最終更新日:2025-09-10
東京国税局 オリンパスに110億円の追徴課税 グループ通算制度の落とし穴と企業が備えるべき税務リスク
- 2025/09/10

一部報道によると、精密機器メーカーのオリンパスが、子会社の税務申告に関して東京国税局から約110億円の追徴課税を受けたようだ。背景には、2022年に導入された「グループ通算制度」の誤適用があると見られる。制度の理解不足が申告漏れを招き、企業に多額の税務リスクをもたらす可能性がある。今回はこの事例を参考に、グループ法人税制を利用する際の注意点と制度の本質について検証する。
精密機器メーカー・オリンパスが、子会社の税務申告をめぐって東京国税局から約110億円の追徴課税を受けたと報じられた。背景には、2022年4月に導入された「グループ通算制度」の誤適用があると見られる。企業が制度の仕組みを正しく理解しないまま申告を行えば、損益通算が認められず、結果として多額の申告漏れや追徴課税につながる可能性がある。
オリンパスの事業再編と税務申告の流れ
マスコミ報道によると、オリンパスは、2011年に発覚した粉飾決算事件を契機に、収益性の低い事業の売却と医療機器分野への集中を進めてきた。2022年には顕微鏡などを扱う科学事業を「エビデント」として分社化し、2023年には米国の投資ファンドに売却している。
この過程で、オリンパスはグループ通算制度に基づき、子会社エビデントの赤字を自社の黒字と相殺して申告した。しかし、エビデント側の申告が制度要件を満たしていなかったため、通算が認められず、約300億円の申告漏れが発覚。結果として、約110億円の追徴課税が課された。
グループ通算制度とは何か
グループ通算制度は、2022年4月に導入された新しい法人税制で、親会社と子会社がそれぞれ個別に申告を行いながら、グループ全体で損益を通算できる仕組みとなっている。従来の連結納税制度では、親会社がグループ全体の申告を一括して行う必要があり、子会社の申告修正があると親会社が再計算を強いられるなど、実務負担が大きかった。
この制度変更により、申告の柔軟性は高まったが、形式的な要件や届出の不備があれば通算は認められない。制度の運用には、税務署への届出、通算申告書の提出、適用開始時期の管理など、厳格な対応が求められる。
図表:旧制度と新制度の比較
項目 | 連結納税制度(旧) | グループ通算制度(新) |
開始時期 | 2002年 | 2022年4月 |
申告方法 | 親会社が一括申告 | 各法人が個別申告+通算調整 |
修正申告の影響 | 子会社の修正で親会社が再計算 | 子会社の修正は原則個別対応 |
実務負担 | 親会社に集中 | 分散・軽減 |
損益通算の可否 | 可能 | 可能 |
制度適用の要件 | 届出・承認制 | 届出・通算申告書の提出が必要 |
ケーススタディ:申告構造と通算の失敗
オリンパスは、グループ通算制度の枠組みを前提に、子会社エビデントの赤字300億円を自社の黒字と相殺して申告した。しかし、エビデント側の申告が制度に則っていなかったため、通算が否認され、結果としてオリンパスに対して約110億円の追徴課税が発生した。
グループ法人制度を利用する際の注意点
オリンパスの事例は、制度の誤認識が企業に多額の税負担をもたらす可能性を示している。グループ法人税制を利用する企業は、以下の点に留意すべきだ。
- 制度の形式要件(届出・申告書提出)を軽視しない
- 分社化・売却時の税務申告に慎重にする
- 子会社の申告体制が制度要件を満たしているか確認する
- 税務当局との事前協議や専門家の関与を積極的に活用する
制度の趣旨だけでなく、実務運用における細部まで精緻に理解することが求められる。特に、事業再編やM&Aを伴う場面では、税務制度の適用可否がグループ全体の申告に影響を及ぼすため、慎重な対応が不可欠だ。グループ通算制度は、適切に活用すれば税務効率を高める有力な手段。しかし、制度の理解不足や手続きの不備があれば、逆に多額の税負担を招くリスクとなる。今回のオリンパスの事例は、制度運用の実務とリスク管理の重要性を改めて浮き彫りにした。制度を利用する企業は、形式と実質の両面から制度適用の妥当性を検証し、税務リスクの最小化に努めるべきである。
クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。