最終更新日:2025-10-06
自民党新総裁に高市氏 就任会見から見た税金・税制
- 2025/10/06

自民党の高市早苗新総裁は10月4日の就任会見で、「責任ある積極財政」を掲げ、減税と賃上げ支援を柱とする経済運営の方針を打ち出した。ガソリン税など旧暫定税率の早期廃止を訴え、赤字企業を含む中小企業の賃上げを後押しする仕組みを構築する考えも示した。これから年末に向け、令和8年度税制改正議論が本格化してくるが、どういった“税”の舵取りをするのか、これまでの言動、就任会計などから検証してみた。
10月4日、新たな自民党総裁に就任した高市早苗氏は就任会見で、「責任ある積極財政」を掲げ、デフレからの脱却と賃上げの定着を最優先課題に据える考えを強調した。ガソリン税の旧暫定税率廃止や所得税の基礎控除引き上げ、赤字企業への賃上げ支援など、家計と中小企業を直接的に後押しする政策を次期予算に反映させる構えだ。
高市氏が掲げる積極財政路線は、石破前政権が進めた「抑制的財政運営」と一線を画す。会見では、「財政再建を理由に国民生活を犠牲にしてはならない」と明言。経済の成長によって税収増を図る「成長型の財政健全化」を目指す方針を示した。その一方で、無制限な歳出拡大には慎重姿勢を見せ、「国債の増発は将来世代に責任を持つ形で管理する」と述べた。
所得税、住民税も視野にあるが・・・
税制面では、物価上昇を踏まえて基礎控除を段階的に引き上げる方針を明示。所得税・住民税の課税最低限を引き上げ、低・中所得層の可処分所得を増やす考えだ。また、赤字企業にも適用可能な賃上げ支援制度を新設し、自治体交付金を通じて中小事業者の賃金引き上げを支援する。これにより、地方経済の底上げと格差是正を同時に実現する狙いがある。
一方、ガソリン税と軽油引取税の旧暫定税率廃止も掲げる。これにより1リットルあたり約25円の減税効果が見込まれるが、国と地方を合わせて約1.5兆円の税収減が発生する。この財源確保には、法人税の租税特別措置見直しや、金融所得課税の適正化などが検討対象となる。
初見では、「成長を支える財政」と「責任ある執行」を両立させるため、歳出構造の見直しも明記。国債費や社会保障費の増大を抑制しつつ、科学技術・防災・エネルギー分野への重点配分を進める方針を打ち出した。特に地方のエネルギー自立や防災インフラ整備を通じて、地域経済の雇用と所得拡大を促す。
また、野党との協調にも踏み込む。声明では「政策単位での合意形成」を重視し、減税や地方交付金制度の拡充など、国民生活に直結する政策から協議を始める考えを示した。連立の枠を超えた「合意形成型の政治」を志向し、国会運営では立憲民主党や維新などとの政策的接点を探る姿勢を見せる。特に給付付き税額控除や低所得層支援では、野党の政策とも重なりが大きく、与野党協調の可能性が指摘されている。
金融・財政政策は日銀と強調体制
一方で、積極財政の副作用である財政規律の緩みへの懸念も根強い。国債発行の増大や金利上昇リスクをどう制御するかは、経済運営の最大の課題となる。高市氏はこれに対し、「日銀との緊密な対話を通じ、金融政策と財政政策の一体運用を図る」と述べ、政府と日銀の協調体制を重視する考えを示した。
実行段階では、2026年度予算編成で特例公債法の改正が焦点となる。期限切れとなる現行法を延長しつつ、財政運営の透明化とルール化を進める方針だ。また、税制改正では、デジタル課税やグローバル・ミニマム税の対応を含め、国際的な税制の潮流にも配慮する。
高市新政権の経済・財政運営は、「減税」「賃上げ」「所得支援」を同時に進める三位一体の構想である。財政支出を拡大しながらも、歳出の質を問う姿勢を示す点で、「責任ある積極財政」という表現に重みを持たせている。
野党との協議を通じ、所得減税や地方交付金制度の強化が現実的に進むかどうかは、政権の信頼性を左右する。国民生活を支える減税を実現できるか、財政規律と経済成長を両立できるか――。高市政権の実行力と調整力が、今まさに試されている。
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元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。