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最終更新日:2021-03-07

中小企業の海外進出 どのような取引があると調査されるか

  • 2021/03/07
中小企業の海外進出どのような取引があると調査されるか

この数年、国税庁が力を入れている調査をご存知でしょうか。それは、「富裕層」「海外投資等を行っている個人」「無申告者」「インターネット取引を行っている個人」などです。

海外取引を行う富裕層の申告漏れ目立つ

その中でも、効果が眼に見える形で現れたのが「海外取引を行う富裕層」だ。国税庁が発表した2018年6月までの1年間に実施した所得税の税務調査結果でも「海外取引を行う富裕層」の1件当たりの申告漏額は3,119万円と、3千万円超の高額にのぼる。

海外舞台の租税回避に国税当局の眼が向けられる中、最近では中小企業の海外進出においても、税務署が監視の目を光らせている。従来は、国税局所管法人クラスが調査対象だったが、国税局と税務署での国際税務担当の人事交流も積極的に行われ、税務署所管法人でも海外取引に関する調査が行われている。

では、どのような企業が狙われやすいのだろうか。国際税務部門に在籍していた国税OB税理士の話では、幾つかポイントがあるようだ。

まずは、「国外関連者を有する法人」だ。グループ会社間では、取引価格を操作して利益を国外に移転することが容易に可能で、赤字の子会社を支援するために経済的利益を無償で供与する行為も行われるがちだ。中には、海外の関連会社を利用して、簿外資金や受注工作資金を捻出するといった不正行為もあるようだ。そのため、中小企業に対しても移転価格課税や国外関連者に対する寄附金課税が行われている。

次いで、「国外送金等調書が多い法人」だ。国外送金等調書は、国内から海外、またはその逆の送金が100万円を超えた場合に金融機関が税務署に提出する法定調書。国外送金等調書が多い法人は、タックスヘイブン国を使った租税回避が行われている可能性もあるためチェックされる。

「無申告者」「インターネット取引」も要注意

また、法人の代表者の個人口座に海外からの送金がある場合には、法人の収入に計上すべきもの、たとえば、海外取引に係るコミッションなど、個人口座へ入金させることにより、法人の収入から除外してないかが検討される。

このほか、海外への送金目的が「使用料」などで、「著作権」「工業所有権の使用料」「機械等のリース料」の支払いがあれば、源泉徴収が適切に行われているかもチェックされる。

勘定科目の内訳明細書の記載から、「外国企業に多額の買掛金や未払金が計上」「投資有価証券や出資金の欄に海外法人名が記載」「国外関連者への貸付金や借入金があり、受取利息や支払利息の額が適正と認められない」「海外法人からの借入金があり、利息を支払っているが、源泉所得税の納付が確認できない」「非居住者や外国法人から土地を購入したとの記載がある一方で、源泉所得税の納付が確認できない」「非居住者や外国法人に対して家賃の支払があるが、源泉所得税の納付が確認できない」などあれば、調査の俎上に上るようだ。

たとえば、「投資有価証券や出資金の欄に海外法人名が記載」されていれば、持株割合等から国外関連者かどうかをチェック。国外関連者に該当すれば、移転価格税制や国外関連者に対する寄附金の適用有無について検討される。もし、海外法人がタックスヘイブン国にあれば、タックスヘイブン対策税制の適用有無についても検討される。

また、国外関連者への貸付金や借入金があるものの、国外関連者に無利息または低い利率で貸し付けた場合や、逆に高い利率で金銭を借り入れた場合には、移転価格課税や寄附金課税の検討が行われる。

国際取引に関する税務調査は、多くの税理士がほとんど経験のない領域。まずは、国税当局が何をチェックしているのか、ポイントを押えておくことが重要になりそうだ。

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