最終更新日:2025-09-16

厚労省 令和8年度税制改正で企業年金特別法人税の「撤廃」を要望  老後資産に影響か

  • 2025/09/20
  • 2025/09/16
厚労省 令和8年度税制改正で企業年金特別法人税の「撤廃」を要望  老後資産に影響か

厚生労働省が令和8年度税制改正要望を公表したが、その中で企業年金等の積立金に課税される特別法人税の「撤廃または課税停止措置の延長」を要望し、注目されている。現在、課税は停止されているが、もし復活すれば企業にとって年間数百万円規模の税負担となり、従業員の老後生活を支える企業年金制度の維持が難しくなる恐れがある。企業の福利厚生や人材確保に直結する重要なポイントとして、今後の動向が注目される。


厚生労働省(厚労省)このほど、令和8年度税制改正要望を公表したが、医療機関や企業経営に深く関わる複数の改正項目が注目を集めている。

特に多くの企業や従業員の関心を集めているのが、「企業年金等の積立金に対する特別法人税の撤廃又は課税停止措置の延長」に関する要望だ。同改正は、企業の安定経営はもとより、働く人々の老後生活設計に直接的な影響を及ぼす恐れがあるからだ。

特別法人税とは、企業が従業員の老後生活のために積み立てている年金資産に対して課される税金のことだ。

具体的には、企業年金の積立金に対し、年間1.173%の税率で課税される仕組み。同税制は、低金利時代における税収確保策として導入された経緯がある。しかし、金利が低迷し、年金積立金の運用収益が伸び悩む状況が続いたため、企業の負担を軽減する目的で、1999年度からその課税が停止されてきた。以来、幾度も課税停止措置が延長され、現在に至っている。

しかし、これはあくまで「停止」であり、「撤廃」されたわけではない。もし課税停止措置が終了し、特別法人税の課税が再開されれば、企業にとっては大きな負担増となる。企業年金は、国の公的年金制度を補完する役割を担っており、従業員の老後の安心を守る上で極めて重要な制度だ。特別法人税の復活は、この制度の基盤を揺るがしかねない事態を招く恐れがある。

課税復活が企業と従業員にもたらす影響

もし特別法人税の課税が復活した場合、企業はどのような対応を迫られるのだろうか。提供された中規模の医療法人の事例を考えてみよう。この法人は、職員の定着と安心のために「確定給付企業年金」を導入していた。この年金制度は、将来の給付額があらかじめ決まっているため、企業は安定した積立運用が求められる。

しかし、特別法人税が復活すれば、この法人は毎年数百万円規模の税負担を新たに背負うことになる。これは、人件費や事業運営費を圧迫する深刻な問題だ。経営者は、この新たな負担を吸収するため、苦渋の選択を迫られることになる。

例えば、「退職金規程を見直して制度を縮小する」ことや、企業が運用リスクを負わない「企業型確定拠出年金」へ移行することなどだ。いずれの選択肢も、従業員にとっての「老後の安心」という福利厚生のメリットを大きく損なうことになりかねない。

また、企業の視点から見ると、手厚い福利厚生は優秀な人材を惹きつけ、定着させるための重要な武器だ。もし、企業年金制度が縮小されたり、給付額が不安定になったりすれば、企業の魅力が低下し、人材確保競争で不利になる可能性がある。特に、近年は「退職後の生活」に対する関心が高まっており、企業年金制度の充実は、採用活動における強力なアピールポイントとなっている。

厚労省の要望が示す狙い

こうした背景から、厚労省は今回、特別法人税の「撤廃」を第一に掲げつつ、「課税停止措置の延長」を代替案として要望している。これは、不安定な経済状況や社会情勢の中で、企業年金制度が健全に機能し続けるための環境を整備したいという、厚労省の強い意志の表れと言える。

少子高齢化が急速に進む日本では、公的年金制度だけでは十分な老後生活を送ることが困難になるという懸念が広がっている。だからこそ、企業が提供する年金制度の役割は今後ますます重要になる。厚労省の要望は、企業が従業員のための積立を安心して継続できるような恒久的な制度を求めているものだ。課税の「撤廃」が実現すれば、企業は将来的な税負担の不確実性から解放され、より長期的な視点で年金制度を設計・運用できるようになる。

今後の展望と企業の対応

今回の厚労省の要望は、まだ議論の出発点に過ぎない。年末に向け、与党の税制調査会で本格的な議論が行われることになる。ここでは、厚労省の要望のほか、財務省や他の省庁の要望、さらには国の財政状況も考慮され、最終的な税制改正大綱が決定される。

企業は、この動向を注視し、今後の労務管理や退職金制度の在り方を慎重に検討していく必要がある。特別法人税の課税停止が延長されるのか、あるいはついに撤廃されるのか。その結果次第では、既存の退職金規程や年金制度の見直しが不可避となる。従業員の老後の安心と、企業の持続的な成長。その両立を図る上で、今回の税制改正要望がどのような結末を迎えるのか、今後の議論から目が離せない。

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会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。

税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。