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最終更新日:2023-02-17

Vol.1 お客様が抱える、売れない貸せない負動産の問題 いよいよ始まる「相続土地国庫帰属制度」

  • 2023/02/17
いよいよ始まる「相続土地国庫帰属制度」 Vol.1 お客様が抱える、売れない貸せない負動産の問題

監修者

松尾 企晴

松尾 企晴

Land Issues (株)代表取締役

不動産コンサルティング会社のプロサーチ(株)に中途入社し、2017年より代表取締役に就任。不動産、遺産相続事業の活動を通して見えてきた課題に取り組むべく、2020年にLand Issues(株)(ランドイシューズ、東京・千代田区、https://land-issue.com/)を設立。また、税理士ら士業・専門家向けコミュニティ「プロサーチ遺産相続実務倶楽部」を運営。土地に新たなる価値を作り出し、未来へつなげる事業を展開中。

これまで相続トラブルの原因となってきた田舎の土地の処分がしやすくなる画期的な制度として期待される「相続土地国庫帰属制度」。しかしながら、実際の運用面ではいくつかのハードルがあり、条件次第では多額の負担金が必要となるなどのリスクもある。「このまま、土地を持ち続けるべきか手放すべきか」といった相談に、どのようなスタンスで臨めばいいのだろうか。この分野に詳しいLand Issues (株)の松尾企晴社長に、問題点や事例を紹介しながら、全5回のシリーズで解説してもらう。

売れない不動産がもたらす問題

「相続した山林を処分したいです。どうしたらいいですか?」

「不動会社に相談しても売れない別荘地があります。手放す方法はありませんか?」

このような不動産のご相談を受けたことありませんか?

売ることも貸すことも有効活用することもできる不動産なら、ご相談を受けてもさほど困ることはないですよね。

しかし一方で、欲しい人が少ない処分等に困る不動産(以下、「負動産」という)のとき、専門家の皆さんはどのような対応をされていますか。

連載第1回目は負動産の問題についてお伝えしていきます。この記事を読むと、負動産を所有するお客様が抱える悩みやリスクを知ることができます。

“負動産”の環境

売れない貸せない不動産の環境は厳しく、お客様は途方に暮れ諦めたりしています。

たとえば、

・過疎化が進んでいる空き家状態の実家

・原野商法で購入した原野

・耕作放棄状態の田畑

・廃れた別荘地 

などの不動産です。

価格も低く売れない不動産は、手間暇かけて真剣に手伝ってくれる不動産会社が少ないという厳しい現実があります。

倒壊等の危険がある空き家を放置し続けると固定資産税額の負担が上がったり、欲しくもない不動産の相続登記が義務化(2024年1月1日施行)されるなど、取り巻く環境は厳しくなる一方です。

親・子の世代間のギャップ

1990年代までの不動産は、人口が増え続けていたため建てればすぐ借り手が付き、売ろうと思えば購入価格より高く売れる良い資産でした。しかしいまは逆です。子世代は相続したくない、負担ばかりと考えています。

このように親世代と子世代とで不動産に対する考えが違うため、親は子にとってみたら負動産だとも思わず、とにかく残したい一心です。そして相続発生のときに、負動産を相続した子は、売れず手放すことができずに悩み、様々な問題に直面しています。

※不動産に対する世代間ギャップ(弊社私見)

“負動産” 5つの問題点

次に、負動産を所有するお客様が抱えている代表的な5つの問題点をお伝えします。

(1)相続のたび費用がかかる

(2)遺産分割で押し付け合う、共有になる

(3)固定資産税や管理費の負担

(4)詐欺の対象となる

(5)崖崩れや倒壊等による所有者の管理責任

ひとつずつ見てきましょう。

(1)相続のたび費用がかかる

負動産でも相続の度に費用が掛かります。

たとえば相続税がかかる方であれば、負不動産の評価額×相続税率の税負担があります。また、税負担の有り無し関係なくかかる費用もあり、登録免許税(税率1000分の4)や相続登記報酬(10万円前後)といったものです。

これら費用は一代だけをみると大した費用ではないでしょう。しかし、手放せない限り、子世代や孫世代も続いてきます。

(2)遺産分割で押し付け合う、共有になる

使い道もない負動産は誰も欲しくないわけです。ですから、いざ遺産分割の場面で相続人間にて押し付け合うなどしばしば問題に発展してしまいます。

話し合いがつかないと「とりあえず不動産を共有する」こともあります。意図のない共有はいずれ責任の押し付け合い、いざというとき意見まとまらず動かせない(≒塩漬け)状態になってしまいます。共有者が高齢になると認知症による資産凍結問題もあるでしょう。

このように誰も欲しくないからと不動産を共有することは、問題を深刻化することにもなりえますから、単なる問題の先送りでしかありません。

(3)固定資産税や管理費などの負担

不動産は持っているだけで様々な費用負担をしなくてはなりません。

・固定資産税、都市計画税

・維持管理の費用(別荘地の管理費や、植栽剪定など)

・火災保険料 など 

山林や別荘地、地方の実家などの負担は、年間1万円から5万円くらいと金額的にみると大きな負担ではないかもしれません。

しかし、売れない貸せないまま放置していたとして、祖父母の代から孫の代まで所有し続けるとなるとそうはいっていられなくなります。後ほど事例でお伝えします。

(4)詐欺の対象になりやすい

売れない、子に残したくないと悩んでいる不動産所有者を狙った詐欺があります。

不動産ブローカーと名乗る者から「買い手がいるから調査料50万円かかります」、「売るにはまず測量をしないといけません。測量代30万円ください」と連絡がくることがあります。

最近では、「売却活動のため看板設置費用として30万円かかります」と、30万とか、50万円とか現実的に支払えそうな金額を提示してきます。

このような甘い話は怪しいと思ってください。

お金を支払ったら最後、そのまま連絡が取れなくなってしまいます。

売れなくて困っている方の【なんとか手放したい!】という希望や弱みに付け込んだ詐欺である可能性が高いです。くれぐれも先にお金を要求してくる場合は気を付けてください。

独立行政法人国民生活センターでも警笛を鳴らしています。

(5)所有者の管理者責任

空き家や山林でも、所有者として管理義務や事故など有事の際の責任があります。

例えば空き家は、放火による延焼や外壁が倒れて通行人が怪我を負うなどすれば、例えその家を利用していなかったとしても責任を取らなければなりません。

お客様の中には、空き家が心配で定期的に見に行っている方もいらっしゃいますが、遠方の場合には直ぐに駆けつけられないこともあり、何か起こった際に迅速な対処ができずに被害が大きくなることもあるのです。

その他、山林でも山崩れがおきて人や家屋などの財産に損害を与えてしまうと管理者責任などを追及されることがあります。

空き家や山林などであっても、このように所有しているだけで責任が付いてまわるということを知っておきましょう。

事例 子も孫も使う予定もなく売れない山林

【前提条件】

・相続税評価額100万円

・固定資産税1万円/年

・相続税率30%

・祖父が現在70歳、子(40歳)や孫(10歳)がいる

1)祖父:80歳で相続発生 10年間で固定資産税10万円

2)子の代:50歳で相続して、子も祖父と同じく80歳で相続発生した場合

  ・相続税30万円

  ・相続後30年間保有で固定資産税30万円

  ・相続登記報酬10万円

  計70万円

3)孫の代:子の代と同じ70万円

このご家族は祖父母の代から子の代まで税金を合計で150万円負担することになります。

この他に日常的な管理にかかる費用があると更に負担が増えます。

祖父の代だけの負担を考えれば大したことはないですよね。

しかし長い期間で考えてみると、負動産のために150万円も財産が減るということなのです。

まとめ

問題が山積みの負動産。 果たして皆さんのお客様が所有されている不動産は、次世代に相続させるべき不動産なのでしょうか?

相続放棄や物納など売れない不動産を手放す制度はありますが、なかなか使い難いものばかりでした。このお客様の問題の解決につながる制度がいよいよ2023年4月27日から始まります。『相続土地の国庫帰属精度』と呼ばれ、相続放棄のように全財産を放棄するのではなく、土地だけを手放せる画期的な、救世主となり得るものが創設されます。

次回から、「相続土地国庫帰属制度」についてお伝えします。

いよいよ始まる「相続土地国庫帰属制度」 Vol.1 お客様が抱える、売れない貸せない負動産の問題

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