最終更新日:2025-11-21

亡くなった家族の暗号資産が“あるか不明”──それでも相続税申告は必要

  • 2025/11/25
  • 2025/11/21
亡くなった家族の暗号資産が“あるか不明”──それでも相続税申告は必要

相続発生後に家族が最も困惑するケースの一つが、「被相続人が暗号資産(仮想通貨)を保有していた可能性があるが、確証がない」という事例だ。ビットコインを含む暗号資産は、紙の通帳や証券残高のように形跡が分かりやすく残るとは限らず、相続発生後に情報が見つからないことも珍しくない。しかし、“分からないから申告しない”という判断は、相続税の申告漏れリスクを極めて高くする。暗号資産が不明の場合、相続人はどこまで調査すべきなのか。必要な確認手順と相続税上の考え方を整理した。


暗号資産は実体のないデジタル財産であり、相続人が存在に気付けないことも多い。だが、被相続人が暗号資産を保有していた”可能性”がある場合、相続人は財産調査を行う義務を負う。民法915条が定める相続の承認・放棄の判断期間(3か月)においては、暗号資産を含めた財産の全体像を把握する努力が求められる。

国税当局は近年、暗号資産関連の申告漏れを重点的に調査しており、「確認できなかった」「気づかなかった」という説明だけでは正当な理由として認められにくい傾向にある。とくに、故人が暗号資産に関心を持っていた形跡がある場合は、相続人に“最大限の調査”が期待される。

PC・スマホ・メールの確認が第一歩

暗号資産はオンラインで管理するため、痕跡は主にデジタル情報に残る。とくに以下は必ず確認すべきだ。

  • PC・スマホ

・取引所(bitFlyer、Coincheck、GMOコイン等)のアプリ

・取引所サイトのログイン履歴

・ウォレットアプリ(MetaMask 等)

・メール(口座開設、ログイン通知、取引報告)

  •  預金通帳

暗号資産取引所への入金・出金は多くが銀行経由で行われるため、痕跡が残りやすい。

例:「○○コイン」「ビットフライヤー(bitFlyer)」「コインチェック(Coincheck)」

③ 郵便物

口座開設時のハガキや認証コード通知が届いていることがある。

これらの情報から取引所名が分かれば、相続人は取引所へ連絡し、故人のアカウントの残高証明や取引履歴の提供を依頼できる。

ステップ調査対象確認事項
① デジタル機器の確認PC、スマートフォン* 取引所アプリの有無
* ブラウザのログイン履歴
* 暗号資産関連のメール(特に口座開設や通知)
② 金融機関の確認預金通帳、取引履歴* 「コインチェック」「bitFlyer」などの取引所名義での入出金履歴
③ 郵便物の確認自宅に届いた郵便物* 口座開設ハガキや認証コードの通知
④ 取引所の特定・残高証明取得取引所への連絡* 利用していた取引所が判明した場合、相続人が取引所へ連絡し残高証明書を取得する

発見できない場合の重要なポイントは、「税務調査対策として、調査した結果、暗号資産を発見できなかった場合も、その調査過程(どこを、何を調べたか)を記録して保管しておく」こと。これは、将来的な税務調査があった際に、調査を尽くしたことを証明するために非常に重要だ。

  • 取引所が特定できた後の手続き

利用していた交換業者が判明したら、相続人は以下の手続きを進める。

1、相続発生を取引所へ連絡

2、必要書類(戸籍、遺言書、相続関係図など)を提出

3、残高証明書・取引明細書の発行を依頼

4、相続税評価額(死亡日時点の価格)を算出

相続税では、死亡時点の暗号資産の市場価格を評価額として申告する必要がある。

“調査しても見つからなかった”時の対応

最大限の調査を行っても暗号資産が見つからない場合、申告額に反映することはできない。しかし、後日、税務署から照会を受けた際に、相続人が不足なく調査した事実を示せるよう、以下の記録を残しておくことが重要だ。

・どのPC・スマホを確認したか

・通帳の確認範囲

・郵便物の有無

・ログイン履歴の調査状況

・いつ誰がどのように作業したかのメモ

これは税務調査の際に「善意で調査を尽くした」ことを示す証拠となる。

法的根拠を残す「なぜ調査義務があるのか?」

<相続税法27条(申告義務)>

相続税の課税価格が基礎控除額を超える場合、相続人は申告しなければならない。暗号資産の有無は申告価格に直結するため、調査は申告義務を果たす前提となる。

<民法915条(承認・放棄の判断期間)>

相続開始を知った時から3か月以内に相続の承認か放棄を決める必要があり、その判断には全財産の調査が不可欠だ。

「暗号資産の不明」は放置できない時代へ

暗号資産は投資経験者だけでなく、中高年層にも広く普及している。相続の現場では、「まさか父が仮想通貨を…」というケースが増えている。相続人は、暗号資産を“存在しないと仮定する”のではなく、“存在する可能性を前提に調査する”姿勢が求められる時代になったと言える。具体的な調査方法や申告方針は、ケースによって大きく異なるため、専門家へ相談したい。

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税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。