署等からの更正通知書の理由付記等の内容がいまひとつ曖昧なケースや争点が整理されていないケースも見受けられるため、「そのような際にも再調査の請求を行うことで、争点が整理・明確化し、税務署等の主張や処分の根拠をはっきり知ることができ、審査請求の手続の整備充実が図れる」としている。

「再調査の請求」は、請求から決定までの期間が3カ月以内と定められたことから事案は長期化しない。争点が整理され主張内容が明確であれば審査請求して早期に解決すべきだが、そうでない場合の戦い方として「再調査の請求」をうまく活用することも重要だ。

国税不服審判所は、2020年5月1日で設立から50周年を迎えた。審査請求での容認割合低いという現状も踏まえつつ、再調査の請求とのセットで効果的に活用していくことを税金の専門家として考えていくことも重要だ。

審判官の民間登用は“低空飛行”「審査請求」と「再調査の請求」を賢く活用

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