最終更新日:2025-12-01

【暗号資産の低額譲渡で課税リスク】 時価より安く友人に売ると「利益ゼロ」でも税金が

  • 2025/12/03
  • 2025/12/01
【暗号資産の低額譲渡で課税リスク】 時価より安く友人に売ると「利益ゼロ」でも税金が

暗号資産を友人や知人に“安く譲る”ケースが増えている。実際の取引では利益がなくても、税務上は「時価で売った」とみなされ、課税されるリスクがある。特に**時価の70%未満での個人間取引**は、所得税法上の「低額譲渡」に該当し、想定外の課税につながる。市場価格が大きく変動する暗号資産では、知らないうちに課税対象となる可能性が高く、注意が必要だ。


暗号資産の低額譲渡が危険な理由

暗号資産を知人に好意で安く譲っただけ──本人の認識とは裏腹に、税務上は“利益がある取引”として扱われる可能性がある。所得税法40条は、棚卸資産などを著しく低い価額で譲渡した場合、**実際の取引額ではなく、時価で売ったものとして課税する**と定めている。暗号資産もこの規定の対象となるため、個人間売買でも税務上の扱いは厳格だ。

国税庁通達では「時価の70%未満」が低額譲渡とされており、無自覚にこのラインを下回るケースは少なくない。とりわけ市場の変動が激しい暗号資産は、数日で評価額が大きく動くため、意図せず課税対象になるリスクが高い。

時価の70%未満なら「贈与と同じ」とみなされる仕組み

所得税基本通達40-2では、対価が時価の70%未満の場合、著しく低額な譲渡=低額譲渡と定義している。実務上は次のように処理される。

・ 時価の70%相当額を“みなし収入”とする

・ その70%相当額と実際の受取額との差額を「実質的な贈与」と扱う

・ 実際の受取額に、この“贈与部分”を加算して所得税を計算する

 つまり、当事者の意図に関係なく「贈与+譲渡」が合体した特殊な取引として扱われる構造だ。

<計算例>

 取得価額:40万円

 譲渡価額:40万円

 譲渡時の時価:100万円

①時価100万円 × 70%=70万円

②実際の対価との差額:70万円-40万円=30万円

③税務上の収入金額=40万円+30万円=70万円

④所得金額=収入70万円-取得40万円=30万円

結果として、実際の取引では利益ゼロでも、30万円の所得が発生する。

暗号資産は短期間で急騰しやすいため、取得時より時価が跳ね上がった局面で「安く売ってあげる」という行為が、課税を誘発する典型パターンだ。

個人間の“善意の取引”も税務では容赦なく課税対象

暗号資産の個人間取引は、友人間の貸し借りや趣味の延長として行われることが多い。しかし、税務はその背景事情を問わない。

以下のようなケースも課税対象となる。

・ 友人・家族に取得価額で売った

・ 価格変動が激しいため売却額が時価より低くなった

・ 「お礼代わりに安くしておくよ」という値引き取引

・ 実質的に一部をプレゼントしたような取引

暗号資産の取引は透明性が高く、取引記録もブロックチェーンで残る。取引所の履歴も入手できるため、税務当局が実際の時価を把握することは容易だ。意図に反して「利益を申告していない」と判断されると、**無申告加算税・過少申告加算税・延滞税**などのペナルティが生じるリスクが高まる。

なぜ税務は低額譲渡を厳しく見るのか

背景には、暗号資産を利用した“隠れた財産移転”が増える懸念がある。もし時価より大幅に低い価額で自由に譲渡できれば、以下のような抜け道が成立してしまう。

・ 富裕層が親族に暗号資産を実質的に贈与する

・ 贈与税を回避し資産移転する

・ 取引利益をゼロに見せかけて所得税逃れをする

こうした行為を封じるため、所得税法40条と税務通達は厳格なルールを設けている。

特に暗号資産は国境を越えやすく、透明性の高さと匿名性の両方を併せ持つため、従来の資産よりも監視の必要性が高いとされる。

低額譲渡を避けるための実務ポイント

暗号資産の個人間売買は、次の点を確認しておく必要がある。

①「譲渡時点の時価」を必ず把握する

 ・ 取引所のチャート

・ その時点のスナップショット

・ 約定履歴

  これらで「客観的な時価」を記録しておくことが重要だ。

②時価の70%を下回らないようにする

税務上の安全圏は“70%以上”。値引きする場合でも、時価の70%を下回ると自動的に課税リスクが発生する。

③家族・友人との取引こそ慎重に

税務は「関係性」より「金額」で判断する。善意の値引きほどリスクが高いといえる。

④どうしても値引きするなら専門家に相談

贈与税が絡む可能性もあるため、税理士の確認を得ることが望ましい。

暗号資産は“価格変動のある財産”として扱われる

暗号資産の低額譲渡は、見た目の取引額と税務上の評価が大きくズレることがある。とりわけ市場が急上昇した局面では、取得価額で売っただけでも課税所得が発生する可能性が高い。税務ルールを正しく理解しておかないと、善意の取引が思わぬ納税負担につながりかねない。

暗号資産は新しい資産クラスではあるが、税務のロジックは「経済的利益の把握」というシンプルなものだ。取引の透明性が高いだけに、個人間取引でも油断は禁物だ。少額でも税務処理に迷った場合には、早めに専門家へ相談することが安全策になる。

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会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。

税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。