最終更新日:2025-10-22

自民税調会長を入れ替え 令和8年度税制改正に向けた高市首相の方向性は?

  • 2025/10/22
自民税調会長を入れ替え 令和8年度税制改正に向けた高市首相の方向性は?

https://www.kantei.go.jp/jp/104/actions/202510/22bura2.html

高市早苗首相が率いる新政権は、「責任ある積極財政」を旗印に、財政規律一辺倒からの転換を模索している。物価高対策や経済成長支援を重視し、減税や給付付き税額控除など、家計と企業を直接支援する税制の検討が進む可能性がある。自民党税制調査会の運営スタイルも見直しの対象とされ、政治主導による機動的な税制決定を目指す構えが見られる。令和8年度税制改正の焦点は、経済成長と生活安定をどう両立させるかに移りつつある。


高市首相が掲げる「責任ある積極財政」は、デフレ脱却と経済成長を最優先に据えつつ、財政の持続可能性にも配慮する姿勢を示すものだ。財政出動を戦略的に行い、税制を単なる財源確保手段ではなく、経済を支える政策ツールとして活用する方針が打ち出されている。

政府内では、成長分野への投資を促す企業向け税制優遇措置の拡充や、研究開発税制の見直しなどが論点となる見通しだ。賃上げに取り組む企業を支援する賃上げ促進税制も引き続き検討対象となり、要件や優遇幅の見直しによって実効性を高める方向が探られている。

減税志向の強化と物価高対策

高市首相は就任後の会見で、「物価高への対応はすぐに実行できることを優先する」と強調した。これは、家計を圧迫する物価上昇に対して、減税や補助金などの即効的な手段を重視する姿勢を示す発言と受け止められている。

短期的な対策としては、燃料価格に関する暫定税率の見直しが検討課題の一つとされる。原油価格の高止まりや円安進行を踏まえ、エネルギー関連の負担軽減は喫緊の課題である。

中長期的には、低・中所得者層への支援を目的とした給付付き税額控除制度の導入が注目されている。高市氏は総裁選の政策討論でこの制度を「効果的な支援策」と評価しており、制度設計に時間を要するものの、令和8年度税制改正大綱で方向性が示される可能性がある。所得に応じた給付調整によって、再分配機能を強化することが狙いだ。

一方で、消費税減税については慎重論が依然として根強い。首相は「選択肢として放棄するものではない」と述べるにとどめており、経済情勢や財政収支の動向を見極めつつ、将来的な検討課題として残されている。

税制調査会(税調)の「スタイル変更」

税制改正をめぐる意思決定プロセスにも変化の兆しがある。高市氏はX(旧Twitter)上で「自民党税調のスタイルそのものを変えてほしい」と述べ、政治主導による税制形成を志向する姿勢を明確にした。

従来は、財務省出身者や専門官僚が中心となり、制度の安定性と慎重な財源設計を重視する傾向が強かった。これに対し、新政権では、国会議員がより主体的に政策論を交わし、国民の生活実感を反映した税制を迅速に構築する方向性が模索されている。10月9日時点では、自民党の小野寺五典前政調会長が税調の新会長に就任する見通しであることが取りざたされている。小野寺氏は少数与党の石破茂政権では、ガソリン税の暫定税率廃止や所得税の「年収の壁」引き上げなど野党が求める政策の調整役を務めていた。

 旧岸田派。衆院宮城5区選出で当選9回。4日の自民党総裁選では林芳正氏を支援し、決選投票では「党員の状況を見ながら判断した」として、新総裁となった高市早苗氏を支援した可能性を示唆している。

(写真:衆議院議員小野寺五典公式サイトより) 
https://www.itsunori.com/

 こうした人選を水面下で進めつつ、高市首相は法改正を待たずに補助金・交付金などで現場支援を進める「スピード重視」「現場主義」の考え方も打ち出されている。特に、赤字でも雇用や地域経済を支える中小企業や、資材高に直面する農林水産業への支援強化が、税制面からも検討される可能性がある。

 投資とイノベーションを促す税制

「新しい資本主義」の実現を掲げる中で、デジタル分野・スタートアップ支援・暗号資産市場といった成長領域に対する税制のあり方も議論の対象になる見通しだ。

 2025年版「新しい資本主義グランドデザイン」では、暗号資産課税の見直しが明記されており、投資・開発を阻害しない分離課税制度の導入が今後の焦点となる可能性がある。また、中小企業の設備投資支援や研究開発減税の拡充など、イノベーション促進に資する施策も引き続き議論されるだろう。

 令和8年度税制改正は、高市政権の「責任ある積極財政」路線を体現する試金石。国民生活の安定と経済成長を両立させるため、減税・給付型支援・企業投資促進など、直接的な経済支援策が政策の中心に据えられる可能性が高い。同時に、税制調査会の運営改革を通じて、財務省主導から政治主導への転換を図り、迅速かつ柔軟な政策決定を実現できるかが問われる。高市政権が掲げる「現場と国民の声を反映する税制」は、今後の日本経済の方向性を占う重要な第一歩だ。

クローズアップインタビュー

会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。

税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。