最終更新日:2025-09-17

国交省の令和8年度税制改正要望に注目 住宅ローン減税が見直さる!?

  • 2025/09/19
  • 2025/09/17
国交省の令和8年度税制改正要望に注目 住宅ローン減税が見直さる!?

国土交通省はさきごろ令和8年度税制改正の要望を公表し、その主要項目の一つに「住宅ローン減税等の住宅取得等促進策に係る所要の措置」を掲げた。近年の資材価格高騰や金利上昇により、住宅取得者の負担が増加する中、子育て世帯や若者世帯の住宅取得を強力に後押しするため、現行の減税制度の見直しや拡充が検討される見通しだ。年末に向けた議論の行方は、住宅市場に大きな影響を与えると注目されている。


  2025年8月26日、国土交通省(国交省)が令和8年度税制改正に関する要望事項を公表した。31ページに及ぶ資料の冒頭には「豊かな暮らしの実現と個性をいかした地域づくり」が掲げられ、その第一の柱として「住まいの質の向上、無理のない負担での住宅の確保」が挙げられている。その中で最も注目されるのが、国民の住生活に直結する「住宅ローン減税等の住宅取得等促進策に係る所要の措置」だ。これは、住宅取得を考えている多くの国民にとって、極めて重要な意味を持つ。

住宅ローン減税は、住宅を取得する際のローン金利負担を軽減し、国民の住宅取得を支援する目的で導入された制度だ。現行の制度では、借入金の年末残高の0.7%を所得税から控除する仕組みが、新築住宅や買取再販住宅では原則として13年間適用される。しかし、この制度は常に社会経済情勢の変化に応じて見直しが重ねられてきた。今回の国交省の要望は、まさにそうした現状に対応したものと言える。

背景には、近年顕著となっている建築資材価格や労務費の高騰がある。住宅価格は上昇の一途をたどり、住宅ローンを組む世帯の負担は増大している。さらに、日本銀行の金融政策変更に伴う金利上昇の兆しも見られ、住宅取得者の負担はさらに増すことが懸念されている。こうした状況下で、住宅ローン減税の現行の控除率や借入限度額が果たして十分な効果を発揮できるのかが問われている。

国交省の要望は、このような厳しい市場環境を考慮し、住宅取得の意欲が減退しないよう、何らかの形で減税効果を維持・強化しようとする意図が読み取れる。特に、若年層や子育て世帯の住宅取得を促すことは、少子化対策や人口減少に歯止めをかける上でも喫緊の課題とされており、これらの世帯に対する優遇措置が拡充される可能性が高い。具体的には、所得制限の緩和や、子どもの数に応じた控除額の上乗せ、または控除期間の延長などが、今後の議論の焦点となるだろう。

また、今回の要望は住宅ローン減税だけに留まらない。関連する複数の税制優遇措置の「延長」や「拡充」が同時に求められている。例えば、

・新築住宅に係る固定資産税の減額措置の延長

・認定長期優良住宅に係る特例措置の延長(不動産取得税・固定資産税)

・既存住宅のリフォームに係る特例措置の延長(所得税・固定資産税)

などだ。

これらは、単に新しい家を建てることだけを奨励するのではなく、既存のストックを有効活用し、住宅全体の質を向上させるという、国の住宅政策の方向性を示している。

特に、老朽化が進むマンションの再生を円滑化するための特例措置の拡充も要望に含まれており、これは、今後深刻化が予想されるマンションの老朽化問題への対応を税制面から支援しようとするものだ。これらの要望は、住宅ローン減税と合わせて、国民がより質の高い住宅を無理のない負担で確保できるよう、包括的な支援を目指していることがうかがえる。

さらに、住宅ローン減税には、省エネルギー性能の高い住宅の普及を促す役割も期待されている。日本では「2050年カーボンニュートラル」の実現が国の目標とされており、住宅部門の省エネ化は不可欠だ。現行制度では、住宅の省エネ性能に応じて借入限度額が上乗せされる仕組みがあるが、今後はさらにこの要件を厳格化し、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準を超える高性能住宅への誘導を強める可能性も考えられる。これは、住宅購入者が環境に配慮した選択をするインセンティブとなり、住宅市場全体のエコ化を加速させるだろう。

今回の国交省の要望は、あくまで年末の税制改正大綱に向けた「出発点」である。最終的な制度改正は、年末に自民・公明両党の税制調査会で議論され、決定される。そこでは、要望された項目の実現可能性や、他省庁の要望との兼ね合いが慎重に検討されることになる。金利動向、資材価格の推移、そして住宅市場の活況を保つための政策的判断が、複雑に絡み合う。

「住宅ローン減税」は、単なる減税策ではなく、住宅市場の活性化、少子化対策、そしてカーボンニュートラル社会の実現という、複数の国家目標を達成するための重要なツール。国交省の今回の要望が、今後の議論にどう反映され、どのような形で最終的に結実するのか、住宅取得を検討している人々はもちろん、不動産・建築業界全体が、年末の税制改正論議の行方を固唾をのんで見守っている。

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会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。

税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。