最終更新日:2025-09-09
税務署の”目”から逃れられない? 広がる暗号資産税務調査の実態
- 2025/09/10
- 2025/09/09

暗号資産(仮想通貨)の取引が一般に広まる中、税務当局による監視の目が厳しさを増している。国税庁は暗号資産取引に関する税務調査を強化しており、特に高額取引者や未申告者に対する追跡は年々高度化している。納税者からは「税務署が個人の取引内容をどこまで把握できるのか」という不安の声が聞かれるが、専門家は「海外の取引所やウォレット間の個人送金であっても、税務署の追跡から逃れることは極めて困難」と警鐘を鳴らす。
税務署が駆使する「4つの武器」
税務署は、法律に基づき、納税者の暗号資産取引を広範囲にわたって把握するための強力な権限を有している。その主な手法は以下の通りだ。
1.国内の暗号資産交換業者への情報照会
これは最も直接的で確実な情報収集手段だ。国税通則法第74条の2に基づき、税務署は国内の交換業者に対して、特定の納税者の取引履歴、保有残高、入出金記録などの情報提供を求めることができる。国内の交換業者はこの要請に応じる義務があるため、国内取引所を利用した取引は、ほぼ完全に把握されていると考えるべきだ。いつ、どの銘柄を、いくらで売買したか、利益がどのくらい出たかといった情報は、すべて税務署のデータベースに記録される。
2.租税条約に基づく国際的な情報交換
「海外の取引所を使っているから大丈夫」と考えるのは大きな間違いだ。日本は多くの国と租税条約を締結しており、その条約に基づいて海外の税務当局に情報提供を要請することが可能だ。近年、各国の税務執行機関は暗号資産に対する共同の監視体制を強化しており、国際的な協力関係はますます強固になっている。実際に、海外の取引所に開設された口座の情報が、租税条約を通じて日本の税務署に提供される事例も増えている。特に、大規模な暗号資産取引所を運営する国々との間では、情報交換がスムーズに行われる仕組みが構築されつつある。
3.銀行口座の徹底調査
暗号資産取引は、最終的に法定通貨(円やドルなど)と交換されることが多い。そのため、税務署はまず、納税者の銀行口座を調査する。高額な預金の入出金履歴、特に暗号資産交換業者や、海外の金融機関からの送金記録があれば、その資金が暗号資産取引に関連していると判断する。銀行口座の動きは、取引の存在やその規模を把握するための重要な手がかりとなるのだ。
4.ブロックチェーン上の情報の追跡
これは近年、特に注目されている手法だ。ブロックチェーンは、ウォレット間の送金履歴がすべて公開されている「透明な台帳」だ。税務署は、専門的な分析ツールを活用し、ブロックチェーン上のウォレットアドレスを追跡する。例えば、国内の取引所から送金された暗号資産が、海外の取引所や個人のウォレットに送金された場合、その一連の流れを可視化することができる。この技術により、ウォレット間のプライベートな送金であっても、取引所を経由した痕跡があれば、その持ち主を特定することが可能になっている。
税務調査の実態と専門家からのアドバイス
実際に暗号資産の税務調査を受けたケースでは、調査官が事前に納税者の取引内容をかなり詳細に把握していることに驚く声が多い。中には、納税者自身が忘れていたような過去の取引や、わずかな利益の申告漏れまで指摘されるケースもあるという。
国税出身税理士の視点からは、最も多い申告漏れの原因として以下の点が挙げられる。
取引履歴の管理不足
複数の取引所を利用したり、DeFi(分散型金融)などの複雑な取引を行ったりすることで、すべての取引履歴を把握できていないケース。
計算方法の誤り:
暗号資産の損益計算は非常に複雑で、総平均法や移動平均法など、正しい方法で計算できていないケース。
利益認識の漏れ
暗号資産を他の暗号資産と交換した際に、利益が発生していることを見落としているケース。
都内の国税出身税理士は「暗号資産の税務申告は、単に売却益を計算するだけでなく、さまざまな取引形態を正しく理解する必要がある。納税者が自己判断で申告すると、見落としや計算ミスが発生しやすく、結果として税務調査の対象となりやすい」と指摘する。
今後ますます厳格化する税務環境
税務当局は、暗号資産の匿名性を逆手に取ろうとする悪質な脱税行為に対し、断固として取り締まる姿勢を強めている。日本だけでなく、世界各国で暗号資産に関する国際的な情報共有の枠組みが強化されており、今後はさらに監視体制が厳格化していくことは確実だ。
税務当局は、過去の取引であっても、申告漏れがあれば追徴課税の対象とする。無申告や過少申告が発覚した場合、加算税や延滞税といったペナルティが課されるため、その負担は非常に重いものとなる。
暗号資産の取引を行っている者は、全ての取引履歴を正確に記録・管理し、税務上の正しい知識を持つことが不可欠だ。少しでも不安がある場合は、暗号資産に詳しい税理士に相談し、適切な申告を行うことが、将来的なリスクを回避する唯一の方法と言えるだろう。
クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。