最終更新日:2025-10-06

法人が保有する暗号資産の期末評価に落とし穴 令和6年度税制改正の影響も

  • 2025/10/07
  • 2025/10/06
法人が保有する暗号資産の期末評価に落とし穴 令和6年度税制改正の影響も

法人が投資目的で複数の暗号資産を保有するケースがある。決算期末が近づき、保有する暗号資産の市場価格が購入時と比べて大きく変動している場合、この評価損益(含み損益)について、決算および税務申告で何らかの処理を行う必要があるの事務処理的に迷いがちだ。企業はどのように対応すべきなの迫った。


 法人が決算期末に保有する暗号資産は原則、時価法による評価替えが求められる。法人税法第61条第2項に基づき、期末時点の時価との差額は「評価損益」としてその事業年度の益金または損金に算入される仕組みだ。

「活発な市場が存在する暗号資産」とは、継続的に価格情報が公表され、一定の数量と頻度で取引が行われている資産を指す。代表的なものとしては、ビットコインやイーサリアムなど主要暗号資産が該当する。

評価損益は実現していない含み益・含み損にあたるため、翌期首には洗替処理(反対仕訳)を行い、評価影響をリセットする必要がある。この処理を怠ると、翌期の損益が不正確となり、税務上の指摘を受けるリスクが高まる。

令和6年度税制改正で「評価例外」を明確化

2025年4月以降に終了する事業年度から適用される令和6年度税制改正では、暗号資産の期末評価に関する例外が拡充された。従来、自社発行のトークンなど一部に限られていた原価法評価が、新たに譲渡制限付きの市場資産にも適用可能となった。

主な対象は次の二つ。

① 特定自己発行暗号資産

法人が自ら発行し、発行時から継続して保有している暗号資産で、第三者への譲渡を制限しているもの。令和5年度改正で導入され、原価法による評価が認められている。譲渡制限には、技術的措置による移転不可設定や、信託財産としての拘束などが含まれる。これにより、実際に売却していないトークンに時価課税が生じる不合理を回避できる。

② 特定譲渡制限付暗号資産

令和6年度改正で新設された区分。発行法人以外の第三者が保有する暗号資産であっても、一定の譲渡制限があり、かつ認定資金決済事業者協会を通じて公表手続きを行っている場合に該当する。

この資産については、法人が「時価法」または「原価法」のいずれかを選択できる。選定は取得日の属する事業年度の確定申告期限までに税務署へ届出る必要がある。届出を怠った場合は自動的に原価法が適用される。

今回の改正により、法人は保有資産の性質を正確に分類し、評価方法を選定・届出する責任を負う。誤った区分や届出漏れは、税務調査で否認リスクを生む可能性がある。主な留意点は次の通りだ。

<評価方法の届出>

特定譲渡制限付暗号資産の場合、選定した評価法を税務署へ届け出る。変更する場合は事業年度開始前日までに再度申請が必要。

<帳簿価額の計算方法>

暗号資産の取得原価を算出する際は、「移動平均法」または「総平均法」のいずれかを選択し、申告期限までに届出を行う。

<みなし譲渡の処理>

資産区分の変更や譲渡制限の解除などにより、評価区分が変わる場合、譲渡があったものとみなして所得計算を行う必要がある。

<取引記録の整備>

取得日、数量、価格、取引所名などの情報を正確に管理・保存すること。税務調査では、時価評価の根拠を求められるケースが多い。

企業によっては、暗号資産を自社トークンの報酬や顧客インセンティブとして用いるケースもある。こうした取引が期末にどの区分に属するかを判断するため、会計・税務担当者とシステム担当者の連携が不可欠となる。

背景に「Web3推進」と企業流出防止

改正の背景には、国内Web3産業の振興と、企業の海外流出防止という政策目的がある。従来、法人が自社トークンを発行・保有しているだけで、期末の時価課税を受ける可能性があり、事業運営に支障をきたしていた。

ブロックチェーン関連企業の多くが課税負担を避けて海外移転を選ぶなど、日本の競争力低下が懸念されていた。今回の改正は、こうした実務上の歪みを是正し、国内でのトークン発行・保有を促す狙いがある。

また、経済産業省や金融庁が掲げる「Web3産業戦略」にも沿う形で、企業が暗号資産を長期保有しやすい制度設計へと転換した。特にスタートアップやブロックチェーンゲーム、NFT関連事業では、資産性トークンを事業資本の一部として保有するケースが増加している。

今後は、暗号資産の種類や用途に応じた税務処理の柔軟化がさらに進む見通しだ。一方で、取引の匿名性やボラティリティ(価格変動)の高さから、税務実務では「評価時点の妥当性」や「市場価格の信頼性」をどう担保するかが課題となる。

国税庁も今後、評価基準や届出手続きの詳細を通達などで明確化する方針を示しており、実務ではそれに沿った対応が必要になる。企業側としては、「保有目的(投資・報酬・事業用)ごとの会計処理方針の明確化」「評価法や届出状況の年度ごとの管理」「トークン設計時点からの税務シミュレーション」など、ガバナンス体制の強化が求められる。

暗号資産を戦略的に活用していくためには

法人が保有する暗号資産の期末評価は、原則として時価法によるが、令和6年度改正で特定自己発行・特定譲渡制限付資産について原価法の適用が認められた。制度改正により、企業は保有資産の区分を精査し、評価方法を届出する実務負担が増す一方、事業成長に資する柔軟な運用が可能になった。

 税務上の正確な届出と評価管理は、不要な課税を防ぎ、暗号資産を戦略的に活用する企業経営の基盤となる。

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会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。

税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。