最終更新日:2025-12-10
令和8年度税制改 相続直前の不動産取得が節税に使えなくなる可能性
- 2025/12/11
- 2025/12/10
令和8年度税制改正で、貸付用不動産の評価方法が大きく変わる見通しだ。相続や贈与の直前に取得した不動産を通達評価で安く算定し、税負担を大幅に圧縮するスキームが多数確認されたことを受け、国税庁は「通常の取引価額」で評価する新ルールを提案した。市場価格との差を利用した節税手法が封じられる可能性が高く、相続税対策の常識が変わる局面に入ったと言える。
自民党税制調査会で示された令和8年度税制改正の納税環境整備案には、貸付用不動産の評価方法を抜本的に見直す方針が明記された。焦点は、「相続開始・贈与前5年以内に取得した貸付用不動産を、通達評価ではなく通常の取引価額で評価する」という点だ。この改正案は、国税庁が実務上問題視してきた“評価乖離を利用した節税スキーム”に直接メスを入れる内容となる。
背景には、国税庁の研究会で明らかになった多数の事例がある。相続直前に貸付用不動産を取得し、時価より大幅に低い通達評価額で申告し、多額の借入金と相殺することで課税価格を極端に圧縮するケースが確認された。不動産小口化商品の贈与による税負担軽減スキームも同様で、いずれも市場価格との差を用いた節税が過度に広がったと判断された。
新ルールでは、取引事例価額、不動産鑑定額、路線価評価を基礎にした「通常の取引価額」で評価することが求められる。従来の通達評価と異なり、取得価額や時価を直接反映するため、相続直前の取得による評価差の利用は実質的に困難となる見込みだ。
数年前に導入された「取引価額に相当する金額で評価」を用いた方式とは異なり、今回は通達評価そのものを適用しない方式が示された点も重要だ。借入金の評価も通達の調整前価額を基準とするため、純資産額を大きく圧縮することが難しくなる。
この見直しは、相続税対策の潮流を根本から変える可能性が高い。相続直前の不動産取得が実務上どの程度の意味を持つか、今後は慎重な検討が求められる。税務の公平性を確保するという国税庁の方針が明確に示されたことで、市場価格を踏まえた実質評価の時代が到来することになるだろう。
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税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。



