最終更新日:2025-09-30

税務署から電話でもビビるな!「税務調査」か「行政指導」かで雲泥の差が・・・

  • 2025/10/01
  • 2025/09/30
税務署から電話でもビビるな!「税務調査」か「行政指導」かで雲泥の差が・・・

企業経営にとって避けて通れない「税務調査」。調査官が来訪する調査を「実地調査」というが、税務調査となれば多くの経営者が緊張を覚えるだろう。しかし、税務調査は法律に基づく明確な手続きが存在し、納税者には対応すべき権利と義務がある。一方で、「行政指導」は法的拘束力を持たない“指導的行為”にとどまる。つまり、税務署から連絡があったからと言って、必ずしも「税務調査」とは限らないのだ。両者を混同しないことが重要になる。「税務調査」「行政指導」の違いに迫る。


税務調査は、国税通則法という法律に基づき、国税局や税務署の職員が納税者の申告内容を確認し、適正な課税を実現するために実施する。調査官は「質問検査権」を行使でき、帳簿や書類の閲覧、関係者への質問を通じて、課税標準や税額を認定する行為を行う。調査結果によって申告内容に誤りが見つかれば、更正や決定といった法的処分が下される可能性がある。

税務調査は「調査通知」からスタート

税務調査は、「調査通知」からはじまり「事前通知」「結果説明」まで、一定の手続きに則って行われる。税理士の中にも勘違いしている人がいるが、税務調査は「調査通知」からスタートする。「調査通知」と似たような名称に「事前通知」がある。「調査通知」は、平成23年税制改正により導入された。事前通知は手続きの透明性を確保する観点から11項目について納税者へ通知する。(改正前は法整備がされていなかった)

これに対し、「調査通知」は意図が異なる。平成28年税制改正により加算税の一部が改正された。同改正は、調査通知後から更正予知前について加算税の賦課割合を重くするといったものだ。この改正の意図は、当初申告により故意に過少申告を行い、万が一、事前通知を受けた場合にだけ修正申告を行うといった確信犯的な過少申告が防止するためだ。

では、なぜ税務調査は「事前通知」がスタートでなく、「調査通知」からなのかというと、調査通知で納税者に通知する項目は3項目のみでよい。これが「事前通知」だと11項目であるため、通知までに相応の時間がかかってしまい、修正申告提出の時間的余力を与え、過少申告加算税を賦課出来なくなってしまう。こうした事情から、調査を行うと決まれば、国税当局は電話等で納税者に「調査通知」を行い、その「事前通知」を行うのだ。

①調査通知

・実地調査を行う旨

・調査対象期間

・調査対象税目       

②事前通知

①実地調査を行う旨          

②調査対象期間     

③調査対象税目     

④調査開始日時     

⑤調査場所 

⑥調査目的 

⑦調査対象となる帳簿書類等         

⑧納税者の氏名、住所        

⑨調査を行う職員氏名・所属官署    

⑩日時・場所は変更が可能である旨 

⑪通知がされなかった事項についても非違が疑われる場合には調査が可能であること

③実地調査

税務調査官が訪問し、調査証を提示。帳簿や証憑の精査、現場確認、反面調査(取引先や金融機関への照会)などを実施。

調査結果の説明

誤りが認められる場合、修正申告を勧奨。これは行政指導の位置付けであり強制ではない。

⑤修正申告または更正処分

納税者が自主的に修正申告すれば加算税が軽減される場合あり。応じない場合は更正処分が行われる。

「質問検査権」の及ばない行政指導

一方、行政指導は「調査に該当しない行為」とされ、課税標準や税額を直接認定することを目的としない行為。たとえば、

  • 申告書に添付書類が不足しているため自主的に追加を求める場合
  • 記載ミスや転記誤りを指摘し、自発的な修正申告を促す場合
  • 税法解釈の誤りを案内し、必要に応じて修正を勧める場合

といった対応が挙げられる。

行政指導に基づき修正申告がなされても、それは「課税処分を予知したもの」とは扱われず、原則として過少申告加算税は課されない。ただし延滞税は発生し得るため注意が必要。

税務調査と行政指導の違いは、以下の通りだ。

項目税務調査行政指導
法的根拠国税通則法に基づく法律に基づかない行政上の行為
目的課税標準や税額の認定自発的な修正や資料提出の要請
権限質問検査権の行使が可能権限行使なし(任意協力ベース)
結果更正処分・決定に直結自主的修正申告の勧奨にとどまる
加算税誤りがあれば原則課される自主修正の場合は加算税が免除されるケースあり
(出典:KaikeiBizlne編集部で作成)

このように、「税務調査」は任意調査であるが、法的な強制力を伴う手続であるのに対し、「行政指導」はあくまで行政側の指導(助言)という点で大きく異なる。したがって、税務職員からの接触時には、それが調査か行政指導かを必ず確認することが肝要なのだ。

国税当局からの電話で納税者が注意すべきポイント

  1. 事前通知の有無を確認する
    調査か行政指導かによって対応は大きく変わる。通知を受けた場合は速やかに顧問税理士へ相談。
  2. 調査証の提示を求める
    実地調査時には調査証の提示が義務付けられている。提示がなければ調査に応じる必要はない。
  3. 修正申告は任意である
    修正の勧奨があっても強制ではなく、納税者の判断で提出の可否を決められる。
  4. 記録を残す
    税務職員とのやり取りは、日付・内容を記録しておくと、後のトラブル防止に有効だ。

税務調査と行政指導は、一見すると似たような場面で行われるため混同されがちだが、その法的効果は大きく異なる。調査は課税処分に直結する一方、行政指導はあくまで自主的な対応を促すものにとどまる。経営者にとって重要なのは、両者の違いを理解し、適切な対応を取ることだ。日頃から帳簿書類を正確に整備し、顧問税理士と連携して備えておくことが、調査に臨む最善の防御策となる。

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税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。