最終更新日:2025-12-19

自民税調 基礎控除は物価連動で2年ごとに見直しへ 賃上げ税制の大企業向け廃止も明示──令和8年度税制改正大綱を週内取りまとめ

  • 2025/12/19
自民税調 基礎控除は物価連動で2年ごとに見直しへ 賃上げ税制の大企業向け廃止も明示──令和8年度税制改正大綱を週内取りまとめ

所得税の「基礎控除」が、物価上昇に連動して定期的に見直される仕組みに変わる。自民党税制調査会は12月11日、消費者物価指数(CPI)を基準に、基礎控除額を2年ごとに調整する方針を示した。あわせて賃上げ促進税制の大企業向け措置を廃止することや、高所得者への課税強化、教育資金贈与の非課税措置終了なども盛り込まれる見通しだ。与党は週内にも令和8年度税制改正大綱を取りまとめる。


基礎控除を「物価連動」で引き上げ、2年ごとに見直し

 今回の税制改正で最も注目されるのが、所得税の基礎控除を物価に連動させて引き上げる新ルールだ。基礎控除は原則としてすべての納税者に適用されるため、家計への影響が大きい。

自民税調が示した方針では、消費者物価指数(総合CPI)を基準に、2年ごとに控除額を見直す。毎年改正としなかったのは、源泉徴収や年末調整を担う企業の事務負担に配慮したためだ。見直し初年度は年末調整で対応する。

また、給与所得者にとって重要な給与所得控除の最低保障額についても、基礎控除と同様に物価連動で引き上げる仕組みとする。物価上昇による「実質増税」を防ぐ狙いがある。この仕組みにより、国民民主党が主張してきた「年収178万円の壁」にも段階的に近づくとみられている。

超高所得層には負担増、特別控除を半減・税率引き上げ

一方で、極めて高い所得層に対しては、税負担の公平性を重視した見直しが行われる。具体的には、高額所得者向けの特別控除額を現行の3億3000万円から1億6500万円に引き下げ、税率も22.5%から30%へ引き上げる。適用は令和9年分の所得からとなる見通しだ。

中間層・低所得層の負担を抑える一方、超高所得層には応分の負担を求める構図が鮮明になった。

教育資金一括贈与の非課税措置は延長せず

富裕層対策として位置付けられてきた教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置については、現行の適用期限(令和8年3月末)で終了し、延長しない方針が示された。利用が一部に偏っていることや、資産格差の固定化につながる懸念があることに加え、教育無償化の拡充やNISA制度の拡大など、他の政策とのバランスを考慮した判断とされる。

賃上げ促進税制、大企業向けは廃止へ

企業関係者に影響が大きいのが、賃上げ促進税制の見直しだ。足元では賃上げが進む一方、大企業を中心に内部留保や現預金が積み上がっている。こうした状況を踏まえ、自民税調は大企業向けの賃上げ促進税制を廃止する方針を明確にした。

中堅企業向けの措置についても、物価を上回る安定的な賃上げを実現する観点から要件を見直した上で、令和9年度に廃止する方向だ。

さらに、教育訓練費に関する上乗せ措置については、「控除額が実際の教育訓練費の増加額を上回っている」との会計検査院の指摘を踏まえ、中小企業を含めて廃止する。

大規模・高付加価値投資を後押しする新たな設備投資減税

成長戦略の柱として、新たな設備投資減税も創設される。国内での高付加価値化投資を促進するため、全業種を対象に、大規模かつ付加価値の高い設備投資を支援する。産業競争力強化法に基づく確認を受けた設備投資計画に沿って取得した設備などが対象となる。

 措置内容は、即時償却または税額控除(原則7%、建物等は4%)。令和11年3月31日までに計画認定を受け、認定日から5年以内に取得・事業供用した設備が対象となる。

米国の関税措置の影響が幅広い業種に及んでいることも背景にあり、「強い経済」を実現するための攻めの税制と位置付けられる。

租税特別措置の透明性向上も検討

このほか、租税特別措置の適用実態調査を巡り、個別企業名の公表についても具体的な検討を進める方針が示された。税制の透明性と説明責任を高める狙いがある。

自民税調は今後も議論を重ね、週内にも令和8年度税制改正大綱を取りまとめる見通しだ。家計、企業、投資行動に幅広く影響する改正内容だけに、今後の正式決定と国会審議の行方が注目される。

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税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。