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    最終更新日:2022-08-10

    税務署は相続税調査で必ずココをチェック “妻のへそくり”は相続財産かも… 

    • 2022/08/09
    • 2022/08/10
    税務署は相続税調査で必ずココをチェック “妻のへそくり”は相続財産かも… 

    執筆者

    宮口 貴志

    宮口 貴志

    KaikeiBizline論説委員兼編集委員

    税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。現在は一般社団法人租税調査研究会の事務局長であり、会計事務所ウオッチャー、TAXジャーナリストとして活動。㈱ZEIKENメディアプラス代表取締役社長。

    税務調査になれば、8割以上の確率で税務署に非違を指摘される相続税。場合によっては、税のペナルティである「重加算税」を賦課されることもある。税の専門家の税理士も、相続税調査の立ち合いに慣れている人は少ない。それだけに、税務署が相続税調査でどこを厳しくチェックするのか、事前に情報収集しておくことも必要だ。

    税理士が立ち合っても約8割で非違が指摘

    一般的な会計事務所の年間相続税申告件数は、多くても5件前後。そのうち、相続税調査にまで発展するケースはほとんどないのが現状だ。一方で、税務署の調査官は、年間数十件もの相続税調査を行うほか、資産税畑なら一般の税理士とはまったく比較にならない調査件数を経験する。

    そのため、相続税調査になれば、税理士が調査立ち合いをしていたとしても、8割近い確率で非違を指摘し、追徴課税している。

    年の中途で相続が起きた場合、相続人(包括受遺者を含む。以下「相続人等」)が、1月1日から死亡した日までに確定した所得金額及び税額を計算し、相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内に準確定申告をする。4カ月を過ぎると加算税や延滞税が発生する。

     準確定申告が必要な場合は、

    ・給与収入が2千万円超

    ・給与所得、退職所得以外の所得の合計額が20万円を超える

    ・2か所以上から給与を得ている

    ・公的年金等による収入が400万円超

    ・公的年金等による収入が400万円以下だが、公的年金等による雑所得以外の所得金額が20万円超

    ・生命保険などの満期金や一時金を受け取っている

    ・土地や建物などを売却

    ・事業所得、不動産所得がある

    通常の確定申告と異なり、準確定申告は、相続人全員で行う。相続人が2人以上であれば、税務署に提出する「確定申告書付表」に相続人全員が連署する。連署できない場合は、各相続人が個別に申告することになるが、その際、他の相続人に申告内容を通知し、申告内容が異ならないようにしなければならない。

    相続税の申告事案のうち、税務調査の実地調査が行われる割合は約2割。つまり、単純計算で5人に1人の割合で税務調査が入る。

    実地調査があると、8割以上の割合で申告漏れなどの非違が指摘され、非違が指摘された中から、重加算税が賦課される確率は約1割超になる。

    必ずチェックされる「名義預金」「名義株」

    相続税調査は、相続税の申告から1年後に行われるが、現職時代は相続税調査を専門にやってきた国税OB税理士に話を聞くと、調査ポイントは「名義預金」「名義株」と指摘する。名義預金は、子どもや孫の名前で銀行口座を設け、そこに被相続人のお金の一部を預金しておくこと。名義株も同様に、子どもや孫の名前を使い株式を購入し、お金を払うのは被相続人というケースだ。

    税務調査官が他人名義の財産を、被相続人に帰属する財産と判断するポイントは、実質的に支配しているのは誰かという点。相続税などの国税は、一般的に実質の所有者や所得者に課税する実質課税主義を取っている。名義は誰であろうと、実質、被相続人に帰属する財産なら、相続財産として相続税の課税対象となるのだ。

    名義預金や名義株など他人名義の財産の帰属の判断ポイントについて、資産税部門だった国税OB税理士の話によれば、

    • 誰がその財産を管理・運用・支配しているか、
    • 利息や配当金などの法定果実を誰が受け取っているのか、
    • その財産の設定・取得の原資は誰が負担しているか、

    で判断すると言う。

    もう少し具体的に言えば、

    ・預金通帳、証書、届出印鑑、キャッシュカード等を誰が所持しているのか、通帳や印鑑を被相続人が保管しているときは預金口座に入金していたのは被相続人ではないか疑問を持たれる。

    ・その保管場所が、被相続人の自宅の金庫、被相続人の主宰法人の金庫、被相続人名義の貸金庫等であれば、被相続人の財産ではないか疑われる。

    ・預金通帳等の所持や保管の状況は相続開始時点ではどうだったのか、調査日現在はどうなのか

    ・預金や株式の取引の指示は誰が行っていたのか

    ・預金等の設定の原資、株式等の購入原資は誰が負担していたのか

    ・設定や購入の原資が被相続人の資金の場合は贈与が行われているか否か、贈与税の申告や納税を行っているか等が財産の帰属の判断のポイント。

    となる。

    誰が実質的に管理・支配していたか?

    相続税の税務調査では、被相続人の預金口座から高額な出金がある場合、必ずその使途を確認する。とくに、死亡の日前後の預金の引き出しは必ず確認する。

    調査担当者は、必要に応じて銀行等の反面調査も実施。預金や株式取引口座の開設申込書、払い出し請求書等の筆跡の確認、銀行や証券会社当の取引担当者の聞き取り調査を行う。これらの要素を総合的に分析し、財産が誰に帰属するのか判断する。

    このほか、相続人以外の「関係者」であっても、被相続人から「相続」または「遺贈」により、相続開始前3年以内に一定の財産の贈与を受けていれば、贈与税の申告とは別に相続税の課税価格にも加算され、相続税の申告が必要なこともある(相続税法19条)。この点についても調査官は申告漏れがないかをチェックする。

    また、相続税法第3条1項1号及び3号では、生命保険金や保険契約に関する権利等のうち被相続人が負担した保険料に対応する部分は、相続人以外の者が取得した場合は「遺贈」により取得したものとみなすとしているため、相続人以外の者が「遺贈」により生命保険金や保険契約に関する権利等を取得し、かつ、相続開始の前3年以内に当該被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、たとえ相続人でなくても相続開始の前3年以内の贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算する必要があるため、調査では細かく確認していくことになる。