最終更新日:2025-12-10

0歳からの積立NISA 政府が新制度検討、年間60万円の非課税枠で子育て支援を強化

  • 2025/12/10
0歳からの積立NISA 政府が新制度検討、年間60万円の非課税枠で子育て支援を強化

政府・与党は、少額投資非課税制度(NISA)の対象を18歳未満へ拡大する方針を固めた。積立投資枠を0歳から利用可能とし、年間60万円・総額600万円まで非課税で投資できる仕組みとする。2026年度税制改正大綱に盛り込み、早ければ2027年にも開始する方向だ。子どもの将来資金形成を支援する一方、格差拡大の懸念や制度運用の課題も指摘されている。


12月9日に判明した政府・与党案では、投資信託を用いた長期積立を促す「つみたて投資枠」を、現行の18歳以上から18歳未満にも広げる。これは、子どもの教育費や将来資金づくりを早期から後押しすることを目的とする。

新制度の主な枠組みは以下のとおりだ。

・対象年齢 : 0歳〜17歳

・年間投資上限 : 60万円

・投資総額上限 : 600万円

・利用可能枠 : つみたて投資枠のみ(成長投資枠は不可)

・引き出しは12歳以上から可能(親の流用防止措置)

金融庁が定める現行NISAの大原則は、「長期・積立・分散投資の推進」であり、対象商品も手数料の低いインデックス型等に限定されている。今回の見直しはこの原則をそのまま未成年にも拡張するものだ。

2027年開始が視野 2026年度税制改正大綱に盛り込みへ

 政府・与党は、この制度を2026年度税制改正大綱に盛り込む方向で調整している。具体的には、2027年にも制度開始が見込まれる。

背景には、2024年1月のNISA抜本拡充(恒久化・非課税枠拡大)による利用者の急増がある。2025年6月末時点で、新NISA口座は約2700万口座に達した。

とりわけ利用が多いのは30〜50代の現役世代で、口座全体の約6割を占める。一方で、若年層や高齢者の利用率が伸び悩んでおり、政府が掲げる「2027年末までに3400万口座」という目標を達成するには、年齢層の裾野拡大が課題となっていた。

未成年へのNISA開放は、こうした口座開設率の偏りを是正し、制度の利用基盤を広げる意図もある。

子育て費用対策!? 学費負担を平準化する新たな選択肢

新制度が注目される理由の一つは、教育費負担の平準化だ。教育費は年齢とともに急激に増え、中学・高校段階で家計圧力が高まる。政府は、出生数減少が続く中で、子育て支援策を拡充する必要に迫られている。

今回の仕組みでは、「早期から長期で積み立て」→「運用益が非課税で再投資され」→「12歳以降に必要額を取り崩せる」という特徴がある。これは、大学進学直前にまとまった資金が必要になる従来の貯蓄構造を、より計画的な「長期積立型」に転換する狙いがある。また、金融庁の現行NISA制度の思想である「長期・積立・分散」に沿った資産形成を家庭にも広げる点で、資産形成教育にもつながる。

親の資金移転、格差固定化の懸念も指摘

未成年がNISAを利用する場合、投資資金の実質的な出し手は親や祖父母となるケースが多い。これにより、制度利用が集中する家庭とそうでない家庭の差が広がり、資産格差の固定化を招くとの懸念も指摘されている。

また、「名義だけ子ども、実質は親が管理する」「親名義の資金移転が贈与に該当しうるか」「引き出し時期の制限に対する運用実務」など、制度設計の詳細次第で税務上・法律上の論点が生じうる。

金融庁が掲げる「利用者本位の制度設計」を継続するには、制度開始までに、贈与税の扱い、資金管理方法、口座管理権限整理など、具体的なガイドライン提示が欠かせない。

資産形成の起点を「0歳」で普及拡大

政府は、新NISAを「国民の資産形成を支える最重要制度」と位置付けており、今回の未成年対象拡大はその戦略の延長線上にある。

特に、高齢化、収入の伸び悩み、物価上昇、社会保障負担の増加といった構造的要因を踏まえると、家庭単位での長期投資習慣の形成は、将来の自助努力を支える重要な政策テーマとなる。

未成年の投資解禁は、「親の世代が資産形成しながら、同時に子世代にも投資文化を広げる」という二重の効果を持つ。ただし、制度の趣旨が形骸化しないよう、金融教育や投資リテラシー向上の取り組みと一体で進める必要がある。

今回の制度見直しは、単なる年齢要件の引き下げではない。日本の家計に「早期からの長期積立」という行動変容を促し、将来世代の資産形成基盤を強化する狙いがある。一方で、資金提供者の偏りによる格差の固定化、贈与税の扱い、管理権限の整理など、慎重な制度設計が求められる。

2027年開始が現実味を帯びる中、政府・与党は税制改正大綱に向け議論を加速させる。利用者が安心して活用できる制度づくりが今後の焦点となる。

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税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。