最終更新日:2025-10-02

国税庁「2026年分源泉徴収税額表」を公表も基礎控除特例は未反映 

  • 2025/09/29
  • 2025/10/02
国税庁「2016年分源泉徴収税額表」を公表も基礎控除特例は未反映 

2025年8月29日、国税庁は令和8年分(2026年分)の所得税および復興特別所得税を含む給与所得者向け源泉徴収税額表を公表した。同時に令和7年分(2025年分)の年末調整のしかたも発表。今回の改正は、令和7年度の税制改正で見直された所得税の基礎控除および特定親族特別控除等を念頭に置いたものだが「基礎控除特例」の加算措置については現時点で新税額表へ反映されていない。実務上の留意事項と対策を整した。


国税庁は2025年8月29日、令和8年分(2026年分)の給与所得者向け源泉徴収税額表を公表すると同時に、令和7年分(2025年分)の年末調整のしかたも併せて公開した。

これは令和7年度に成立した所得税の税制改正を前提とした措置。改正内容には、基礎控除の見直し、給与所得控除の引上げ、特定親族特別控除の創設などが含まれる。これらの制度改正は2025年12月1日以降に適用され、以後の源泉徴収および年末調整に反映される。源泉徴収税額表は、月額表、日額表、賞与に対する算出率表など複数の様式から構成。これらは国税庁のパンフレット・源泉徴収税額表のサイトで提供されており、2026年分の表も以下URLにて公開されている。

また、源泉所得税関係の各種様式・記載例のうち、2026年分用のものも国税庁HP上で先行案として掲載されている。 改正の主なポイントを以下に整理する。

(1)基礎控除の見直しと加算特例

  • 国税庁の特設ページによれば、合計所得金額に応じて基礎控除額が新たに設定された。
  • 改正後の基礎控除額(所得税法第86条改正後)は、標準で58万円となるが、合計所得金額が一定範囲内の居住者には、租税特別措置法の規定に基づき、加算額を加える特例が適用される。
  • 加算額の具体例:所得金額が655万円以下の者については、58万円に対して+37万円、+30万円、+10万円、または+5万円を加える方式が採られる旨が国税庁HPで説明されている。
  • 国税庁は、源泉徴収税額表については、この「特例加算分」は表に反映しないことを前提としている旨を明記している。

(2)給与所得控除の引上げ

  • 国税庁HP内の改正案内では、給与所得控除の最低保障額を改正し、従来の55万円から65万円へ引き上げる改正が行われた旨が示されている。
  • この引上げを前提として、源泉徴収税額表(月額表・日額表等)および「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」が所要改正されることも国税庁が示している。

(3)特定親族特別控除の創設

  • 国税庁HPによれば、改正後、居住者が特定親族(年齢19歳以上23歳未満で一定所得要件を満たす者など)を有する場合には、その特定親族1人につき、特定親族特別控除が適用可能とされている。
  • 年末調整で特定親族特別控除を適用するためには、給与支払者に「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を提出する必要がある旨が案内されている。
  • 国税庁HPのQ&Aでも、源泉所得税関係の改正項目に「特定親族特別控除」が含まれており、記載方法・適用要件等について説明されている。

(4)扶養親族等・所得要件の見直し

  • 基礎控除改正にあわせ、扶養親族および同一生計配偶者の所得要件も改正される。従来は所得48万円以下だった者が、改正後は58万円以下であることが要件とされる。
  • 勤労学生の所得要件も、従来75万円以下から85万円以下に引き上げられる旨が国税庁改正案内で示されている。
  • また、ひとり親の子の所得要件(扶養の判定)についても改正が予定されている点が案内されている。

(5)源泉徴収税額表の改訂

  • 国税庁が公表した令和8年分源泉徴収税額表には、「令和7年度税制改正における基礎控除の見直し等に伴う税額・扶養親族等の数の算定方法の変更」が併記されている。
  • 表のダウンロード案内には、「表紙」「月額表(PDF・Excel)」「日額表」「賞与用算出率表」などが含まれており、表形式での提供だ。
  • なお、国税庁HPでは、令和8年分源泉徴収税額表について、「この源泉徴収税額表には、令和7年度改正における基礎控除の特例加算額は含まれていない」旨を注意書きとして掲げている。

これらの制度改正を踏まえ、2026年分以降の源泉徴収税額表および年末調整に反映される。

様式・記載対象の変更

(1)扶養控除等申告書(源泉控除申告書)の名称・記載対象の改定

2026年分以降、従来「扶養控除等申告書(異動)」(控除対象扶養親族を記載する申告書)は、名称が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」として改訂されることになっている。記載対象も変わる。従来は「控除対象扶養親族」だったが、改正後は「源泉控除対象親族」に改められる。さらに、特定親族特別控除に対応するため、「特定親族」の欄が設けられる。 具体的な様式案およびPDFファイルは国税庁HP上で提供されている:

給与支払者はこれら新様式を従業員に配布し、記入案内・回収・内容チェックを行う必要がある。

(2)源泉徴収票の変更

源泉控除対象親族や特定親族特別控除を反映させるため、源泉徴収票も改正される。改正後の源泉徴収票には、以下のような変更がある。

  • 「控除対象扶養親族等の数」が「控除対象扶養親族等」に加え、「特親」欄が追加
  • 「特定親族特別控除の額」欄が設けられる
  • 用語の一部が変更(扶養親族 → 源泉控除対象親族等 等)

これらの変更は、令和7年12月以後の支払給与から適用される。

(3)その他源泉所得税関係様式

年末調整関連の他の申告書・様式についても改訂予定である。たとえば、以下のような様式が対象となる。

  • 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書(令和7年分)
  • 公的年金受給者の扶養親族等申告書(令和8年分)
  • 従たる給与用扶養控除等(異動)申告書(令和8年分)

これらの様式は、国税庁HPの「令和7年分年末調整のための各種様式」ページで案内されており、リンク先(目次)も提示されている。

基礎控除特例は税額表に未反映

新たに公表された2026年分源泉徴収税額表は、基礎控除額を「58万円」を前提とする形で作成されている。一方で、令和7年度税制改正により導入された「基礎控除特例(加算措置)」は、源泉徴収税額表には反映されていない。この特例とは、合計所得金額が一定範囲内の者に対し、基礎控除額58万円に加算(+37万円、+30万円、+10万円または+5万円)する制度である。 なぜこれを税額表に組み込まないのかというと、税額表は多数の給与支払者・従業員が使う共通基準であり、個別事情を全て反映することは実務上困難だからだという説明がある。年末調整や確定申告時に個別の加算を行う方式とした。したがって、月次の源泉徴収段階では、基礎控除特例を考慮しない税額で天引きされることになる。そのため、従業員のなかには「毎月の源泉徴収税額が高く感じられる」ケースも出てくる可能性がある。ただし、年末調整または確定申告の段階で、該当する者について加算控除を適用し、過不足を調整する仕組みとなっている。

2026年分給与支払における源泉徴収の実務

源泉徴収税額の算定について

給与支払者は、給与支払ごとに、まず社会保険料等控除後の給与金額を求める。次に、従業員から提出されている扶養控除等申告書(源泉控除対象親族・特定親族の記載)に基づき、該当する欄(甲欄または乙欄など)を選定し、税額表から所得税(及び復興特別所得税)を読み取る。これは従来どおりの流れであるが、対象扶養親族の記載内容が変わる点に注意を要する。

この税額表の適用は、新様式の扶養控除等申告書の提出がある者を対象とし、申告なし者には従来の乙欄扱い等が適用される可能性がある。なお、月次の源泉徴収には基礎控除特例加算分は反映されない点を念頭に置くこと。天引き額は改定後基礎控除58万円のみを基にした税額で運用される。

年末調整段階での調整について

年末調整時には、従業員から改正後の扶養控除等申告書および特定親族特別控除申告書を回収し、扶養親族・特定親族の所得要件等を確認する。基礎控除特例、特定親族特別控除等を考慮して最終的な税額を計算し、月次で徴収した源泉税額との差額を精算する。従業員間で加算対象になる者とそうでない者が混在する可能性があるため、控除適用漏れを防ぐチェック体制を整えておくことが肝要だ。

確定申告での対応について

年末調整で対応しきれない加算控除やその他所得・控除を反映させたい者は、確定申告により調整を行うことができる。特に複数所得がある者や適用控除が複雑な者については、確定申告を前提にしておくほうが安全だ。

令和8年分(2026年分)源泉徴収税額表の公表は、給与・税務実務における大規模な制度更新を意味する。月次の源泉徴収段階では基礎控除特例が反映されないものの、年末調整・確定申告で加算控除の適用・精算が行われる仕組みだ。経理実務担当者などは、扶養控除等申告書の新様式対応、給与システムへの新税額表組込、従業員説明体制の整備、年末調整・確定申告プロセスの改定、そして内部チェック体制の確立を早めに実行しておくことが不可欠だ。加えて、国税庁HP上にある最新版の税額表および各様式(PDF、Excel、記載例等)を必ず確認し、最新データにもとづいて運用を進めることが望ましい。上述した様式URL(例:扶養控除等申告書・源泉徴収簿など)を活用して、実務への適用を進めることだ。

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会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。

税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。