最終更新日:2025-12-01

相続した暗号資産の手続き、間違えると資産喪失も──取引所連絡・書類・評価方法・ウォレット

  • 2025/12/01
相続した暗号資産の手続き、間違えると資産喪失も──取引所連絡・書類・評価方法・ウォレット

暗号資産を相続するケースがるが、その手続きは銀行預金とは大きく異なる。まず取引所に連絡し、必要書類を整え、残高証明書を取得する流れが基本だが、取引所が不明なケースや、残高証明書が発行されないケース、さらに個別ウォレット(秘密鍵管理)の場合など、実務上の落とし穴も多い。手順を誤ると資産にアクセスできなくなるリスクすらある。デジタル資産特有の手続きと注意点を押さえることで、相続を円滑に進めることができる。


最初のステップは「取引所への連絡」──ログイン操作は厳禁

暗号資産の相続では、被相続人が利用していた暗号資産取引所へ連絡することが第一歩だ。取引所のサポート窓口に、「口座名義人が死亡したこと」「相続手続きを行いたいこと」を伝える。

 この際に絶対避けたいのが、相続人が勝手にログインして口座を確認する行為だ。パスワードを知っていたとしても、本人以外のログインは不正アクセス扱いとなり、口座凍結やログイン履歴調査などのトラブルにつながる。

国内取引所であっても、相続手続きの受付窓口はメール、チャット、専用フォームなど取引所によって異なる。海外取引所では日本語が使えない場合もあり、返信に数週間かかることも珍しくない。早めの連絡と、正規手順での対応が欠かせない。

取引所が分からない場合の“調査方法”

実務では「そもそもどの取引所を使っていたのか分からない」というケースが非常に多い。暗号資産はユーザーが自由に口座を作れるため、家族に一切伝えていないことがよくある。取引所を特定するためには、次の調査が効果的だ。

・パソコン・スマホ内のアプリ(「bitFlyer」「Coincheck」など)

・メールの受信履歴(本人確認メール、ログイン通知)

・銀行口座の入出金履歴(取引所への入金記録)

・郵便物(本人確認郵便、取引所の通知)

 こうした痕跡をたどって、被相続人が利用していた取引所を特定する必要がある。

取引所が特定できなければ、相続手続きに進めないため、この工程が最初の大きな壁となる。

必要書類は銀行以上に厳格──相続人全員の同意

取引所が判明したら、次は書類の準備に進む。一般的に求められる書類は次のとおりだ。

・被相続人の死亡を証明する書類(除籍謄本等)

・戸籍謄本一式または法定相続情報一覧図

・相続人全員の署名押印がある遺産分割協議書

・代表相続人の本人確認書類・印鑑証明書

・取引所が指定する相続手続申請書

 暗号資産は送金後に追跡することが困難であるため、取引所は金融機関以上に厳しい本人確認と相続人同意の確認を行う。遺産分割協議書が必須となる取引所も多いため、相続人間の調整にも時間が必要だ。

複数 の取引所を利用していた場合、これらの書類を取引所ごとに提出する必要がある。

相続税申告に必須の「残高証明書」──発行できないケースの評価方法も

暗号資産を相続する際には、死亡日時点での保有数量と評価額を示す「残高証明書」が必要となる。ただし、実務では次の問題が起きやすい。

・海外取引所が残高証明書を発行しない

・DEX(分散型取引所)には残高証明という概念がない

・日本の小規模取引所で証明書発行に時間がかかる

その場合、国税庁が定める評価方法(複数取引所の平均レートなど)を用いて評価する必要がある。

つまり、「残高証明書が取れない=相続税の申告ができない」ではない。ただし、評価計算が複雑になるため、早期に税理士へ相談したほうが確実だ。

 残高証明書の発行は取引所によって数日〜数週間かかるため、相続税申告の期限(10か月)を踏まえ、早めに依頼することが重要となる。

受け取り方法は“移管”か“売却”かで異なる

相続手続きが完了すると、暗号資産の受け取り方法を選択する。

① 暗号資産のまま移管

相続人の新規口座に移管する方法だ。ただし、移管に対応していない取引所もある。

② 取引所が売却し、日本円で受け取る

国内取引所に多い方式で、売却後に円で代表相続人へ送金される。

どちらの方式を採用するかは取引所の規定しだいである。遺産分割協議書の内容と整合性をとりながら選択する必要がある。

取引所ではなく“個別ウォレット”で保管されている場合

暗号資産が必ずしも取引所にあるとは限らない。「Ledger」「Trezor」「MetaMask」 などのプライベートウォレットに保管されている場合、相続手続きは取引所とは完全に別物になる。ウォレットの場合に必要なのは、

・秘密鍵(Private Key)

・シードフレーズ(復元入力)

  の2つだ。これらが分からなければ、資産へのアクセスは永遠に不可能となる。

プライベートウォレットは「秘密鍵=資産そのもの」であり、第三者による再発行もできない。

 暗号資産の相続は、取引所連絡・必要書類・残高証明書の取得といった一連の手続きに加え、取引所不明のケースや評価方法、さらにウォレット管理など実務的な注意点が多い。

誤った手続きは資産の喪失につながるおそれもあるため、早期に情報を集め、必要書類を整理し、専門家の助言を得ながら進めることが重要だ。暗号資産の相続はデジタル特有の複雑さがあるが、ポイントを押さえて進めることで、確実に承継することができる。

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会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。

税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。