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最終更新日:2021-04-03

“ホワイトデーショック”の「節税保険」 気になる通達改正の行方

  • 2021/04/03
“ホワイトデーショック”の「節税保険」 気になる通達改正の行方

2019年2月の保険「バレンタインショック」に続き、今度は「ホワイトデーショック」と称される低解約返戻金型保険の名義変更スキーム問題が勃発。現段階では情報が錯綜中で、「節税保険」を巡る課税庁側の動向に目が離せない状況だ。

「低解約返戻金型保険」の課税ルール変更が発端

すでにマスコミで報道されたこの「節税手法」は、法人から生命保険契約を売買等で個人へ契約者名義を変更するいわゆる「名義変更プラン」について、当局が課税ルールの変更を生命保険協会に通知したことが発端となり、話題を集めているもの。

内容は、2021年3月12日生命保険協会から各生命保険会社に、国税からの連絡事項として「法人定期保険契約等に係る権利の評価の見直しについて」の連絡があった。

概要は次の通り。

*法人契約の定期保険を個人に名義変更した際の給与課税につき見直しを検討している。

*現行は給与課税すべき経済的利益を一律解約返戻金で評価しているがこれを解約返戻金が資産計上額の7割未満の場合には資産計上額で評価する方向。

*本件の見直しは法人税基本通達9-3-5の2に基づき資産計上されている契約(2019年7月8日以降に締結した契約)につき今回の改正に後に名義変更を行った場合に適用することを想定。

「名変」のメリットには“おまけ付き”も

経営者向け保険の中には、生命保険に加入した当初は低解約期間を設定し解約返戻金を極力抑え返戻率をアップさせる商品があり、この保険を利用し低解約期間中は法人が保険料を負担し、返戻率がアップする直前に個人に契約を移すものであった。その結果ピークの返戻金から買い取った解約返戻金と名義変更後の個人が負担した合計額との差額が、個人の収入となるというものであり、その際、所得税法上は一時所得として扱われるためメリットが大きかった。さらに、契約した法人は資産計上した額と解約返戻金の差額が譲渡損として損金計上が出来るというおまけ付きであった。

それが今回、解約返戻金ではなく資産計上額を譲渡の際の評価額となると考えられている。実際のところ、同保険の販売生保会社は、5,6社程度とされる。儲かっている同族企業らに対して販売していた感があるが、数年前からこのプランは使えなくなるのでは、とした見方もあり、「保険募集人にとって売りやすい保険であったのは事実。ただ、ちょっとやりすぎではないか」という声も少なからずある。

新通達の適用時期巡り否認のリスク高まる

課税ルールの見直しについては、4月以降に開始されるパブリックコメントの内容を待つことになるが、保険会社サイドが関心を寄せているのが、新通達が出されることになった場合の適用時期。2019年7月8日以降に契約した保険について、改正日後に名義変更した場合の適用になるようだが、現行ルールが適用されている期間中に慌てて法人から個人へ契約者名義変更をすると、その契約者変更に経済的合理性がなければ、「否認されるリスクが高くなる」とした見方が出ている。

税理士の山口淳一氏

税理士の間でも、「パブコメの内容にもよるが、遡及課税の疑いが強い」という指摘もある。こうした税務リスクに警鐘を鳴らすのは、世界の生命保険募集人の中の成績優秀者で構成されるMDRT(世界百万ドル円卓会議)の中でも、上位者0.1%の人にだけ与えられる最高位の「TOT」という称号を持つエキスパート税理士の山口淳一氏(写真)だ。

グレーゾーンの活用手法にピリオド

「契約から5年で約85%以上の解約返戻率が設定された低解約返戻金型の定期保険。個人への名義変更にあたり法人サイドでは譲渡損を計上し、結果的に支払保険料の多くの部分が損金処理することができた。一方、譲渡された側では、給与所得とは別の資産移転の手段として、一時所得のメリットを享受できるため経営者も関心を寄せていたようだ。しかし、こうした税務メリットだけを突き詰めていくと、場合によっては、契約者である会社に多大な損害を与えるため利益相反取引に抵触する可能性もあり、以前からグレーゾーンにあった活用方法だった」としている。

ただ、メリットばかりではなく契約後の低解約期間中に今回のコロナのような経営上多大な影響を受けた場合には資金繰り上、保険料の支払いが出来なくなり、今までに払ってきた総保険料が無駄になる恐れもある。この点についても山口氏はこう見解を述べる。

「業績が好調の企業に持ちかける動きが見られたが、今回の規制で今迄のようなメリットがなくなったのではないか。保険を扱うに当たり生命保険の高い専門知識が要求されるため、販売から保全に至るまで顧客の利益を一番に考えることが一層重要になってくることから、税理士が生命保険本来の機能から逸脱した提案をする時代は終わったように思われる」と指摘している。

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