最終更新日:2025-10-02
iPhoneでマイナンバー、e-Taxはどこまで安全か?
- 2025/10/03
- 2025/10/02

2025年9月、国税庁がe-Taxの新たな対応を発表した。ついに「iPhoneのマイナンバーカード」によるログインが可能になったのだ。これは、Appleウォレットにマイナンバーカードを格納することで、物理カードを取り出すことなく行政サービスを利用できるという、デジタル庁が6月に開始した新サービスに基づくもの。
これまでe-Taxを利用するには、スマートフォンでマイナンバーカードを読み取る必要があった。財布からマイナンバーカードを取り出し、平らな場所に置き、スマホを重ねて読み取るという手順は、手間がかかる上に、読み取りエラーも少なくなかった。だが今回の対応により、iPhone一つで顔認証(Face ID)によるログインが可能となり、利便性は飛躍的に向上した。
利便性の裏に潜むリスク
しかし、利便性の向上は、常にセキュリティとのトレードオフを伴う。iPhoneに格納されるマイナンバーカードには、氏名・住所・生年月日・性別・マイナンバーといった「基本4情報」が含まれている。つまり、iPhoneを紛失するだけで、個人情報の塊が第三者の手に渡る可能性があるのだ。
この点について、専門家は「iPhoneのセキュリティ設定を強化することが不可欠」と警鐘を鳴らす。Face IDや強力なパスコードの設定、定期的なOSアップデートは最低限の対策であり、マイナポータルアプリの認証も厳格に管理すべきだという。
また、公共Wi-Fiの利用や不審なアプリのインストールは、情報漏洩のリスクを高める。VPNの活用や、信頼できるネットワークのみでの操作が推奨されている。デジタル庁も、紛失時の対応策として「iPhoneを探す」機能の活用を促しているが、果たしてそれだけで十分なのか。
セキュリティ対策は「自己責任」か?
制度設計としては、Appleのセキュリティ技術に依存する部分が大きく、国側の保証は限定的だ。つまり、ユーザー自身がセキュリティ対策を講じなければ、利便性の代償として大きなリスクを背負うことになる。
この構造は、マイナンバー制度の本質的な課題を浮き彫りにする。行政サービスのデジタル化が進む一方で、情報管理の責任が個人に委ねられている現状は、果たして公平なのか。特に高齢者やITリテラシーの低い層にとっては、利便性よりも不安が先に立つだろう。
今後の展望と課題
国税庁は、令和7年分の確定申告書作成コーナーにも「iPhoneのマイナンバーカード」対応を予定している。これは、行政手続きの完全スマホ化に向けた大きな一歩だ。しかし、制度の普及には「安心して使える」ことが前提であり、セキュリティ対策の啓発や支援体制の整備が急務だ。
最後に問いたい。私たちは、利便性の名のもとに、どこまで個人情報をスマホに預けてよいのか。e-Taxの進化は歓迎すべきだが、その裏に潜むセキュリティの課題に、もっと目を向けるべきではないだろうか。
(KaikeiBizline編集長:宮口貴志)
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元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。