最終更新日:2025-09-09

マルサ調査は「告発」が目的 暗号資産脱税で家宅捜索 逮捕・起訴を回避するための道筋とは

  • 2025/09/14
  • 2025/09/09
マルサ調査は「告発」が目的 暗号資産脱税で家宅捜索 逮捕・起訴を回避するための道筋とは

多額の暗号資産(仮想通貨)の利益を申告せず、国税局査察部、通称「マルサ」の強制調査を受けた場合、納税者が直面するのは、刑事事件として立件され、逮捕・起訴されるという深刻なリスクだ。マルサの調査は、裁判所の令状に基づく強制的な手続きであり、その目的は通常の税務調査とは異なり、悪質な脱税犯を検察庁に告発することにある。この絶体絶命の状況で、告発を回避し、最悪の事態を防ぐためにはどうすればよいのか。専門家は、「全面的な協力と真摯な反省、そして速やかな納税が極めて重要だ」と指摘する。


国税局査察部による査察調査は、通常の税務調査とは全く次元が異なる。これは、国税犯則取締法に基づき、裁判所の令状を得て行われる強制調査であり、その目的はあくまで刑事事件としての告発である。査察官は、質問や検査だけでなく、家宅捜索や押収(領置、差押え)といった強力な権限を有している。この極めて厳しい手続きのなかで、納税者が取るべき対応は、その後の運命を大きく左右する。国税当局の査察部門出身の税理士に話を聞くと、以下のポイントに注意すべきと指摘する。

1. 調査への全面的な協力

査察調査の冒頭から、納税者の対応姿勢は厳しく評価される。査察官からの質問には、正直かつ誠実に対応することが不可欠だ。虚偽の供述や、証拠(PC、スマートフォン、書類など)を隠したり処分したりする行為は、「証拠隠滅」と見なされ、納税者の悪質性をさらに高めることにつながる。査察官は、事前に様々な情報源から脱税の証拠を積み上げており、ごまかそうとしてもすぐに見抜かれてしまう。状況をこれ以上悪化させないためにも、求められた情報や書類は速やかに提出し、質問には事実に基づき、誠実に回答しなければならない。

2. 事実を認め、真摯な反省を示す

査察案件において、脱税の事実を認めることは、告発回避に向けた最初の、そして最も重要なステップだ。調査官に脱税を認め、反省の意を明確に伝えることで、「刑事罰を与えるほどの悪質性はない」と判断される可能性が高まる。

「なぜ、脱税に至ってしまったのか」という問いに対し、正直な説明を行うことも重要だ。言い訳や他人のせいにするのではなく、自らの過ちを深く反省している姿勢を示すことで、情状酌量される要素となる。さらに、二度とこのような行為をしないための再発防止策を具体的に示すことも有効だ。

3. 速やかな修正申告と納税の実行

反省の気持ちを具体的に示す最たるものが、納税の意思と実行である。査察調査の過程で明らかになった所得や税額については、可能な限り速やかに修正申告書を提出し、本税および加算税・延滞税を納付する。

多額の追徴税額となり、一括での納付が困難な場合は、分納の相談を行うことも可能だ。納税資金がない場合は、資産(暗号資産を含む)を処分して現金化する必要がある。迅速な納税は、単なる税金の支払いに留まらず、「真摯な反省」と「国家に対する義務を果たす意思」を示す最も強力な証拠となる。

なぜ「査察」は極めて深刻なのか

査察調査が通常の税務調査と決定的に異なるのは、その目的が国税通則法に基づく行政処分(更正)ではなく、国税犯則取締法に基づく刑事告発にあるためだ。

所得税法第238では、「偽りその他不正の行為により」所得税を免れた者、いわゆる「ほ脱犯」に対し、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方を科すと定められている。査察官は、納税者の行為がこの「不正の行為」に該当することを立証するために、徹底的な調査を行う。

調査の結果、「告発」が決定された場合、事件は検察庁に引き継がれ、その後「起訴」、そして裁判での「有罪判決」というプロセスをたどる可能性が極めて高くなる。日本の刑事裁判の有罪率は非常に高く、告発された時点で、懲役刑や罰金刑という刑事罰が課されるリスクは現実のものとなる。

専門家の助言が不可欠

査察調査は、そのすべてが法的な手続きであり、納税者自身だけで対応することは不可能に近い。査察官の質問一つ一つに、法的な罠が潜んでいる可能性もある。

そのため、査察調査の連絡が来た、または実際に査察が始まった場合は、直ちに査察案件の経験が豊富な弁護士や税理士に相談することが不可欠だ。とくに、査察調査は特別なものだけに、税理士試験に合格して税理士となった「試験組税理士」では査察調査における経験不足は否めない。そのため国税の査察出身の税理士と連携することが最低限必要。それでも査察調査はかなり厳しくなることが予想されるため、現職時代にある程度の役職を務め、実務経験の長い国税出身税理士にサポートしてもらうことが不可欠と言える。調査の目的、質問への対応など、査察調査はひとつ一つの対応如何で「告発」という最悪の事態に繋がってくる。

国税現職時代は査察部門で活躍した国税出身税理士は、査察官との交渉や質問への対応方法についてアドバイスするだけでなく、納税者の権利を守りつつ、告発回避に向けた最善の戦略を練る。納税額の計算、修正申告書の作成、そして納税資金の確保など、複雑な手続きをサポートしてくれる。

査察調査は、納税者にとって人生を左右しかねない重大な局面だ。この状況を乗り切るためには、事実を正直に認め、反省の姿勢を示し、そして専門家の助言のもとで、迅速かつ誠実に対応することが、何よりも重要となる。

クローズアップインタビュー

会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。

税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。