最終更新日:2025-09-30
個人による暗号資産のマイニング報酬はどんな課税関係になるの?
- 2025/10/02
- 2025/09/30

暗号資産のマイニング(採掘)は、ブロックチェーンの取引を承認する作業の対価として暗号資産を得られる仕組みだ。個人が自宅のパソコンを使って少額ながら報酬を得る例も増えているが、こうした収入の課税関係で頭を悩ますことも多い。税務上は、取得時点の時価で収入金額を算定し、活動規模に応じて「雑所得」か「事業所得」に区分される。これを誤ると税務当局に指摘されるため注意が必要だ。
暗号資産の取引拡大に伴い、個人レベルでもマイニング(採掘)に挑戦する人が増えている。専用機器を備えた大規模な事業者だけでなく、近年は自宅のパソコンを用いた小規模な試みも少なくない。マイニングによって暗号資産を取得した場合、その取り扱いは税務上どうなるのか――。
マイニングによって取得した暗号資産であっても、“資産”である以上は所得税の課税対象になる。ブロックチェーンの承認作業は、経済的価値を持つ役務の提供と位置付けられ、その対価として暗号資産を取得するためだ。所得税法第36条(収入金額)では「収入は、その取得時の価額による」と定められており、暗号資産も例外ではない。
このため、マイニングで受け取った暗号資産は、取得時点の時価で収入金額を算定し、その年分の所得として確定申告の対象となる。後日価格が変動しても、取得時点での価額が収入金額とされる点に注意が必要だ。
誤りががちな「雑所得」か「事業所得」かの判断
課税上の重要なポイントは、マイニング収入が「雑所得」に当たるのか、それとも「事業所得」として扱われるのかという区分だ。
<雑所得>
主に副業や小規模な活動に該当する。例えば、自宅のPCを使い、継続性や規模が限定的で生計の中心にならない場合には雑所得とされるケースが多い。給与所得など他の所得と合算され、総合課税の対象となる。
<事業所得>
一方で、マイニングを本格的に行い、それを生計の柱としている場合は事業所得と認められる可能性がある。専用機器を用いた大規模な設備投資や、反復継続性が高い活動などが判断材料となる。事業所得と認定されれば、「青色申告」による特典を受けられる点も重要だ。
区分は納税者の実態によって異なるため、明確な線引きはないが、活動の規模・継続性・営利性が重要な判断要素となる。
気になるのが、マイニングに要した費用は、収入から差し引ける「必要経費」として認められるかと言う点だ。PCをマイニングのために新たに購入したという人も少なくないはずだ。
所得税法第37条(必要経費)は、所得を得るために直接要した費用を控除できると規定しており、マイニングにおける代表的な経費は次の通りだ。
・マイニング用PCや関連機器の購入費
高額機器の場合、全額を一度に計上できず、耐用年数に応じた減価償却費として扱う。
・電気代
マイニングに要した電気使用料は主要な経費の一つ。ただし家庭用電気代と併用している場合は按分計算が必要になる。
・インターネット回線利用料
マイニング活動に不可欠な通信費も経費として計上できる。
これらを必要経費として差し引いた残額が課税所得となる。小規模なマイニングであれば、経費と収入がほぼ相殺されるケースも想定される。
マイニングによって得た暗号資産は、その取得時点の時価で収入計上される。たとえば、1月に暗号資産を取得すれば、その日の価格を収入金額とし、同年分の確定申告に反映させる必要がある。
マイニングで得た暗号資産を売却した場合
ここで注意すべきは、マイニングによって得た暗号資産を後に売却した場合、さらにその売却時点でも課税関係が生じる。取得時には収入として計上し、その後の価格上昇分は譲渡所得ではなく再び雑所得として扱われる。二段階の課税関係を意識しなければならない。
また、暗号資産は価格変動が激しく、取得時点の価額を正確に記録しておくことが求められる。取引所の価格や市場データを用い、客観的な証拠を保存しておくことが望ましい。
さて、マイニング収入の課税根拠は、主に次の2条文にある。
<所得税法第36条(収入金額)>
金銭以外の物や権利による収入も、その取得時の価額で収入金額とすると規定。暗号資産もこれに該当する。
<所得税法第37条(必要経費)>
所得を得るために直接必要とした費用は経費に算入可能とする規定。電気代やPC購入費がこれに含まれる。
この2条に基づき、マイニングは「役務の提供対価」として経済的利益を得ていると解釈され、課税関係を判断する。
実務上の留意点としては、税務申告の現場では、以下の点に注意が必要だ。
・取得日時と時価を記録する
・雑所得か事業所得かを実態に応じて判断する
・経費を適切に按分・計上する
・売却時の二重課税関係を整理する
特に、雑所得として扱われる場合は給与所得などと合算され、累進課税の影響で思わぬ税負担となる可能性もある。規模が拡大すれば、事業所得への移行を視野に入れ、青色申告などを活用するのも選択肢だ。
個人による暗号資産のマイニングは、その収入が少額であっても所得税の課税対象となる。収入計上は取得時点の時価によることが原則であり、活動の実態に応じて雑所得または事業所得に区分される。電気代やPC費用といった必要経費を控除できる一方で、価格変動や二重課税的な構造への対応も欠かせない。納税者は記録の保存と適正な申告を心がけ、疑義があれば専門家への相談を行うことが肝要だ。
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元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。