最終更新日:2025-09-16
新経済連盟が令和8年度税制改正提言 暗号資産分離課税や損失の繰越控除など要望
- 2025/09/18
- 2025/09/16
楽天グループ会長の三木谷浩史氏が代表理事を務める経済団体「新経済連盟(JANE)」は、令和8年度税制改正提言を公表した。提言は「税と成長の好循環」の実現を基本理念に掲げ、国内投資の促進、スタートアップ支援、国内産業の競争力強化を三つの柱としている。特に、暗号資産の申告分離課税化や相続税制の見直しなど、デジタル経済と実物経済の双方を活性化させる大胆な改革案が盛り込まれており、年末に向けた税制論議の行方を左右する可能性を秘めている。
デジタル化とイノベーションを推進し、日本経済の競争力向上を目指す新経済連盟(JANE)が、令和8年度(2026年度)税制改正に関する提言を9月10日に公表した。提言の根底にあるのは、「税率を引き下げて日本経済を活性化し、税収を増やして再び国内投資へ」という「税と成長の好循環」の実現だ。この理念のもと、JANEは日本の産業構造・制度・政策の抜本的な変革を促すべく、三つの柱を掲げた。
第一の柱「国内投資の促進」
日本経済の長期的な成長力を引き出すため、JANEはまず法人税・所得税・相続税といった主要な税目の引き下げを求めた。国際的な競争力を高めるため、投資家の税負担を軽減し、国内への資金流入を促す狙いがある。さらに、経済成長のエンジンとなる研究開発(R&D)への投資を強力に後押しするため、研究開発税制の強化を提案。AIの開発・利活用を支援する新たな税制の導入や、ソフトウェア投資を優遇する新制度の創設も盛り込まれた。これらは、無形資産投資が今後の企業の競争力を左右するという認識に基づいている。
また、JANEはインフレに対応するため、各種控除額や課税の閾値(いきち)の見直しも求めている。物価上昇によって実質的な税負担が増すことを防ぎ、家計と企業の購買力維持を図るためだ。加えて、地方創生を加速させるため、地方自治体間の改革競争を促す税制の導入や、海外からの地方への直接投資を誘導するような税制上のインセンティブ策も提言に含められた。これらにより、国全体で均等な成長を実現し、国内の経済格差解消にも寄与することを目指す。
第二の柱「スタートアップ支援と生産性向上」
日本経済の新たな担い手となるスタートアップ企業の成長を強力に支援するため、JANEは各種優遇税制の拡充を提言している。具体的には、創業期にある企業への投資を促す「エンジェル税制」や、大企業とスタートアップの連携を後押しする「オープンイノベーション促進税制」の拡充を要望。さらに、優秀な人材の獲得に不可欠な「ストックオプション税制」については、付与対象の拡大や行使価額の柔軟化を求めている。
また、社会課題の解決を促す新たな仕組みとして「社会的投資減税」の創設を提案。これは、社会貢献性の高い事業への投資を税制面で支援するものだ。教育分野では、個人のリスキリング(学び直し)を後押しする「リカレント教育」への税制優遇や、国際的な人材を日本に呼び込むための税制も見直すべきだと主張している。中小企業のデジタル化を促進するため、インボイス制度を活用した経理の電子化や、納税環境の整備も具体的な施策として示された。
第三の柱「国内産業の競争力強化」
第三の柱では、特にデジタル経済の最前線にある暗号資産(仮想通貨)に関する税制改革が目玉だ。現行の暗号資産の取引利益は、他の所得と合算して課税される「総合課税」の対象であり、最高税率は55%に達する。また、株などと異なり損失の繰越控除が認められていないため、投資家は大きなリスクを負っている。これに対しJANEは、株式や先物取引と同様に、暗号資産の取引利益を「申告分離課税(一律20%)」の対象とすることを提案。さらに、損失の繰越控除を認めることも盛り込まれた。加えて、暗号資産同士の交換のたびに課税が発生する煩雑な現状を改め、法定通貨への換金時にまとめて課税する方式へと変更すべきだと強く求めている。これにより、日本国内で暗号資産関連事業を育成し、国際的な競争力を高めることを狙う。
また、暗号資産税制と関連し、相続税制についても見直しを提言。暗号資産の相続時の評価額について、急激な価格変動リスクを考慮し、「相続開始日の時価」だけでなく、「過去3か月の月平均時価のうち最も低い価額」を選択できるようにすることを求めた。さらに、相続資産を売却する際の取得費に相続税額を加算できる特例を、暗号資産にも適用すべきだと主張している。
寄附税制においても、暗号資産を非課税特例の対象に含めることを提案し、暗号資産が社会貢献に活用される道を開こうとしている。税制以外にも、暗号資産のETFでの取扱いを認めることや、レバレッジ規制の柔軟化も要望している。
さらに、デジタル経済の発展に伴う越境経済への対応として、海外のデジタルプラットフォーム事業者に決算と法人税の納税状況の公表を義務付けるなど、国際的な課題解決にも言及している。
JANEの提言は、日本の経済構造を「仮想経済」と「実物経済」の双方で成長させるためのロードマップと言えるだろう。提言された大胆な税制改革が、今後の日本経済にどのような影響をもたらすか、その動向から目が離せない。
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税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。



