最終更新日:2025-12-19
税務調査が変わる!企業グループ内取引に「保存文書義務」!? 2026年4月適用で実態把握できない資料未提出問題に本格対応
- 2025/12/19
企業グループ内取引を巡る税務調査のルールが、根本から変わる。令和8年度税制改正で、グループ間の特定の取引について、その内容や支払額の根拠を示す文書の取得・作成・保存が法人に義務付けられる方針が示された。 背景にあるのは、税務調査の現場で「資料が提示・提出されず、正確な実態把握ができない」という、国税当局が長年抱えてきた深刻な問題だ。 特に、国外関連者との取引やシェアードコスト(共通費用)取引が問題視されており、新制度は2026年4月1日から適用される見込みだ。
税務調査の現場で浮き彫りとなった「資料未提出」問題
令和7年度与党税制改正大綱では、税務調査を巡る重要な問題提起が行われていた。それが、「税務調査の際に、国税当局が求める資料等が提示・提出されず、正確な事実関係を確認できない事例が把握されている」という指摘だ。
この問題は突発的に浮上したものではない。国税庁は令和4年10月の政府税制調査会において、税に対する公平感を著しく損なう調査事例を提示している。高額所得者の無申告や長年にわたる無申告といった事例は、その後の税制改正で対応が進められた。一方で、調査に協力しないことにより実態把握が困難となるケースは、制度対応が積み残されたままとなっていた。
政府税調で共有された「20年間で3回調査、改善なし」の事例
この点が改めてクローズアップされたのが、2025年6月11日に開催された政府税制調査会の専門家会合だ。会合では、国外関連者への経費支払に関し、調査対象法人に対して過去20年間で3回の税務調査を実施したにもかかわらず、いずれの調査でも十分な資料提供がなされなかった事例が報告された。
改善を求めても状況は変わらず、当局としては取引実態の確認に極めて苦慮したという。特に国外に所在する法人との取引は反面調査が難しく、調査手段が限定される。そのため、調査対象法人自らが、支払の内容や算定根拠を示す詳細な資料を提示することが不可欠とされている。
こうした問題意識を踏まえ、納税者に資料提出への協力を促すための制度的対応が本格的に検討されることとなった。
企業グループ内取引を対象に「保存文書の整備」を義務化
この流れを受け、令和8年度税制改正では、企業グループ内の一定の取引に関して、保存文書の整備を求める措置が講じられる見込みだ。自民党税制調査会で示された納税環境整備案では、法人税の課税所得計算において、保存義務のある書類に取引の明細や支払額の算定根拠が記載されていない場合、これらを明らかにする書類の取得または作成を義務付けるとしている。
法人税法では現在も、帳簿に加え、取引先から受け取った注文書や契約書、または自ら作成したこれらの書類の保存が求められている。通常の取引であれば、相手方が保存している書類の提示・提出を受けることで、税務調査に対応することが可能だ。
しかし、企業グループ内取引では、こうした前提が必ずしも成り立たない。
シェアードコスト取引が抱える構造的なリスク
問題の中核にあるのが、いわゆる「シェアードコスト取引」だ。これは、研究開発、広告宣伝、ITシステムの維持管理など、企業グループ内で共通して発生する業務を特定の法人に集約し、その費用を一定の基準に基づいてグループ各社に配賦する取引を指す。
こうした取引は、実務上広く行われている一方で、支払額の算定が恣意的になりやすい側面を持つ。取引内容や配賦基準、費用算定の根拠を示す資料が十分に作成・保存されていない場合、税務当局としては、その経費が適正かどうかを検証できない。
実際、保存書類の不備により、経費支払額の妥当性を確認できず、正確な実態把握ができない事例が把握されている。
メリット : 実務上は効率化のために広く行われている。
リスク : 支払額の算定が恣意的になりやすい。
無形資産取引や経営管理料も対象に
今回の制度見直しで対象となる取引は、シェアードコスト取引に限られない。無形資産の譲受け・借受け、経営管理や指導に係る役務提供など、実態把握が難しく、かつ金額が大きくなりやすい取引も含まれる予定だ。
・無形資産の譲受け・借受け(ノウハウ、特許など)
・経営管理や指導に係る役務提供(マネジメントフィーなど)
これらは、国外関連者との取引で多く見られる類型でもあり、移転価格税制とも密接に関係する。
もっとも、政府税調では「国内取引であれば調査権が及ぶため、国外取引に限定すべきではないか」といった意見も出されており、最終的な制度設計が注目される。
2026年4月適用へ、企業に求められる実務対応
本措置は、2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用される予定だ。対象となる企業グループでは、これまで以上に取引内容の可視化と文書化が求められることになる。
| 求められる実務対応 | 具体的な文書化項目 |
|---|---|
| 取引内容の可視化 | 取引の必要性、提供された役務の具体的な内容 |
| 役務の証明 | 役務が実際に提供され、ベネフィットがあったことを示す資料 |
| 算定プロセスの説明 | 費用総額の算定根拠、グループ各社への配賦基準(例:売上比、人数比など)とその合理性 |
単に契約書を保存するだけでは足りず、取引の実態、役務の内容、支払額の算定プロセスを説明できる資料の整備が不可欠となる。とりわけ、グループ内取引をコスト配賦で処理している企業にとっては、税務調査対応を見据えた文書管理体制の再構築が急務となりそうだ。
税務調査の「協力義務」を実質的に強化する今回の制度改正は、企業のガバナンスと税務管理の在り方を根本から問い直すものとなる。
クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。



