最終更新日:2025-10-02
訪日客が免税利用して転売 2年で2千億円 不正横行に制度廃止論も
- 2025/10/04
- 2025/10/02

訪日外国人の消費を支えてきた免税制度が、大きな転機を迎えている。免税を利用した転売不正の実態が明らかとなり、国会では廃止論が台頭。財務省は制度維持を前提に対策を急ぐが、自民党有力議員を中心に「日本は安すぎる」との声が広がる。観光業界は強く反発し、議論は政治・経済の両面で波紋を広げている。
日本国内で「免税店」として国税庁の許可を受けて営業している店舗は、2025年3月末時点で約6万3千店に上る。百貨店やドラッグストア、家電量販店に加え、地方の土産物店まで多岐にわたる。訪日外国人客(インバウンド)の増加とともに免税店は急拡大し、観光消費の柱となってきた。
観光庁によれば、2024年の訪日外国人による消費額は8兆円を超え、10年間で4倍に増加した。消費全体の中で買い物支出は約3割を占め、化粧品やブランド品、家電などが人気を集めている。免税制度は「国内消費に課税、国外消費は非課税」という消費税の原則に基づくもので、観光振興策としても位置づけられてきた。
大物議員が不正転売を問題視
しかしいま、免税制度は大きな曲がり角に立っている。国会では制度廃止論が浮上し、自民党有志議員が2025年6月に廃止提言をまとめた。呼びかけ人は麻生太郎元首相で、提言書は「免税店での不正が横行し、免除された消費税収は年間2千億円を超える」と指摘する。
提言の背景には、「日本は安すぎる」という海外からの声がある。自民党の中西健治衆院議員によれば、来日した海外の友人が「免税がなくても日本の商品は十分に安く、売れ行きは変わらないだろう」と語ったことが勉強会立ち上げのきっかけになったと言う。
不正の典型は「サヤ抜き」だ。訪日客が免税価格で購入した商品を、出国前に国内で転売し、差額を利益として得るもの。本来は出国まで商品の所持が義務付けられているが、空港税関の検査体制は限界がある。財務省調べでは、2023年度までの2年間に免税品を1億円以上購入して出国した訪日客は690人にのぼり、購入額は合計2332億円。このうち9割近くは検査されておらず、検査できた場合でも大半が商品を所持していなかった。国内転売に流れた可能性が高い。
2026年からスターする新免税制度で大丈夫か!?
財務省はこうした不正を防ぐため、2026年11月から免税方式を切り替える。現行の「購入時免税」を廃止し、まず税込み価格で販売した後、出国時に商品持ち出しを確認してから消費税を還付する「リファンド方式」を導入する。
免税制度の仕組み(現行方式とリファンド方式)
【現行:購入時免税方式】
訪日客がパスポート提示 → 税込価格から消費税分を免除 → 商品を免税価格で購入(出国まで商品の所持が義務。ただし検査は限定的)
【2026年11月~:リファンド方式】
訪日客がまず税込みで購入 → 出国時、税関で商品を確認 → 確認後に消費税分を返金
不正の流れ(典型的な手口)
免税価格で購入
↓
出国前に国内で転売(免税との差額=利益)
↓
税関検査では商品が既にない
↓
そのまま出国 (税収は失われる)
不正抑止効果を見込むが、自民党の勉強会は「免税店と訪日客が結託し、架空の高額取引を装えば過大な還付を受けられる」として、なお廃止論を主張する。
制度廃止を求める声は野党からも出ている。財政健全化を重視する立場から「ガソリン税の暫定税率廃止に代わる財源として、免税制度廃止を検討すべきだ」との意見が浮上。消費税収の確保を優先する論調だ。
観光業界や小売販売業界は猛反発
一方、観光業界や小売業界は猛反発している。全国免税店協会は7月、制度の維持を求める要望書を政府に提出。「免税がなければ訪日観光の魅力が低下し、旅行客が他国に流れる」と危機感を示した。韓国や台湾など近隣諸国が免税制度を維持している中で、日本だけが撤廃すれば国際競争力を損なうとの懸念がある。さらに、免税消費の冷え込みは法人税や所得税収の減少につながりかねないと警鐘を鳴らす。
免税制度をめぐる主張の違い | |
立場 | 主張のポイント |
自民党勉強会(廃止派) | ・不正横行で税収が失われている(年2000億円超) |
・日本は価格が安く、免税がなくても売れる | |
・免税店と訪日客が結託すれば還付悪用も可能 | |
野党の一部 | ・財源確保を優先すべき |
・免税廃止で消費税収を安定化 | |
・ガソリン税暫定税率廃止の代替財源にも | |
財務省 | ・制度は維持しつつ不正対策を強化 |
・2026年11月から「リファンド方式」に切替 | |
・検査強化で不正を抑止可能 | |
観光業界・小売業界 | ・免税は訪日観光の魅力の一部 |
・廃止すれば旅行客が他国へ流出 | |
・関連産業の法人税・所得税も減少しかねない |
観光庁の資料によれば、訪日外国人消費の拡大は地域経済に大きな波及効果をもたらしてきた。しかし免税利用の多くは大都市圏に集中し、地方での観光振興や特産品消費には十分に繋がっていない。国税庁の研究論文でも「免税制度には不正利用や地域偏在といった構造的課題がある」と分析されている。
制度を残すのか、あるいは廃止するのか。免税店制度の行方は、単なる税制の問題を超え、日本の観光戦略と財政政策の将来像を映す鏡となっている。訪日客の消費拡大と税収確保をどう両立させるのか。政治の決断が迫られている。
クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。