最終更新日:2026-02-27
日税連Q&A改訂で何が変わる?電子申告の「便利化」が税理士に突きつける新リスク
- 2026/02/27
「便利になった」は本当か?
日税連『電子申告Q&A』改訂が示す、税理士実務の“静かな転換点”
日本税理士会連合会(日税連)が改訂した「税理士のための電子申告Q&A」は、第6世代電子証明書や委任関係登録、ダイレクト納付など、電子化が進む実務の最新論点を整理した内容となっている。一見すると利便性向上を示す改訂に見えるが、その裏側では税理士が負う責任のあり方が静かに変化している。本コラムでは、今回のQ&A改訂を単なる操作解説としてではなく、デジタル化がもたらす実務上のリスクと役割の変化という視点から読み解き、今後の事務所運営で注意すべきポイントに迫ってみる。
日税連はこのほど、「税理士のための電子申告Q&A」を改訂した。第6世代税理士用電子証明書への対応、e-Taxにおける委任関係登録、ダイレクト納付の留意点など、電子申告実務で迷いやすい論点が整理された内容となっている。
一見すると、今回の改訂は「利便性向上のためのFAQ整備」に見える。しかし、強く感じるのは、そこに書かれた内容以上に、税理士が背負う責任の質そのものが変わりつつあるという現実だ。
今回のQ&A改訂から浮かび上がる、税理士実務が直面する3つの盲点を整理してみた。
①第6世代電子証明書──「紛失リスクなし」は本当に安全か
第6世代税理士用電子証明書では、電子証明書がクラウド上のリモート署名サーバーで管理される。従来のICカード方式に比べ、物理的な破損・紛失リスクが大幅に低減された点は確かに進歩だ。
だが、ここで見落としてはならないのは、リスクが消えたのではなく、「運用」に移行したという点だ。
・ 税理士認証カードは原則1枚発行
・ サーバー・通信環境への依存度の上昇
・ システム障害時は署名自体が不能
つまり、リスクは分散から集中へ変わったのだ。
実務的に重要なのは、カード管理ではなく、障害発生を前提とした申告体制の設計だ。例えば、申告期限の前倒し運用や申告集中日の分散など、BCP(事業継続計画)的な視点が今後は不可欠になる。「便利になった」という言葉の裏で、実は事務所運営の難易度は上がっている。これは多くの税理士がまだ十分に自覚していない点ではないか。
②委任関係登録──便利機能がもたらす“責任の可視化”
Q&Aでは、委任関係登録により次の機能が利用できると説明している。
・ 関与先納税者のマイページ情報参照
・ メッセージ共有
・ (個人)納税者通知の自動転送
業務効率化の観点から見れば歓迎すべき変更だろう。しかし、ここにはもう一つの側面がある。それは「情報が見えるようになるほど、見ていなかったとは言いにくくなる」ということだ
デジタルで共有された情報は、法的義務が直ちに発生するわけではないが、専門家としての「善管注意義務」としての責任が問われる可能性も高い。つまり、税理士にとっては、「電子化=効率化」ではなく、むしろ「電子化<責任の透明化」となり、業務リスクが格段に上がってしまう可能性が高いのだ。
通知を受け取れる環境がある以上、「確認」「管理」の在り方を見直す必要がある。ここを軽視すると、「便利機能」が将来のトラブルの温床になりかねない。
③ダイレクト納付──最も危険なのは“思い込み”
今回のQ&A改訂の中で、実務上もっとも事故につながりやすいのは、ダイレクト納付に関する記述だ。
特に消費税の中間申告(年11回等)で申告期限延長が絡むケースでは、「納付期限内であっても、期日指定納付ができない場合がある」という点が明示された。
実務の現場では、「期限内だから指定できるはず」「後で納付予定だった」という思い込みが起きやすい。
しかし実務では、「申告期限」と「期日指定可能期限」は一致しないという非対称性が存在する。
これは単なるシステム仕様ではない。顧問先の資金計画に直結することであり、ここを説明できるかどうかが税理士の介在価値そのものと言ってよい。
本当の問題は「なぜQ&Aにここまで書かれるのか」ということを考えるべきだ。今回の改訂を読んでいて、もう一つ感じることがある。
本来、これらの論点は現場で当然共有されているべき実務知識だったはず。それがQ&Aとして詳細に明文化される背景には、電子化の進展に伴い、想定外の実務事故や誤解が増えている現状があるのかもしれない。
つまり、問題は制度そのものではない。「電子化のスピードに、実務の理解が追いついていない」ということ。ここに、現在の業界全体の課題がある。
差がつくのは「ITスキル」ではない
第6世代電子証明書の導入は、税理士の役割を確実に変えていくだろう。これから求められるのは、単なる操作能力ではなく
・ 物理管理からアカウント・権限管理へ
・ 作業代行から継続的モニタリングへ
・ 手続き処理からリスクマネジメントへ
便利になればなるほど、「見ていなかった」では済まなくなる。今回の日税連Q&A改訂を見ていると、単なるFAQの更新ではないことを感じる。それは、税理士業務が新しいステージへ移行したことを示す、静かなサインのように感じた。いま問われているのは、ITへの適応ではなく、「責任構造そのものを再設計できるかどうか」だ。
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会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。



