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最終更新日:2022-07-27

税務調査で狙われる社長の高額「人間ドック」費用  調査官はココを見ている!

  • 2022/07/27
税務調査で狙われる社長の高額「人間ドック」費用  調査官はココを見ている!

執筆者

徳永 貴則

宮口 貴志

KaikeiBizline論説委員兼編集委員

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。現在は一般社団法人租税調査研究会の事務局長であり、会計事務所ウオッチャー、TAXジャーナリストとして活動。㈱ZEIKENメディアプラス代表取締役社長。

オーナー社長の会社でよくあるのが、高額な人間ドック費用を経費計上しているケース。1泊2日で30万円というケースも見受けられるが、こうした高額な人間ドック費用は、税務調査で必ず指摘される。社長としては、自分が病気になったら会社が立ち行かなくなるため当然のことと考えているが、税務署が認める経費の範囲は、そこまで融通は利かないようだ。

「人間ドック」費用を経費に

社員は健保組合の生活習慣病の検査、役員は人間ドックということがある。とくに社長に関しては、1泊2日の高額な人間ドックで、体の隅々まで検査してもらう。そして、これら費用は当然、会社の経費。社長の集まりでは、健康管理が話題になることも少なくなく、どこの人間ドックに行っているのか、どのこの人間ドックが良かったなど、情報交換されていることも多い。

しかし、こうした高額な人間ドック費用を経費で落とすと、税務調査のときに調査官から否認される可能性がある。現職調査官によると、否認したときの社長の言葉は「自分が倒れたら、会社は立ち行かなくなる。最悪、潰れる。社員を守るためにも、誰よりも詳しい検査を受けているのが問題なのか」と、出てくる言葉はほぼ一緒だと言う。

また、調査に立ち会う顧問税理士への文句も「友人の会社は、人間ドッグの経費を会社で落としても否認されなかった」と、誰もが同じような抗議をしているらしい。そして、調査立ち合いのときに修正を受け入れるように促すと、「税務署の言いなりで頼りにならない」「こちらの主張をしっかりしてくれない」と苦情を言う。

審判所が示した判断基準

では、社長の人間ドックの費用は、どこまで経費で落とすことができるのであろうか?

金額については、何年も前から曖昧なグレーゾーンに包まれてきた。現場の税務調査官の胸三寸という気もしないではない。しかし、このグレーゾーンについて国税不服審判所の裁決(平成28年9月20日)がある。

人間ドックの費用は役員賞与該当するから、経費に認められないという税務当局の主張が認められた内容だ。

この採決内容を見てみると、この会社は「役員のみが人間ドックを受診」「人間ドックの費用は役員1人につき約35万円程度」「従業員が受けたのは通常の健康診断のみで費用も1人につき約1万8千円」ということだ。会社側の主張としては「生活習慣病の予防を目的とした人間ドックは一般的」「人間ドックは役員への経済的利益をもたらすものではない」「役員が病気になった場合は従業員が病気になった場合よりも影響が大きく経営上のリスクがあり合理的な判断」というもの。 これに対して国税不服審判所は、「役員の人間ドックの費用と従業員の健康診断の費用には大きな格差がある」「生活習慣病の予防を目的とした人間ドックを無償、または、低額で受診することは経済的利益の享受に当たる」「会社側が主張する経営上のリスクという事情と人間ドックの費用が賞与に該当するか否かは無関係」という判断を下している。

役員給与と判断されると法人税だけでなくこんな影響が…

人間ドックの費用に限らず、税務調査時にはこういった役員のみが恩恵を受ける「経済的利益」が発生していたか厳しくチェックされる。

税務調査で社長に対する「経済的利益」とみなされたら、社長の「給与」として扱われる。そして、会社経費で落とせなくなり、会社はその分法人税が増え、社長個人も役員給与が増えることから所得税・住民税が増える。また、源泉徴収してないことへのペナルティーとして「認定賞与」として扱われ、賞与相当額の源泉所得税や消費税も追徴される。

つまり、法人の調査なのに、さまざまな税にも影響してくるわけだ。もちろん本税だけでなく加算税・延滞税もかかる。 税務調査では、オーナー社長の会社経費の“公私混同”がよく指摘される。オーナー社長にとっては、会社の借入であっても自宅を担保に入れるなど、自らリスクを負い、個人の資産をつぎ込みながら会社を維持している。そのため、会社の財布も個人の財布も一緒だと考えがちだ。しかし、税務署は社長の“公私混同”に厳しい眼を向けている。顧問税理士としては、こうした社長の“公私混同”には、理論的に説明しながら納得してもらうように努力したい。

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