最終更新日:2023-02-03
貸宅地の底地物納は、借地人との権利関係清算にも効果的 プロの視点で進める相続税の物納戦略〔貸宅地編Vol.1〕
- 2023/02/02
- 2023/02/03
監修者
木元 勇
円満相続推進の会 代表取締役
1.貸宅地は不動産物納の基本
首都圏の不動産物納の実態は、貸宅地の底地物納(以下、貸宅地の物納という)である。貸宅地以外の自用地は価格次第でいつでも自由に処分できるため、物納に充てる理由がなく、また、駐車場や貸家の敷地は、他人との権利関係に縛られることもなく、生活基盤の収入のための自家用地として保有承継しなければければならないと考える相続人の長男・長女が多いという背景がある。
今回取り上げる貸宅地の物納には次のようなメリットがある。
①納税原資として相続税評価額が納税額になり安全・確実に納税ができる
②譲渡所得税(20%)は課税されない
③借地人との権利関係を借地人と競うことなく清算することができる
④賃料改定や更新料の要請にクレームなく応える良い借地人を残すことができる
⑤売り急ぎを防止し、売買と物納分岐点1.29倍を堅持する
⑥収納決定までの間、賃貸収入-利子税=実利を得られる
⑦当局の守秘義務に守られ、世間の風評にさらされない
⑧同族法人の処理困難な貸宅地とオーナーの貸宅地と交換して相続税に充てる
現存する貸宅地の多くは、関東大震災の被災地や太平洋戦後の焼け野原に、建物所有を目的として土地の貸し借りから始まるが、昨今、借地人の権利意識の高揚により、貸主からの更新料及び地代の改定要請に速やかに応じてもらえない借地人が増えている。
実際に、期間更新時に更新料の請求及び地代の改定案を借地人に呈示したところ、借地人は話し合いに応ずることもなく突如、家庭裁判所に「民事調停」を直訴した例がある。家裁は審理開始に際し、貸主側に対応を求めて調停案の応酬が始まったが、提訴した借地人は、調停途中に一度は調停案に同意しながらも突然翻意して調停拒否してしまい、家裁は「不調」として「結審」になり、遺恨を残す結果となった。
2.貸主の物納申請時は借地権(債権)を物権化する絶好機
貸主の相続開始に伴い、相続税の納税資金に充当するために底地の購入が打診される。借地権部を除き、時価の半値で購入できる絶好機である(相続税評価額のおよそ1.29倍が物納と売却との損益分岐点価格)。設定価格は以下の算出例が一般的である。時価更地坪100万円の場合×相続税評価額40%×分岐点1.29倍=51.6万円。
つまり、時価のおよそ半値となり、半値を投資することで借地権を物権に変えることができる。
借地権では、貸主の了解なく借地人の単独意思だけでは再建築や売却処分ができない。権利割合は、借主が貸主の割合より多くあると言っても、その割合は相続税や贈与税の税額算出のために用いるにすぎず、あくまで貸主と借主のその時の力関係によって借地権の比率按分が決められる。また、賃貸借契約書に記載された禁止事項に反する行為をした場合は、即刻貸主により、賃借権は消滅させられることになる。さらに借主が賃貸借関係の終了を申し出た場合は、家屋を解体し賃貸借開始時の更地に原状回復を求められ、何ら補償されることなく無償返還を求められることになる。地代を支払い続けることで借地権を主張できるが、地代の支払いが滞ってしまえば借地権に係る主張要求は出
来ず、借地権は決して強い権利ではないのである。
3.借地権の転売(名義変更)と借地権買取請求
貸主は底地を物納することにより、賃借人との権利関係はそのまま国に引き継がれる。貸主にとって安定した現金収入となっていたものの、前述したとおり、借地人の権利意識高揚が問題化しており、先代まで続いた相互信頼が崩壊していく中、相続税の納税原資に底地を充当することで借地人との間にあった権利関係を清算することができるのである。要件を具備するに際し、貸主は面倒な手続きを物納コーディネーター等に任せることで直接関与することなく物納は許可され、国が権利関係を引き継ぐことになる。良い借地人(地代の改定と期間更新料承諾)を残し、権利意識が強い借地人は物納させて終了すればよいのである。納税者による物納物件の引き当ての選別は納税者の任意となっている。ただし、土地賃貸借契約書の条項に「更新料支払義務があること」を明記しておかないと更新料収受が困難になるため注意が必要だ。
(つづく)
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