最終更新日:2025-09-30

暗号資産 法人のマイニング収益で注意

  • 2025/09/30
暗号資産 法人のマイニング収益で注意

法人が暗号資産のマイニングを行った場合、その収益の計上時期と金額をいかに認識すべきかは、実務的に判断を誤りやすい部分だ。税務調査時も指摘されやすい論点であり、証憑管理や評価基準の整備が欠かせない。経理担当者が実務的に注意すべきポイントに迫った。


暗号資産、いわゆる仮想通貨が企業取引でも関心が高まるなか、法人によるマイニングの事業参入は増加している。そのマイニング事業に参入する法人から関心が高いのが、法人で暗号資産のマイニングを行った場合、その収益の計上時期はどの時点ですべきか、また、その金額をいかに認識すべきかという問題だ。

法人税法第22条第2項は、益金の範囲を「資産の販売、有償または無償による資産の譲渡、役務の提供、資産の譲受けその他の収益」と規定している。マイニングはブロックチェーンの承認作業や維持に貢献する役務提供と解され、その対価として暗号資産が付与される。したがって、その取得時点で収益が実現したものと位置づけられ、法人の益金に算入される。

<収益計上の時期>

益金計上は「取得日」を基準とする。具体的には、マイニング報酬として暗号資産が法人のウォレットに付与された日が収益計上のタイミングとなる。市場価格がその後大きく変動しても、益金計上額は取得日の価額に固定され、後日の相場変動は影響しない。

<計上金額は「取得時の時価」>

益金に算入すべき金額は取得時点の時価相当額である。市場価格は取引所により差異があるため、どの価格を採用するかについて社内で明確な基準を定め、継続的に適用することが求められる。税務調査の場面では、算定基準の合理性とその一貫性が確認されやすい。

<損金算入との対応関係>

マイニングによる収益認識と同時に、取得に要した費用は損金に算入できる。代表的な費用は以下の通りである。

  • マイニング機器の減価償却費
  • 電力使用料
  • 通信費・人件費など付随費用

これらの費用を適正に損金処理することで、益金との対応が確保される。

実務上の仕訳処理例としては以下の通りだ。

  • 暗号資産を取得した場合(例:時価700万円)

(借方)暗号資産 700万円 / (貸方)マイニング収益 700万円

  • 電気代10万円を支払った場合

(借方)水道光熱費 10万円 / (貸方)現金預金 10万円

取得した暗号資産は益金算入額と同額で資産計上される。

期末評価の取扱いについて

期末評価の取扱いとしては、保有する暗号資産は原則として取得価額で貸借対照表に計上する。ただし、帳簿価額を著しく下回る時価が継続し、回復が見込めない場合には、評価損の計上が認められる場合がある。期末評価においても合理的な評価基準を確立することが求められる。

税務調査で確認されやすいところは

暗号資産取引は、調査対象として注目度が高い分野である。特に以下の点が確認されやすい。

  • 取得日が合理的に特定されているか
  • 採用した市場価格の算定基準が妥当か
  • ウォレット履歴や取引所データなどの証憑が保存されているか

これらの対応を怠ると、課税上の指摘につながる恐れがある。

他の取引形態との比較

ステーキングやレンディングによって暗号資産を得る場合も、基本的には「役務提供の対価」として取得時の時価で益金算入される。ただし、付与の仕組みやタイミングはマイニングと異なるため、実態に応じた処理が必要である。

今後の暗号資産の税務関係については、通達や判例の蓄積が限られており、実務対応は法人ごとの判断に委ねられる部分も多い。国際的にも課税ルールの整備は進行中であり、日本でも追加的な指針や制度改正が行われる可能性がある。法人は動向を注視しつつ、社内規程や証憑管理の強化を進めることが重要である。

法人がマイニングにより取得した暗号資産は、法人税法22条に基づき「役務提供の対価」として収益認識される。計上は取得時点の時価相当額を基準とし、その後の価格変動は反映されない。関連費用は損金算入が認められるが、取得日の特定、時価算定基準の合理性、証憑の保存が調査対応上の要点となる。税制の発展途上にある分野であることを踏まえ、法人は適正な処理体制を整備するとともに、専門家の助言を得て慎重に運用することが求められる。

クローズアップインタビュー

会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。

税界よもやま話

元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。