最終更新日:2026-01-19
相続税の「大衆化」が加速 課税割合10%超えの衝撃と“老老相続”時代の対策とは
- 2026/01/21
- 2026/01/19
相続税はもはや「一部の富裕層だけの税金」ではない。国税庁の最新統計によると、令和6年分の相続税課税割合は全国平均10.4%となり、統計開始以来初めて10%の大台を突破した。東京都では20.0%に達し、亡くなった人の5人に1人が申告対象となっている。地価・株価の高騰と基礎控除の引下げが重なり、相続税は完全に「大衆化」の時代へ突入した。さらに近年は「老老相続」による資産凍結リスクも深刻化しており、早期対策の重要性が高まっている。(編集長=宮口貴志)
国税庁は2025年12月16日、令和6年分(6年1月1日から6年12月31日までに亡くなった人で、7年10月31日までに提出された申告書が対象)の相続税の申告事績を公表した。6年中に亡くなった被相続人数は、前年分比1・9%増の160万5378人、このうち相続税額のある申告書を提出した被相続人数は、同7・1%増の16万6730人でいずれも過去最多だった。
課税割合は、高齢者の保有資産の増加や地価上昇、株価が高値で推移していることなどを背景に、同0・5ポイント増の10・4%で過去最高。課税価格も同8・1%増の23兆3846億円、申告税額は同8・0%増の3兆2446億円と、いずれも基礎控除額の引下げがあった平成27年分以降で最高となっている。
被相続人1人当たりの課税価格は、同1・0%増の1億4025万円と過去10年間で2番目に多く、被相続人1人当たりの申告税額は、同0・8%増の1946万円と過去10年間で最高だった。
相続税を納税する人が増えている
相続税の課税割合とは、1年間に亡くなった人(被相続人)の数に対して、相続税の申告書を提出した人の割合を示す指標だ。
この数字が上昇しているということは、「相続税を支払う義務が生じる人」が増えていることを意味する。かつて相続税は、地主や資産家など一部の富裕層が対象となる税金というイメージが強かった。しかし現在では、都市部に自宅を持つ一般的な会社員家庭であっても、相続税の申告が必要となるケースが珍しくなくなっている。
全国で初の10%台 バブル期を超える水準に
日本の相続税課税割合は、経済情勢と税制改正の影響を強く受けてきた。過去のピークは、バブル経済最盛期の昭和62年分の7.9%だ。その後、地価の下落とともに低下し、平成13年分から26年分までは4%台で推移していた。つまり当時は「100人に4〜5人」が対象となる税金だった。
転機となったのが、平成27年1月の税制改正である。
基礎控除額が
「5,000万円+1,000万円×法定相続人数」
→ 「3,000万円+600万円×法定相続人数」
へと約4割も引き下げられた。
この改正により課税割合は一気に8.0%へ上昇。その後も株価上昇と都市部の不動産価格高騰が追い風となり、令和6年分で10.4%と、初の2桁台に到達した。
東京は20% 5人に1人が相続税の対象
都道府県別に見ると、地域差は極めて大きい。
最も高いのは東京都の20.0%。愛知県16.2%、神奈川県15.5%が続く。
全国平均では「10人に1人」が相続税の申告対象だが、東京都では「5人に1人」が対象となる計算だ。
東京都でこれほど課税割合が高い背景には、相続財産の構成がある。都市部では土地の評価額が高く、さらに金融資産を保有する層も厚い。近年のマンション価格高騰や株価上昇が、そのまま相続財産の評価額を押し上げ、基礎控除を容易に超えてしまう構造となっている。
一方、最も低いのは青森県の3.5%。東京都との差は約6倍に及ぶ。相続税は全国一律の税制だが、地価格差がそのまま「課税されるか否か」の格差となって表れている。
深刻化する「老老相続」と認知症リスク
課税対象者が増える中で、現代特有の課題となっているのが「老老相続」だ。高齢の親から高齢の子や配偶者が相続するケースが急増している。
最大のリスクは、認知症による資産凍結である。被相続人が認知症を発症すれば、生前贈与や不動産売却などの対策が一切できなくなる。さらに相続人が認知症であれば、遺産分割協議が成立せず、成年後見制度の利用が必要となり、相続手続きが長期化・複雑化する恐れがある。
相続税の「大衆化」と「高齢化社会」が重なり、相続は単なる税務問題を超えた社会問題となりつつある。
注意すべき相続対策のポイント
相続税の対象となる可能性が高まった今、以下の点を意識した早期対策が重要となる。
- 小規模宅地等の特例の活用検討
自宅の土地の評価額を最大80%減額できる強力な特例だが、「同居」などの厳しい要件がある。老老相続で子が別居している場合、適用できないケースも多く、事前確認が不可欠だ。
- 生前贈与ルールの変更への対応
令和6年以降、生前贈与が相続財産に加算される期間は「死亡前3年」から「7年」へと段階的に延長されている。より早い段階からの計画的な贈与が求められる。
- 遺言書と家族信託の活用
老老相続による資産凍結を防ぐため、遺言書の作成や、信頼できる家族に財産管理を託す「家族信託」の活用を検討すべきだ。
令和7年分も上昇見通し 相続税は「誰の問題」か
2024年以降も地価の上昇基調は続いている。資産価格の動向を踏まえると、令和7年分の課税割合はさらに上昇する可能性が高い。
もはや「うちは富裕層ではないから関係ない」という理屈は通用しない。都市部に不動産を所有しているだけで、相続税の申告対象となるケースは急増している。
相続税の申告期限は10カ月。
課税割合が10%を超えた今、相続は「万が一」ではなく、「必ず来るライフイベント」として備えるべき時代に入ったと言える。
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税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。



