最終更新日:2025-09-09
「税務署の指摘に納得できない」不服申立ての正攻法 安易な修正申告は禁物
- 2025/09/13
- 2025/09/09

税務調査で申告漏れを指摘されたものの、その内容にどうしても納得できない――。こうした事態に直面したとき、納税者はどうすればいいのだろうか。多くの場合、調査官から修正申告を勧められるが、安易に応じてしまうと、その後の不服申立ての道が閉ざされてしまう可能性がある。国税出身の税理士によれば「納得できない場合は、修正申告書にサインせず、税務署からの正式な『更正処分』を待つことが重要だ」と指摘する。納税者に認められた不服申立ての手続きを理解し、冷静に対処することが、権利を守るための第一歩となる。
税務調査の結果、納税者が指摘内容に不服がある場合、法的にはその処分に対し異議を申し立てる権利が保障されている。しかし、その手続きは複雑であり、正しいステップを踏まなければ、有効な対抗手段を失ってしまう可能性がある。国税出身の税理士によると以下のステップが重要だと言う。
ステップ1:修正申告には絶対に応じない
まず、最も重要な注意点だ。調査官は、調査の結果として生じた申告漏れや誤りを修正するために、納税者に修正申告書の提出を促す。この修正申告書は、納税者自身が自らの申告内容に誤りがあったことを認め、自主的に税額を修正する行為だ。そのため、一度提出してしまうと、原則としてその内容を自ら認めたことになり、その後の不服申立てが極めて困難になる。
納得できない指摘に対しては、調査官に対し「修正申告には応じられません」と明確に意思を伝える必要がある。そして、税務署長が最終的に下す「更正(こうせい)」処分を待つことになる。更正とは、税務署長が納税者の申告内容が法律の規定に従っていなかったと判断し、その税額を是正する行政処分だ。国税通則法第75条がその根拠となる。この更正処分通知書が送付されて初めて、不服申立てという次のステップに進むことができる。
ステップ2:行政内部での救済を求める
税務署から「更正通知書」が届いたら、納税者は通知書を受け取った日の翌日から3か月以内に、以下のいずれかの手続きを取ることができる。
再調査の請求
これは、処分を下した税務署長に対し、もう一度その処分の再検討を求める手続きだ。納税者は、自らの主張をまとめた「再調査の請求書」を提出し、税務署内部で再度事実関係や法令解釈の検討が行われる。
審査請求
再調査の請求を経ずに、直接この手続きを選ぶことも可能だ。審査請求は、税務署とは独立した第三者機関である国税不服審判所の長に対して、処分の審査を求めるものだ。国税不服審判所は、公正・中立な立場で、納税者の主張と税務署の主張を審査する。審査官による審理を経て、最終的に裁決が下される。
これらの手続きは、国税通則法第87条(再調査の請求)および第90条(審査請求)に定められている。納税者は、まずこれらの行政内部での救済手続きを経て、その結果に納得がいかない場合に、次のステップへ進むのが一般的だ。
ステップ3:最終手段としての訴訟
再調査の決定や、国税不服審判所の審査請求の裁決にも不服がある場合、納税者は最終的な救済手段として、裁判所に処分の取り消しを求める訴訟を提起することができる。
これは、国と納税者との間の法的な紛争であり、行政事件訴訟法に基づいて行われる。裁判所は、当事者双方の主張や証拠を総合的に検討し、税務署の更正処分が違法であったかどうかを判断する。訴訟は時間と費用がかかるため、最後の手段として位置づけられる。しかし、裁判所の判断は税務署や国税不服審判所の判断を覆す可能性があり、納税者の権利を守るための重要な制度だ。
専門家が語る、不服申立ての注意点
税務調査の指摘に不服がある場合、最も重要なのは、専門家である税理士に相談することだ。税務署の調査官と対等に議論し、自らの主張を法的に裏付けるためには、専門知識が不可欠となる。
不服申立ての手続きは、形式的な要件や提出期限が厳格に定められているため、納税者単独で進めるのは困難だ。また、訴訟を見据えた準備も必要となる。
例えば、事実認定に関する不服申立ての場合、納税者側が正確な取引記録や証拠を提示し、調査官の事実認定が誤っていることを証明する必要がある。一方、法令解釈に関する不服の場合、過去の判例や通達、学説などを引用して、自らの解釈が正しいことを主張しなければならない。
これらの作業は専門性が高く、税理士の助力が不可欠だ。不服申立てを検討する場合、まず信頼できる税理士に相談し、主張の法的根拠や勝訴可能性について冷静な分析を仰ぐことが賢明である。安易な修正申告に応じず、不服申立て制度を有効に活用することが、納税者にとっての権利を守る唯一の道と言えるだろう。
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税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。