最終更新日:2021-03-26
緊急提言 「製販分離を考える」 ~すでに始まっている会計ビジネスモデルの崩壊~ 業務改善の阻害要因を洗い出し、問題意識の具現化が急務
- 2016/08/04
- 2021/03/26
会計業界における「製販分離」。一度は耳にしたことがあると思います。最近では、先生方との会話の中でも普通に「製販分離」という言葉が出てくるくらいになりました。しかしながら本質的な理解はまだまだされていないのが現状です。「財務維新」で知られる(株)YKプランニング代表取締役の行本康文税理士(写真)は、この分野に積極的に取り組む一人。そこで、「製販分離」を成功させるための手法について、独自の分析をもとに緊急提言してもらいました。
プロフィール
(株)YKプランニング 代表取締役
税理士 行本康文 氏
昭和24年生まれ。48年山口大学経済学部卒業、同年東洋工業(株)(現マツダ(株))入社。57年行本税理士事務所開設、平成14年税理士法人行本会計事務所設立、21年(株)YKプランニング代表就任。
過去計算出来では生き残れない
会計事務所業界において、製販分離とは不思議な言葉です。会計事務所業界において広く使われている言葉ですから、そのまま使用することにします。
日本税理士連合会の調査によると、10年前の調査と比較して売上高と所得は約20%減少しています。しかも、売上高は500万円以下が30.0%で、所得は300万円以下が同様に31.4%以下となっています。この実態はあまりにも、惨めなものです。つまり、業界を挙げて貧乏になっていると言わざるを得ません。原因はいくつかあるでしょうが、最大のものはビジネスモデルの崩壊が始まっているのではないでしょうか。つまり、試算表や申告書の作成などの過去計算のビジネスモデルが、飯の種となる時代は過ぎたといえるでしょう。
ビジネスモデルが崩壊しようとしているにもかかわらず、そこに執着している姿が会計事務所業界ではないかと思うのです。そこで、何かしないといけないと、心ある人は考え始めました。過去計算には、飯の種がこれまでのように存在しなくなったのではないかという、予感が恐怖感に変化し始めているのです。それでも、他にすることがないので今のまま続ける以外に道がないと考える人たちのほうが多数派ですが、現状に危機感を抱いている人たちも少なからずいます。
製販分離は喫緊の要請事項だと思います。会計事務所のビジネスモデルは崩壊が始まっているのです。それでも、高をくくっている人たちもいます。しかしながら、世の中全体で避けがたい変化ですから、自分だけは例外だと思わないほうが賢明です。
製販分離の阻害要因とは?
ポイント1 余裕のない仕事のサイクルをどこかで断ち切る
業務改善するにも、そのための時間が捻出できないでいることが常態になっていると、改善どころではありません。会計事務所の仕事には残業はついて回ります。ところが、これに追い回されていると改善する余裕などありえません。したがって、余裕のない仕事ばかりでいると業務改善に時間を割くことは不可能です。
ポイント2 IT力は一定以上必要
会計事務所は残念ながらIT力を養うチャンスを放棄してきた傾向があります。理由は簡単です。誰かが、IT力をカバーしてくれたからです。それは、主に会計ソフトメーカーが補ってくれてきました。確かにそれは助かりましたが、一方で会計事務所のIT力を削いできました。不自由な思いは自然と工夫を生みますが、満足な状態は工夫を怠ります。なんでも功罪半ばです。
ポイント3 リーダーシップの発揮
会計事務所の経営者はリーダーシップを発揮することが下手です。なかなか、リーダーシップが発揮できません。ついては、何をするにしても、リーダー不在となります。リーダー不在だと、できることもできなくなります。製販分離できるように業務改善したくても、リーダー不在では如何ともできません。
ポイント4 だれも窮地を救ってくれない
会計事務所の経営者は他力本願の性格の人が多いです。誰かが、やってくれる、と思い込んでいるのです。白馬の騎士に例えることができるでしょう。困ったときには、白馬の騎士がさっそうと現れて、窮地を救ってくれる。そんなことは起こりえないことが分かっているのですが、なぜか心の中では期待しています。
ポイント5 仕事の流れが変えられない
コンピュータの登場のときも、結局仕事の流れは変わっていません。つまり、会計事務所は戦後70年間も仕事の流れを変えていないのです。いまさら、変えられるわけがない、と思っているようです。しかしながら、仕事の流れを変えることに挑戦しているにも関わらず、一方では仕事の流れは変えないのです。
ポイント6 巡回監査の呪縛
巡回監査とは、関与先企業を訪問して、会計伝票の適法性を検証して、さらに、経営に必要な会計的な助言をして、会計事務所に帰社することだと認識しています。ところが、本当にこれらが忠実に実施されているかというと、疑問に思わざるを得ません。なぜならば、これらを忠実に、かつ正確に実施しようとすると、あまりにも時間が掛かり過ぎてしまうからです。時間が掛かってもするべきことはしなくてはいけない、と指摘されそうですが、実際はいただいている報酬がそれに見合っているかどうかだと思うのです。そのように考えないと、会計事務所の仕事はボランティアになりかねません。
ポイント7 職人気質が抜けない
職人気質は称賛に値します。ところが、そればかりだとウンザリします。
「経営者の目指す未来へのアドバイス」に活路
以上、製販分離つまり業務改善の阻害要因をいくつか列挙しました。これらの要因が複合的に存在しています。さらに悪いことに、会計事務所の経営者が頑固なことです。良きにも悪きにも頑固すぎます。
製販分離に移行しないと、これから会計事務所は存続できません。これだけは断言しておきます。そこで、製販分離とは、について考えてみます。
まず、製と販の区分について考えてみましょう。“製”の定義をするならば、これは作業といえます。次に、“販”については、仕事と定義することができます。言い換えると、“製”は誰でもできる単純作業で、“販”は熟練した知的生産であると言い分けることができます。
ここでは、“製”は作業ですから、極限まで合理化する必要があります。一方、“販”は未来会計や管理会計を提供することです。
野村総研のレポートによれば、会計監査係員、経理事務員、データ入力係などは消滅する可能性が高い職業の中に分類されています。これらは、現在の会計事務所の業務の中核をなすものです。一方、中小企業診断士や経営コンサルタントは存続する職業に分類されています。存続する職業に分類されるものに共通するものは作業ではなくて、知的生産となっています。消滅する可能性が高い職業と、存続する可能性が高い職業は同じように見えても、ボーダーがあることが分かります。
行本会計事務所では、製販分離を実践しています。その結果は、測定済みです。また、具体的な成果を出しています。会計事務所を取り巻く環境はどこも同じです。あとは、問題意識を具現化し、実際に取り組むか否かなのです。
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クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。