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最終更新日:2025-07-03

令和7年路線価 4年連続上昇も気になる二極化傾向 少子高齢化の日本 10年後の土地価格の傾向は!?

  • 2025/07/03
(写真:東京・中央区銀座の「鳩居堂」前は日本一高い過去最高の路線価となった)

(写真:東京・中央区銀座の「鳩居堂」前は日本一高い過去最高の路線価となった)

国税庁は7月1日、2025年(令和7年)の相続税や贈与税の算定基準となる土地の価格「路線価」を公表した。路線価は、全国の主要道路に面した土地の1平方メートルあたりの評価額を示したもの。2025年は、全国平均で前年比2.7%の上昇となり、4年連続のプラス。しかも、上昇率も2010年以降で最も大きくなった。上昇率は、前年の2.3%を上回り、2010年以降で最大の伸び幅。上昇の背景には、景気の緩やかな回復や都市部での再開発、住宅需要の高まり、訪日外国人観光客(インバウンド)の増加などが挙げられる。とくに東京都では前年比8.1%の上昇と、全国で最も高い伸び率を記録した。

都道府県庁所在地の最高路線価では、東京都中央区銀座5丁目の「銀座中央通り(鳩居堂前)」が40年連続の全国トップで、1平方メートルあたり4808万円。前年から8.7%上昇しており、5年ぶりの過去最高額を更新した。

一方で、最も路線価が下がったのが能登半島地震の影響があった石川県輪島市など。前年比マイナス16.7%と全国最大の下落率を記録している。

上昇率を都道府県別で見ると、前年の29県から35都道府県に増加。長野県白馬村では、インバウンド需要の高まりを背景に32.4%の上昇と、2年連続で全国トップの上昇率を記録した。

路線価が前年度比で上昇したトップ10は以下の通り。

上昇率トップ10(前年比)

順位地域(所在地)上昇率路線価(1㎡あたり)
1長野県白馬村+32.4%49,000円
2北海道富良野市北の峰町+30.2%82,000円
3東京都台東区浅草・雷門通り+29.0%5,780,000円
4岐阜県高山市+28.3%340,000円
5東京都足立区北千住+26.0%7,020,000円
6熊本県菊陽町+22.6%非公表
7大阪市此花区夢洲駅周辺+18.2%非公表
8東京都豊島区池袋・グリーン大通り+15.0%前後13,880,000円
9さいたま市大宮区桜木町+11.9%非公表
10千葉市中央区+11.2%非公表

 一方、前年比で下落率が高かったワースト10は以下の通り。

下落率ワースト10(前年比)

順位地域(所在地)下落率備考
1石川県輪島市・朝市通り周辺-16.7%能登半島地震と火災の影響
2石川県珠洲市(商業地)-15.1%前後地震被害
3石川県輪島市(住宅地)-14.9%前後地震被害
4和歌山県西牟婁郡上富田町-12.4%前後商業地
5福島県郡山市(見込地)-10.1%前後
6香川県高松市(工業地)-8.6%前後
7青森県青森市(工業地)-7.9%前後
8千葉県山武郡横芝光町(住宅地)-7.6%前後
9山梨県甲府市(住宅地)-6.5%前後
10鳥取県鳥取市-3.2%唯一の県庁所在地での下落

(出典:2025年7月1日に国税庁が発表した路線価より作成)

2025年路線価の地域別傾向を整理すると、次のような特徴が見られる。

都市部:再開発・インバウンド・住宅需要が牽引

路線価が上昇した地域を個別で見ていくと、東京都や大阪市などの大都市圏では、再開発プロジェクトの進展や企業の回帰、訪日外国人の増加によって、商業地・住宅地の地価が大きく上昇した。例えば、東京都の浅草・北千住・池袋などは再開発エリアや駅周辺での上昇が顕著で、住宅ニーズの高まりと不動産投資の活発化も影響している。

地方観光地はインバウンド効果で上昇の一方で・・・

地方都市については、ウィンタースポーツや自然景観の良い長野県白馬村や北海道富良野市、高山市などの観光地域が、外国人観光客に人気で地価が急上昇。宿泊施設や別荘地の開発需要も増加傾向になっている。また、地方中核都市(例:熊本県菊陽町、さいたま市大宮区)でも再開発や企業誘致により地価上昇が上昇した。

一方で、人口減少・商業の衰退が進む地域では、路線価は横ばいまたは微減傾向で、地方都市では路線価の二極化が鮮明になっている。

また、能登半島地震の被災地(石川県輪島市・珠洲市)では、建物の損壊・インフラの被害により地価が大幅下落。地震や火災など複合的な被害が長期的な資産価値にも影響を与えている。

二極化とは言いつつも、全国的に上昇し、過去最高価格となった路線価だが、気になるのが人口問題、過疎化の傾向と比較して、上昇地域は今後も伸びていくのかと言う点。上昇トップ10の地域ついて人口動態(増加・減少)から検証してみると、以下の図表の傾向が見える。

上昇地域の共通点と人口動態

地域例上昇要因人口傾向今後の見通し
長野県白馬村インバウンド観光、別荘需要人口は微減傾向季節需要に支えられ短中期は堅調だが、定住人口の減少が課題
北海道千歳市半導体工場(ラピダス)建設人口増加中雇用創出により中長期的に地価上昇が期待される
熊本県菊陽町・大津町TSMC進出による半導体関連需要人口急増中住宅・商業需要ともに拡大、今後も上昇余地あり
東京都台東区・豊島区再開発・観光地・交通利便性人口は横ばい〜微増都市機能の集中により安定した上昇が見込まれる
岐阜県高山市観光需要(国内外)人口は減少傾向観光依存型であり、外的要因に左右されやすい

路線価の上昇が続く可能性が高い地域の特徴としては、①人口が増加している地域(例:千歳市、菊陽町)、②s雇用創出が見込まれる産業誘致地域、③都市圏で再開発が進行中のエリア、④交通インフラが整備されている地域と考えられる。

一時的な上昇にとどまる可能性がある地域の特徴としては、①観光依存型で定住人口が減少している地域、②高齢化・空き家率が高い地域、③自然災害リスクが高い地域(例:能登半島地震の被災地)というのが一般的な見方だ。

こうした見方を踏まえ、人口動態・産業構造・都市計画などの複合的な視点から現在路線価が上がっている地域の10年後の2035年について検証してみると、以下のような傾向が見えてくる。

地域別にみた2035年の路線価と人口動態予測

地域名主な上昇要因人口動態(2035年予測)10年後の見通し
東京都 中央区再開発・観光・高級商業地人口微増(+17.1%)地価は高止まりまたは緩やかに上昇継続
長野県 白馬村インバウンド観光・別荘需要人口減少傾向(高齢化進行)季節需要は堅調だが、定住人口減で頭打ちの可能性
熊本県 菊陽町TSMC進出・半導体産業人口急増中(今後も増加見込み)住宅・商業需要ともに拡大、地価上昇継続の可能性大
北海道 千歳市ラピダス工場建設・雇用創出人口増加傾向(若年層流入)工業・住宅地ともに上昇基調が続く見通し
岐阜県 高山市観光需要(国内外)人口減少傾向(高齢化進行)観光依存型で外的要因に左右されやすい
東京都 台東区再開発・観光地・交通利便性人口横ばい〜微増地価は安定上昇、再開発次第でさらに上昇余地あり

最後に前述した点を踏まえ、人口動態から路線価の将来を検証していくと、2035年に向けて、人口増加と雇用創出が見込まれる地域では地価の上昇が持続する可能性が高く、一方で、観光需要や一時的な投資で上昇した地域は、人口減少や高齢化により地価が頭打ちになるリスクがある。