最終更新日:2025-09-09

暗号資産の税務調査 質問は“全体像”から“詳細”へ

  • 2025/09/11
  • 2025/09/09
暗号資産の税務調査 質問は“全体像”から“詳細”へ

国税当局の事務年度は7月1日から翌年6月末。令和7年事務年度がスタートして2カ月が経過したが、暗号資産(仮想通貨)を保有する個人への税務調査が本格化している。国税当局は水面下で情報収集を進めており、ある日突然、税務署から「暗号資産取引についてお話を伺いたい」と連絡が来るケースが増えている。税務調査の連絡を受けた納税者が最も不安に思うのは、「調査官から一体どんなことを質問されるのか」ということだろう。国税出身税理士によると、調査官は事前に集めた情報をもとに、まず取引の全体像を把握するための質問から始め、その後、申告内容の正確性を検証するための具体的な質問へと段階的に進めていくという。


国税出身の税理士によると、税務調査の初期段階では、納税者の暗号資産取引に対する知識や申告内容の全体像を把握することが目的となる。この段階で想定される主な質問は以下の通り。

取引開始時期と目的

「いつから暗号資産取引を始めましたか?」「取引の主な目的は何でしたか?(例:長期投資、投機目的、決済手段としてなど)」 これは、納税者の取引スタイルや、利益がどのくらい見込まれるかを推測するための基礎的な質問だ。

利用している取引所

「どの暗号資産交換業者を利用していますか?国内、海外含めて全て教えてください」 税務署は、納税者が利用している取引所の情報を事前に把握していることが多い。しかし、ここで正直にすべての取引所名を答えることで、納税者が協力的な姿勢を見せていると判断される。

ウォレットの管理状況

「ご自身で管理されているウォレットはありますか?(例:MetaMask, Trezor, Ledgerなど)」 取引所からウォレットに暗号資産を移動させている場合、そのウォレットの中身まで調査対象となることを示唆している。

損益計算の方法

「年間の損益はどのように計算しましたか?」 納税者がどのようなツールや方法で計算したかを尋ねることで、計算ミスの可能性を探る。エクセルで手計算したのか、専門の計算ソフトを使ったのか、あるいは税理士に依頼したのかによって、申告内容の信頼性を測る目的もある。

これらの質問は、納税者の認識と、税務署が事前に把握している情報との間にズレがないかを確認するためのものだ。

調査の本番になると「申告内容の正確性」をチェック

全体像の把握が終わると、調査官はより具体的な取引内容へと質問を掘り下げていく。この段階では、申告漏れや計算ミスを特定することが主な目的となる。

申告漏れ取引の有無

「申告から漏れている取引所やウォレットはありませんか?」 これは、税務署がすでに把握している未申告の取引について、納税者自身に自白を促す質問だ。正直に申告すれば、追徴課税のペナルティが軽減される可能性がある。

個別の入出金に関する質問

「この〇〇交換業者への入金(または出金)は何の取引ですか?」 税務署は、銀行口座の履歴から、取引所への入出金を特定している。入出金の目的を質問することで、その取引が課税対象となる取引(例:売却)であったか、そうでないか(例:単なる資金移動)を確認する。

DeFi, NFT, ステーキングなど

「DeFi、NFT、レンディング、ステーキングなどの取引は行っていますか?」 これらの取引は損益計算が複雑で、納税者が申告を忘れているケースが多いため、重点的に質問される。例えば、DeFiで流動性を提供して受け取ったトークンや、ステーキングで得た報酬も所得となるため、その認識があるかどうかが問われる。

必要経費の内容

「必要経費として計上している〇〇費用の内容を説明してください」 暗号資産取引にかかった必要経費(PC購入費、書籍代など)を計上している場合、その詳細な内容や取引との関連性を尋ねられる。根拠となる領収書や明細の提示を求められることも多い。

ウォレット間の送金

「この個人間の送金(ウォレット間の移動)は何の目的ですか?」 ブロックチェーン上のデータは公開されているため、ウォレット間の送金履歴も税務署は把握している。それが売買なのか、単なる資金移動なのか、贈与なのかを明確に説明する必要がある。

調査に臨むための心構えと対策

税務調査に際しては、正直かつ正確に回答することが何よりも重要だ。税務署は、国税通則法第74条の2に基づく「質問検査権」を行使しており、正当な理由なく回答を拒んだり、虚偽の陳述をしたりすると罰則の対象となる可能性がある。

もし質問された内容について確信が持てない場合は、安易に答えるのではなく、「確認して後日回答します」と伝えるのが賢明だ。その場で慌てて誤った情報を伝えてしまうと、後の修正が難しくなる。また、税務調査の連絡を受けた時点で、すぐに暗号資産に詳しい税理士に相談することを強く推奨する。税理士は事前に納税者からヒアリングを行い、想定される質問に対する回答を準備してくれる。また、調査当日に納税者に代わって回答したり、同席してサポートしたりすることも可能だ。

暗号資産の税務は専門性が高く、自己判断で対応するには限界がある。適切な準備と専門家の助言を得ることで、税務調査という大きなプレッシャーに冷静に対応し、不必要な追徴課税やペナルティを回避することができるだろう。

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税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。