最終更新日:2025-10-20
暗号資産の原稿 法人の暗号資産の「未決済取引」 決算時は“売買済み”扱い
- 2025/10/21
- 2025/10/20

暗号資産(仮想通貨)の信用取引を行う法人が増える中、決算時に未決済のポジションがある場合、その評価損益をどのように処理すべきかー。特に、売買がまだ完了していない「含み益」「含み損」が税務上どう扱われるのか、混乱するケースも少なくない。この部分は税務調査でもチェックされやすく注意が必要だ。
近年、法人が暗号資産の信用取引(レバレッジ取引)を利用して収益機会を広げるケースが増えている。信用取引とは、自己資金以上の取引ができる仕組みで、大きな利益も見込めますが、反面リスクも高いの現実だ。
こうした取引の中で「売り」や「買い」のポジションを期末時点で保有していた場合、それがまだ決済されていなくても、「税務上は決済されたものとして扱う」というルールがあります。これを「期末みなし決済」と呼ぶ。
含み益・含み損を税務上どう扱うか
例えば、法人がある暗号資産をレバレッジ取引で「買い」ポジションを持っていたとする。購入時の価格は1BTCあたり500万円。期末の価格は600万円まで上昇したとする。この場合、まだ売却していなくても、期末の時点で100万円の利益が出たとみなされ、その100万円を当期の益金(収益)計上しなければならない。逆に、期末に価格が下落し、400万円になっていた場合には、100万円の損失が発生したものとして、当期の損金(費用)算入する。
これは「売っていないのに利益(または損失)を計上する」という直感に反する処理であり、多くの企業で誤って処理しているケースが少なくない。
このルールは、法人税法第61条第7項に基づくもの。要点はこうだ。
「法人が期末に未決済の暗号資産信用取引を持っていた場合、あたかもその時点で売買が終わった(決済された)ものとして、利益や損失を計上しなければならない」
という内容。
これは、金融商品の「短期売買」による損益を、適切な期間で認識するために設けられた制度。もしこれを行わずに、決済された年にだけ損益計上を認めると、損益計上が極端にずれるリスクがある。たとえば、含み損のある取引をいつまでも決済せず、黒字の年の節税に使う、といった操作も可能になる。つまり、損益の「先送り」や「恣意的な操作」を防ぐことがこのルールの目的だ。
「期末みなし決済」の具体的な計算方法
法人が保有する未決済のポジションが「売り」か「買い」かによって、計算式が異なる。
・「売り」ポジションの場合
期末みなし決済損益 = 当初の売付け価額 − 期末の時価
・「買い」ポジションの場合
期末みなし決済損益 = 期末の時価 − 当初の買付け価額
【事例1】「買い」ポジションでの含み益
ある法人が、ある暗号資産を1BTC=500万円で5BTC購入。期末の時価が600万円の場合は、
期末の評価額: 600万円 × 5 = 3,000万円
当初の評価額: 500万円 × 5 = 2,500万円
含み益: 3,000万円 − 2,500万円 = 500万円
この「500万円」は、まだ売っていないが当期の利益(益金)として計上する。
【事例2】「売り」ポジションでの含み損
今度は、1BTC=600万円で売りポジションを5BTC取った法人が、期末に価格が650万円になったとする。
当初売付額: 600万円 × 5 = 3,000万円
期末時価: 650万円 × 5 = 3,250万円
含み損: 3,000万円 − 3,250万円 = ▲250万円
この損失250万円は、当期の損金として計上する。
翌期は「洗替処理」で損益リセット
みなし決済によって計上された損益は、翌期の期首に逆の仕訳を行い、「洗替(あらいがえ)」処理を行う。
これは、あくまで「みなし計上」しただけで、実際の決済ではないため、次期に正しい損益を把握するためのリセット処理だ。
前期で益金にした金額 → 翌期で損金に
前期で損金にした金額 → 翌期で益金に
前述のようにして、実際に決済された年に、取引開始から決済までの損益が正しく反映される仕組み。この洗替処理については、法人税法施行令第118条の12に具体的な方法が定められている。
制度はシンプルでも実務は複雑
「期末みなし決済」のルールは、一見シンプルに見えるが、実務ではいくつかの注意点がある。
・複数のポジションがある場合、1件ずつ評価・記録する
・時価の算定方法(取引所の価格など)に一貫性が求められる
・税務調査での根拠資料(取引記録、価格データ)の整備が必要
また、デリバティブ取引に詳しい税理士であっても、暗号資産固有のリスクや値動きを踏まえた判断が求められるため、同制度に基づいた会計処理と実際の運用とのギャップに悩むケースも少なくない。
そのため、法人が暗号資産取引を活用する場合、節税や投資機会の観点からも大きなメリットがあるが、税務上の処理を誤ると、思わぬ追徴課税に繋がることもある。特に「みなし決済」や「洗替処理」は、正しく理解して初めて適切な税務処理ができる領域。法人税法第61条は抽象的で専門的な表現も多いため、実務では税理士の中でも、暗号資産取引に詳しい人と連携することが安全だ。税理士も専門分野があり、レベルかなりの差があるので覚えておきたい。
暗号資産という新しい資産クラスを法人経営に取り入れるには、そのリスクと税務面のルールをしっかり理解することが欠かせない。制度の目的や税務処理方法をきちんと押さえておくことで、トラブルを避け、健全な経営判断に繋げることができる。税務当局も暗号資産取引には目を光らせていることを肝の銘じておきたい。
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元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。