最終更新日:2026-03-12

【2026年4月】働く高齢者の年金カット緩和へ 在職老齢年金「65万円基準」に引き上げ

  • 2026/03/14
  • 2026/03/12
【2026年4月】働く高齢者の年金カット緩和へ 在職老齢年金「65万円基準」に引き上げ

働きながら年金を受給する高齢者の年金額を調整する「在職老齢年金制度」が、2026年(令和8年)4月から見直される。給与と老齢厚生年金の合計額が一定額を超えると年金が減額される仕組みだが、この基準額が現行の月額51万円から65万円へと引き上げられる。これにより、働く高齢者の年金カットが緩和され、一定の収入水準までであれば年金を満額受給できるケースが増える見込みだ。一方で、給与と年金を同時に受け取る場合の税制上の控除の優遇が拡大することを受け、令和8年度税制改正では「給与所得控除と公的年金等控除の合計280万円上限」が新設される。制度改正の背景と影響を整理する。


在職老齢年金制度とは、働きながら老齢厚生年金を受給する場合、一定以上の収入があると年金の一部が支給停止される仕組み。対象は「老齢厚生年金」であり、老齢基礎年金は減額の対象ではない。制度の目的は、現役世代と高齢世代のバランスを保つことや、年金制度の持続可能性を確保することにある。調整の基準となるのは

給与(総報酬月額相当額)+老齢厚生年金月額

の合計額だ。この合計額が「基準額」を超えると、超えた部分の半額が年金から支給停止される仕組み。支給停止額は月単位で計算される。

2026年4月から基準額は51万円→65万円へ

2026年4月から、この基準額が月額51万円→月額65万円へ引き上げられる。同見直しは、2024年6月に成立した年金制度改正法に基づくもの。高齢者の就労拡大が進む中、現行制度では「働くほど年金が減る」という仕組みが就労意欲を削ぐとの指摘が強かった。

政府はこれを受け、年金減額の基準を引き上げることで、働く高齢者の就労を後押しする狙い。それでは具体例を示して、年金停止はどう変わるのか考えてみる。

例えば、次のケース。

月の給与:46万円

老齢厚生年金:10万円

給与と年金の合計は56万円

改正前(基準額51万円)

56万円−51万円=5万円

この超過額の半額である

2万5000円

が年金支給停止となる。

つまり、受け取れる年金は

7万5000円

となる。

改正後(基準額65万円)

合計56万円は基準額65万円を下回る

そのため支給停止は発生しないことになる。

つまり

年金10万円を満額受給できることになる。

このように、基準額の引き上げにより、働く高齢者の年金カットが大幅に緩和される。

就労高齢者は今後さらに増えることに期待

今回の見直しの背景には、高齢者の就労拡大を期待するもの。総務省統計などによると、65歳以上の就業者数は年々増加している。人手不足が深刻化する中、高齢者の労働力は日本経済にとって重要な存在となっている。

しかし、在職老齢年金制度は「長年働くと年金が減る制度」として批判されてきた。

特に企業側からは「高齢者雇用を促進しにくい」「就労意欲を下げる」といった問題が指摘されてきた。

今回の基準額引き上げは、こうした問題に対応するための政策でもある。

ただ、同制度改正により別の問題も浮上する。それは税制上の控除の差だ。

給与と年金を同時に受け取る場合

・給与所得控除

・公的年金等控除

の2つの控除が適用される。

一方、給与のみの人は

給与所得控除のみである。つまり、同じ収入水準でも

「給与」+「年金の人」の方が税制上有利になる可能性がある。

在職老齢年金制度の緩和により、こうしたケースが今後増えると見込まれている。

税制改正で「控除280万円上限」導入へ

同問題への対応として、令和8年度税制改正では、

「給与所得控除」+「公的年金等控除」の合計額に280万円の上限

を設けることとなった。

同措置は、2027年分(令和9年分)以後の所得税から適用される予定だ。

例えば、65歳以上で

年金収入:200万円

給与収入:630万円

の場合を考える。

この場合

給与所得控除:約170万円

公的年金等控除:110万円

となり、合計 280万円となる。

これ以上収入が増えても、控除額は増えない仕組みとなる。

年金制度改革と税制改正の連動

今回の税制措置は、年金制度改正と連動している。実は令和7年度税制改正大綱の時点で「在職老齢年金制度が見直された場合には税制対応を検討する」と記載されていた。

その後、実際に年金制度の見直しが決定したため、令和8年度税制改正で控除上限が導入されることになった。年金制度の変更が税制改正につながる典型例である。

今回の制度改正で重要なポイントは次の3つ。

①2026年4月:在職老齢年金の基準額65万円へ

年金減額の対象が縮小し、働く高齢者の年金受給額が増える。

高齢者就労の促進

企業の人手不足対策として、高齢者雇用の拡大が期待される。

③2027年以降:控除280万円上限

給与と年金を併せ持つ人の税制優遇を一定程度抑制する。

今回の改正は単なる年金制度の変更ではない。日本社会は急速な高齢化の中で「高齢者も働く社会」へと制度設計を変えるもの。在職老齢年金の見直しは、その象徴的な政策の一つだ。ただし、制度を緩和すれば税制の公平性の問題が生じる。そのため、税制改正で控除上限を設けるという調整が行われた。年金制度と税制は密接に連動しており、今後も制度改正が相互に影響し合う可能性は高い。働く高齢者が増える中、年金と税制の仕組みを理解することは、今後のライフプランを考える上でも重要なポイントとなるだろう。

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会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。

税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。