最終更新日:2026-02-18
教育資金の一括贈与は2026年3月で終了 1,500万円非課税のラストチャンス
- 2026/02/19
- 2026/02/18
祖父母や親が子・孫に教育資金をまとめて贈与できる「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」が、令和8年3月31日で終了する。最大1500万円まで非課税となる本制度は、平成25年の創設以来、世代間の資産移転策として活用されてきた。もっとも、所得制限や使い残しへの課税などの注意点も多い。期限直前の駆け込み利用が想定される中、制度の仕組みと実務上の留意点を整理する。
「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」は、直系尊属から子や孫などへ教育資金を一括で贈与する場合に、受贈者1人当たり最大1500万円まで贈与税が非課税になる制度だ。平成25年の創設以来、進学費用の確保や世代間の資産移転の促進策として利用されてきた。本制度の適用期限は令和8年3月31日であり、令和5年度税制改正によって相続税・贈与税上の取扱いも見直された。
本制度の適用を受けるには、次の3つの要件を満たす必要がある。
①贈与者(資金拠出者)・・・直系尊属(父母・祖父母など)であること。
②受贈者(資金を受け取る子・孫)・・・30歳未満であること。前年の合計所得金額が1千万円を超える場合は適用外。
③教育資金管理契約を締結・・・信託銀行等との信託契約、専用口座への預入、有価証券購入等の形で資金管理を行い、所定の申告書を税務署に提出すること。
教育資金として認められる費目は、学校等に直接支払う費用(入学金、授業料、修学旅行費等)のほか、学校等以外での教育サービス費用(進学塾、習い事、通学定期代等)があるが、後者は500万円が上限だ。個別の費目については金融機関・税務署で確認する必要がある。
令和5年度税制改正で3年延長
令和5年度税制改正では、制度の適用期限が3年間延長されるとともに、次の2点が改正された。
① 相続税課税価格5億円超の場合の相続取扱い
従来、贈与者が死亡した場合でも、一定要件(受贈者が23歳未満である等)を満たせば教育資金管理口座の残額は相続税の課税対象とならなかった。
これに対し、令和5年度改正では、「贈与者の相続税課税価格の合計額が5億円を超える場合には、受贈者が23歳未満である場合等であっても、教育資金管理口座の管理残額(非課税拠出額から支出額を控除した残額)は、受贈者が贈与者から相続等により取得したものとみなすとされた。
言い換えれば、教育資金管理口座の残高がある場合、富裕層では教育資金口座がそのまま相続財産として扱われる可能性がある。
② 契約終了時の贈与税取扱い(一般税率適用)
教育資金管理契約の終了時に、次の計算式で残額が生じた場合、
「非課税拠出額」−「教育資金支出額」>(さらに相続等で取得したものとみなされた残額も控除)の残額に対して、暦年課税の一般税率を適用することとされた。
これは、これまでイメージとして「制度は非課税枠内なので出口の税負担は軽い」と考えられていたことを否定する改正である。出口で一般税率が適用されると、税率は最大55%になる場合もあり、残額が大きいと高い税負担を招く。
利用上の注意点と実務上の落とし穴
<受贈者の所得制限>
受贈者本人が前年度の合計所得金額1千万円を超える場合は、本制度の適用を受けられない。これは、制度趣旨が教育費の負担軽減にあることから、広く富裕層にも恩恵が行き渡ることへの抑制策と解釈できる。
高所得の社会人学生を受贈者とする場合、事前に所得状況を確認する必要がある。
<利用可能な教育費目の確認>
国税庁パンフレットには教育費として認められる費目が列挙されているが、実務では費目解釈の相違や証憑のフォーマット要件等でトラブルが生じる場合がある。
例示された費目の範囲は広いが、習い事の費用が教育費と認められるか否かは個別判断の余地がある。金融機関窓口での事前相談と税務署への照会が望ましい。
<領収書等の不備リスク>
教育資金払い出しは、原則として領収書等の提示を前提として行う。このため、「領収書に取引年月日がない」「名義が受贈者本人でない」「支払先が教育機関として不明瞭」といった領収証の不備があると、非課税対象とは認められない可能性がある。
特に海外留学費用やオンライン教育サービス等、デジタル決済主体の教育費項目で不備が起こりやすいとされている。
<30歳時点での残額課税リスク>
受贈者が30歳に達した時点で未支出の管理残額がある場合、その残額は贈与税の課税対象となる。これは出口リスクとして最大の課税論点である。多額の資金が残存する可能性がある場合、教育費の支出見込みを慎重にシミュレーションすることが不可欠だ。
教育資金贈与制度活用での注意点
国税庁パンフレットや現行運用を踏まえた問題点をまとめる以下を指摘する声が少なくない。
①「教育費以外の使用」リスクが曖昧
制度趣旨は教育費の確保であるにもかかわらず、実務上は学校費用と学校外費用の線引きや証憑の判断基準が曖昧な面がある。習い事や通信教育が教育費として認められるか否かは、費目によって解釈が異なる場合がある。税務当局のガイドラインが詳細でないため、金融機関の審査結果に依存しやすい。
②「相続時の課税」不透明感
令和5年度改正で、相続税課税価格5億円超のケースでは相続税対象になる可能性が明示された。だが、相続税課税価格の判定基準となる「課税価格合計額」の計算方法には複雑さがあり、実務上は相続財産評価の専門判断が必要になる。
③出口課税の不確実性
制度終了時や受贈者30歳時点で残額がある場合の税負担の重さが明らかになるにつれて、制度のメリットが薄れる可能性がある。そもそも非課税枠を目一杯活用した後の出口戦略が立てにくいという構造的な問題が存在する。
こうしたとこを踏まえて、実務的には以下のように進めることでリスクを抑えられる。
ステップ1・・・申込期限の逆算
制度の法定期限は令和8年3月31日だが、金融機関での契約締結・申請から拠出完了までに要する時間を考えると、実質的な申込期限は2月中だ。繁忙期には早期予約や書類審査の時間が必要となる。
ステップ2・・・書類準備と証憑整備
戸籍謄本、住民票、所得証明のほか、教育費支出時の領収書等は「税務署の要件を満たす形式」で保管する必要がある。特に国税当局は、領収書の取引年月日や支払目的が明確であることを要求している。
ステップ3・・・教育費見込みと出口戦略
教育費は、進学先・進路の変化など将来の不確実性が高い。教育費支出の時期・金額を精緻にシミュレーションし、出口課税リスクまで踏まえた上で拠出額を判断する必要がある。単純に「非課税枠1500万円を使い切る」という発想は合理的ではない。
期限延長と同時に制度のリスクは強化
教育資金の一括贈与非課税制度は令和8年3月で終了する。令和5年度税制改正により、相続税5億円超ルールと一般税率による出口課税の明確化が制度に組み込まれたため、制度の利用に当たってはこれまで以上に慎重なシミュレーションが求められる。
制度そのものの趣旨は有効だが、実務上は問題点や出口リスクが顕在化している。適用期限だけに目を奪われず、相続税・贈与税全体を見据えた戦略的判断が不可欠な制度設計である。
クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。



