最終更新日:2025-12-01
相続・贈与で受け取った暗号資産の「評価額」はどう決まる!?
- 2025/12/02
- 2025/12/01
相続や贈与で暗号資産(仮想通貨)を取得した場合、その評価額をどの時点のどの価格で算定すべきかは、相続税申告において最重要ポイントだ。暗号資産は株式のような終値が存在せず24時間変動し続けるため、誤った評価方法を用いれば追徴課税につながる。国税庁は暗号資産の特性を踏まえ、「活発な市場の有無」で評価方法を区分すべきと整理している。本記事では、税務上の正式な評価基準と実務での注意点をわかりやすく解説する。
暗号資産の評価は「活発な市場の有無」で二分される
相続税や贈与税の申告では、取得した暗号資産を相続開始日または贈与日)、いわゆる「課税時期」の価額によって評価することが重要だ。
ところが、暗号資産は株式のように終値が定められておらず、価格は常に変動している。そのため、どの価格を採用すべきかが実務上の論点となる。
暗号資産の評価について国税庁の通達に明確な定めはない。しかし、財産評価基本通達5(定めのない財産の評価)を準用し、「当該財産の性質に応じて合理的な方法で評価する」ことが求められる。
ここで最重要となるのが、評価対象の暗号資産に「活発な市場が存在するか」だ。
BTC・ETHなど主要な暗号資産 →市場あり
ICO直後のトークン・流動性が極端に低い資産 →市場なし
この判断により、評価方法が根本的に変わる。
市場がある暗号資産は「課税時期の合理的な取引価格」で評価
活発な市場がある暗号資産は、課税時期における市場実勢を最も適切に示す「合理的な取引価格」を用いて評価する。
国税庁は、暗号資産に終値が存在しない点を踏まえ、以下のいずれかを合理的と認めている。
「合理的な取引価格」とされる代表例
1. 終値またはそれに準ずる価格
2. 取引所が公表する販売価格(ユーザーへの売値)
3. 取引所が公表する買取価格(ユーザーからの買値)
4. 複数取引所の平均価格
どれを用いてもよいが、「課税時期の価格であること」「その価格が合理的であること」の二点が証明できる資料を保存する必要がある。
実務での注意点としては「複数の取引所を使っていた場合、どれを使うべきか?」ということ。これについては、いずれか一つで問題ないが、採用した取引所と価格の合理的根拠を示す資料保存が絶対に必要だ。
<保存すべき根拠資料>
・ 取引所の残高証明書
・ 課税時点のスクリーンショット(日時表示必須)
- 取引履歴(CSV 等)
暗号資産交換業者は後日サービスを終了することもあるため、課税時期のエビデンスは早めに保存することが重要だ。
市場がない暗号資産は「総合評価」──ICO・未上場トークンの落とし穴
活発な市場が存在しない暗号資産は、画一的な評価方法がなく、複数要素を総合的に考慮する「総合評価方式」となる。これは未上場株式の評価に近い手法で、次の事項を組み合わせて判断する。
総合評価で考慮される主な要素としては、
・ 暗号資産の内容・性質
・ プロジェクトの継続性
・ 過去の売買実例(個人間取引など)
・ 専門家による鑑定意見
・ 発行体の財務状況・技術的背景
特にICO直後のトークンは、
・ 市場価格が存在せず
・ チームが消滅する可能性
・ 買い手不在で売却不可能
といったリスクが大きく、課税庁側も過大評価・過少評価の双方を警戒している。
評価額を誤ると、税務署からの指摘リスクが最も大きい領域である。そのため専門家の意見書やプロジェクト情報を提出するケースも増加している。
実務では「根拠資料の保全」と「専門家への相談」が不可欠
暗号資産の評価は従来の財産評価と異なり、通達上の明確な規定がない。そのため、申告漏れ・過少申告のリスクを避けるには、次の点が不可欠となる。
暗号資産評価の実務チェックポイントとしては、
① 課税時期の厳守
価格変動が激しいため、数時間のズレでも評価額が大きく変わる。
相続開始日・贈与日に当たる正確な価格を使用すること。
② 根拠となるエビデンスの保存
・ 取引所名
・ 価格
・ 日付・時間
の入った画面を保存しておく。
③ 海外取引所のケース
日本円換算レートが必須。TTMレートや主要銀行レートを併せて保管すること。
④ 市場がない資産の慎重な取り扱い
ICOトークンなどは、税務リスクが最も高い。
総合評価に基づく資料の準備は専門家のサポートが望ましい。
暗号資産の評価は、金融知識と税務知識の双方を必要とする高度な領域である。特に相続・贈与では、評価額の違いが税額に直結するため、早い段階で暗号資産に詳しい税理士への相談が推奨される。
クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。



