最終更新日:2025-09-09
暗号資産の税務調査 暗号資産特有の3つの論点とは
- 2025/09/12
- 2025/09/09

暗号資産(仮想通貨)取引が広がるにつれて、国税当局による監視の目は年々厳しさを増している。税務調査の連絡が来た際、納税者はもちろんのこと、顧問税理士でさえ、一般的な税務調査とは異なる暗号資産特有の論点に直面することになる。特に注意すべきは、激しい価格変動による納税資金の確保、国内・海外を問わない全取引履歴の網羅的な把握、そしてDeFiやステーキングといった専門的な技術への理解だ。これらの特異性を踏まえ、事前に万全な準備を整えることが、調査を乗り切るための鍵となる。
暗号資産の税務調査は、一般的な企業や個人の税務調査とは異なる特殊な課題を内包している。国税当局ではすでに、ブロックチェーンの公開情報や国際的な情報交換を通じて、納税者の取引内容を詳細に把握している。こうした状況において、国税出身の税理士は暗号資産の税務調査において、特に留意すべき3つのポイントを指摘する。
激しい価格変動が引き起こす「納税資金不足」
暗号資産取引の最大の特性は、その価格変動の激しさにある。この特性は、税務上の大きなリスクとなりうる。たとえば、2023年に暗号資産を売却して大きな利益を確定させたとする。この利益に対しては、翌年の確定申告期(通常は2024年3月)までに税金を納付しなければならない。しかし、その間に市場が暴落し、手元に残った暗号資産の価値が大幅に下落していた場合、「利益は出たが、納税資金がない」という最悪の事態に陥る可能性がある。
このリスクは、顧問税理士など税の専門家とも早い段階から情報共有し、適切な対策を講じることが重要だ。
理想的な対策は、利益が確定した時点で、納税に必要な金額分の日本円を確保しておくこと。利益を再投資に回し、すべての資産を暗号資産のままにしておくと、価格下落リスクを直接的に負うことになる。税務調査では、この納税資金の確保状況についても質問が及ぶ可能性がある。利益が出たタイミングと納税までのタイムラグ、そしてその間の資産価値の変動リスクについて、明確な説明が求められるだろう。
取引履歴の「網羅的な把握」が最大の壁に
一般的な税務調査では、特定の銀行口座や事業に関連する帳簿書類が主な調査対象となる。しかし、暗号資産の税務調査では、国内・海外を問わず、全ての取引履歴が調査対象となる。これは納税者だけでなく、顧問税理士にとっても大きな負担となる。
調査官は、国税通則法第74条の2に基づく質問検査権を行使し、国内の暗号資産交換業者から取引履歴を入手する。しかし、多くの暗号資産投資家は、より多くの銘柄やサービスを求めて海外の取引所を利用したり、DeFi(分散型金融)、NFT、ブロックチェーンゲームといった複雑な分野に手を出している。これらの取引は、申告漏れが最も生じやすい領域だ。納税者自身も、複数の取引所やウォレットに分散した取引を正確に把握できていないケースが後を絶たない。
税務調査に臨む前には、以下の作業が不可欠となる。
全取引所の履歴収集
国内外問わず、利用した全ての取引所の取引履歴をCSVファイルなどでダウンロードする。
ウォレットの分析
自分で管理しているウォレットの送受信履歴を、ブロックチェーンエクスプローラーなどで全て洗い出す。
損益計算の再検証
複数の取引所やウォレットをまたぐ複雑な取引を含め、専門の計算ツールなどを活用して正確な損益計算をやり直す。この網羅的な履歴の収集と正確な損益計算こそが、税務調査で最も時間と労力を要する部分。顧問税理士の調査対応能力の実力はここでよく分かる。
専門用語と技術的背景への「理解と説明能力」
調査官は、暗号資産の専門知識を持って調査に臨む。したがって、納税者やその代理人である税理士も、専門用語や技術的背景を正確に理解し、説明できる能力が求められる。
例えば、レンディング(貸付)やステーキング(保有証明)で得た報酬は、雑所得として課税対象となる。しかし、これらの取引の仕組みや、いつ所得が確定したと見なされるかについては、明確な理解がなければ正確な申告は難しい。また、NFTの売買やブロックチェーンゲームで得た暗号資産の所得計算、ウォレット間のブリッジ(異なるブロックチェーン間の資産移動)といった複雑な取引については、調査官からの質問が集中する可能性がある。
税務調査の場で、これらの取引の実態を正確に説明できなければ、調査官は「意図的な申告漏れ」と見なす可能性がある。税理士は、顧問先の取引内容を事前にヒアリングするだけでなく、自らも関連する技術や専門用語について学習しておく必要がある。
最終的な結論と準備の重要性
暗号資産の税務調査は、単に帳簿の数字を追うだけでなく、技術的な理解と、納税者の行動を深く掘り下げる調査となる。国税通則法第74条の2や所得税法第35 条といった根拠に基づき、調査官は広範な質問を投げかけてくる。
納税者側は、調査官の質問に対し、正直かつ正確に、そして論理的に説明できる体制を整えることが肝要だ。そのためには、まず全ての取引履歴を徹底的に洗い出し、正しい損益計算を行う。そして、税務署からの質問を想定し、専門用語や取引の実態についてスムーズに説明できるよう、事前にシミュレーションしておくべきだ。
暗号資産の税務調査は、一般的な税務調査よりも高度な準備と専門知識を要する。この特殊性を理解し、万全の体制で臨むことが、不必要な追徴課税やペナルティを回避する最善の方法である。
クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。