最終更新日:2021-07-19
注目される自分できるクラウド相続税申告|税理士のサポートでコミット
- 2021/07/19
相続税の申告において、税務知識がなくてもクラウド上で相続税申告書が簡単に作成できるサービスが進化している。ましては、若手税理士らが開発したシステムとなると、がぜん注目の的で、最大の売りは、“プロでなくてもできる相続税申告”だ。
若手税理士らが「better相続」を開発・提供
公認会計士・税理士の両資格を持つ3名とリクルート出身のエンジニアで立ち上げた(株)better(東京・中央区、代表取締役=安東容杜公認会計士・税理士、写真)が開発した「better相続」は、2020年1月のサービス開始以来、税制改正に伴うバージョンアップやオプションで不動産の名義変更にも対応。さらに、これまで提携税理士と顧客のやりとりで蓄積されたデータをもとに開発したAIチャットボット「AI相続先生」という新たなサービスを追加し、使いやすさや機能を向上させている。
プロでなくても自分でできる相続申告
「better相続」の最大の特長は、プロでなくてもできる相続税申告。クラウド化が進んでいる会計・税務の業務ソフトに比べ、相続分野はまだまだアナログが主流。「テクノロジーをフル活用することで課題を解決し、その恩恵をユーザーに最大限還したい」(安東氏)というのが開発の原点と話す。
ターゲットは50~60歳代の相続人で、2015年の相続税改正後、9万人近く存在すると言われる遺産総額1億円レベルのサラリーマン家庭が中心。この層は税理士との接点が少なく、相続財産は不動産をはじめ現金や保険が中心。被相続人が会社経営者でなく、かつ、不動産の評価や非上場株式など、相続税評価に専門性が必要でない個人であれば、「専門家の協力を得なくても、わかりやすいクラウドツールがあれば、自身で相続税申告が可能」(同氏)という。
仕組みはシンプルで、まずは自分が申告できるかの「自己診断」からスタート。税務調査リスクなど、この段階で抱える不安や疑問点については、税理士が電話で対応するケースもある。問題がなければ、簡単な質問形式のガイドに沿って入力し、財産の洗い出し、必要書類の収集を経て、残高証明書などの情報から相続人の課税価格を算定した納税額を算出し、申告書を作成する。ここまでの処理はシステム上で行い、提携税理士による申告書チェックを受けた後、申告書をPDFで出力し、印刷・提出という流れで相続税申告が完了する。
「AI相続先生」による相談対応を開始
今回、新たに「better相続」のサービスに加わった「AI相続先生」は、税務相談の内容を分析し、その回答パターンを体系化し精度を高めた。例えば「退職金と相続税の関連」「小規模宅地の適用条件」などのユーザーからの質問に対して、AIが関連性の高い回答候補を提案する。やり取りが増えるごとに、より精度の高い回答が提供できる仕組みで、それでも難易度が高く解決しない質問等については、税理士が個別回答する。
これら一連のサービスは、システム利用料と税理士の税務相談サポート込み75,900円(税込)の定額。最終的に申告書の作成が出来なかった場合には、全額返金される。ニッセイキャピタルの出資を受けて、相続ウェブサービスの開発・運営事業を開始させた同社。こうした相続税申告関連では、無料の「AI相続」や「ひとりで申告できるもん」などがあるが、有料でシステムおよび税理士サポートをセットにし、相続税申告にコミットしている点に強みがありそうだ。
3年後は年間1万ユーザーが目標
サービス提供後1年余とあって、現時点では大きなトラブルはなく、ユーザーからも相続税の税務調査で相談を受けたケースはないという。相続税申告マーケットで、税理士が関与しないケースは2万件強あるという調査もあり、こうした層は同社のコアユーザーになり得る。
現状、「税理士事務所や税理士法人からのニーズは想定していない」と話すが、職員によってばらつきが発生しがちな税務回答を、高品質な統一見解として安定的に提供できる仕組みが評価されるケースもでてきそうだ。オンライン面談を含め、今後、相続申告だけでなく、相続手続きを含めたサービスも加えて、「3年後は年間1万ユーザーを目指す」(同氏)と意気込む。
会計・税務分野のIT化が進展するなか、税理士の「専門性」と「AI技術」の双方の利点を活かした同システムは、今後さらなる注目を集めそうだ。
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税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。