最終更新日:2025-11-21
相続・贈与で暗号資産を取得したら税金はどうなる? 暗号資産の相続税・贈与税の仕組みと評価方法【2025年版】
- 2025/11/21
ビットコインやイーサリアムなど暗号資産(仮想通貨)を相続や贈与で取得した場合、税金はどう扱われるのか──2025年以降、暗号資産を保有する個人が急増し、相続税・贈与税の申告漏れが懸念されている。暗号資産は法律上「財産的価値を持つ資産」と位置づけられており、相続財産として評価されるため課税対象となる。基礎控除を超えた場合は申告が必要で、暗号資産特有の価格変動や海外取引所利用が税務リスクを高める。本稿では、制度上の位置づけ、課税根拠、評価方法、実務で注意すべき点を整理する。
暗号資産は相続税・贈与税の課税対象
暗号資産を相続または贈与によって取得した場合、原則として相続税または贈与税の課税対象となる。理由は明快で、暗号資産が「金銭に見積もることができる経済的価値のある財産」と法律上認定されているためだ。相続税法は、経済的価値を有するすべての財産を課税対象とする広い概念を採用しており、その範囲には暗号資産も当然に含まれる。
相続税法第2条は「相続、遺贈により取得した財産で、金銭に見積もることができるすべての経済的価値」を課税対象と規定する。また、贈与税についても同法第2条の2が同様の定めを置く。暗号資産は資金決済法第2条第5項で「財産的価値」を有するものとして定義され、市場で売買され価格が形成されている以上、この要件を満たすことは明らかだ。
相続なら基礎控除を超えると申告が必要
暗号資産を含む相続財産の総額が、基礎控除額を超える場合には相続税申告が必要になる。基礎控除額は次の算式で定められる。
3千万円+600万円 × 法定相続人の数
例えば、法定相続人が2人の場合の基礎控除額は4200万円になる。預貯金、不動産、有価証券などに暗号資産を加えた総額がこの基準を超えると申告義務が発生する。
暗号資産の価格は相続開始時(被相続人の死亡時点)の市場価格で評価する。取引所のレートを基準とするが、複数の銘柄やウォレットに分散されている場合、正確な把握と評価が必要になる。取引履歴が散逸しているケースも多いため、相続人が速やかに情報を取得できる体制が重要だ。
<暗号資産の相続税評価フロー>
① 暗号資産の種類を確認(BTC / ETH / アルトコイン etc)
↓
② 取引所・ウォレット残高を把握(ログイン情報必須)
↓
③ 相続開始時点の市場価格で評価(国内取引所のレート)
↓
④ 他の財産と合算して基礎控除額と比較
↓
⑤ 控除超え → 相続税申告が必要
贈与なら年間110万円超で課税対象
1年間(1月1日〜12月31日)に受け取った財産の合計額が110万円を超える場合、贈与税が課される。暗号資産も他の財産と同様に合算する必要がある。
暗号資産は少額であっても価格変動が大きく、贈与時点の評価額が基礎控除を超えることがあるため注意が必要だ。特に親子間で「少額だから問題ないはず」と誤解されやすいが、贈与時の市場価格で評価されるため、贈与直前の相場急騰が課税要件に影響を及ぼしうる。
<贈与税の課税基準>
1年間にもらった財産の合計は、
「暗号資産の評価額」+「現金の贈与」+「その他の財産」=110万円超で贈与税の申告が必要
暗号資産ならではの実務上の注意点
1. ウォレットや取引所の情報管理
暗号資産の保有状況は預貯金のように「通帳」で残高が分かるわけではない。相続人が必要な情報を把握できなければ評価も申告もできず、相続手続きが停滞する。ウォレットのアドレス、取引所のアカウント情報、秘密鍵の管理体制など、被相続人の生前からの情報整理が重要だ。
2. 複数の銘柄を保有している場合
ビットコイン、イーサリアム、その他アルトコインなど複数銘柄を持つ場合は、それぞれ相続開始時点のレートで評価する必要がある。取引所をまたいだ売買履歴が複雑な場合、評価作業に時間を要する。
3. 海外取引所の資産
海外取引所で保有していた暗号資産も、当然ながら相続税・贈与税の評価対象だ。税務署に対して正確な情報開示が求められるため、ログイン情報や取引記録の把握が不可欠だ。
4. 相場変動リスク
申告時点の価格ではなく、相続開始時点または贈与時点の価格で評価するため、時間差による大きな価格変動が実務負担を大きくする。相場が大きく変動する局面では、評価額の算定に特に注意が必要だ。
<暗号資産ならではの実務リスク>
1. 秘密鍵・アカウントがないと資産が消える
ウォレットの鍵が分からなければ評価も相続もできない。
「資産は存在するのに相続人がアクセスできない」という事例が増えている。
2. 海外取引所の資産も課税対象
国内税務署は海外取引所の資産も把握する必要があるため、ログイン情報の管理が必須だ。
3. 価格変動による評価の難しさ
相続開始日の価格が基準になるため、日中の変動が激しい場合には適切な基準値を採用する必要がある。
4. NFTはどう扱う?
NFTも「経済的価値のあるデジタル資産」と解釈されるため、取得すれば課税対象になる。
評価方法の確立が進んでいないため、専門的判断が不可欠だ。
どのような場合に税務相談が必要か
暗号資産は、従来の財産と比べて「所在の把握」「評価」「取引履歴の確認」が一段と難しく、申告漏れが発生するリスクが高い。相続財産全体の評価に影響を与える金額に達することも多いため、以下に該当する場合は専門家への相談が望ましい。
・ 複数の暗号資産を保有していた
・ 海外取引所を利用していた
・ 生前贈与として暗号資産を受け取っていた
・ 取引履歴が長期間にわたり把握しきれない
・ 遺族が暗号資産の操作に不慣れ
制度上の位置付けは明確であり、暗号資産は相続税・贈与税の対象となる財産であることは疑いない。しかし、実務の難易度は高く、取扱いを誤ると申告漏れだけでなく追徴課税につながるおそれがある。
暗号資産は法律上「財産的価値」を持つ資産であり、相続・贈与によって取得した場合には他の財産と同様に相続税・贈与税の課税対象となる。相続では基礎控除額、贈与では年間110万円を超えた場合に申告義務が生じる。
価格変動の大きさや取引履歴の複雑さから、従来資産より実務負担が大きい点も特徴であり、早期の情報整理と専門家の関与が重要だ。
クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。



