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最終更新日:2023-02-28

国外財産債務調書の提出件数は少ない?

  • 2023/02/28
国外財産債務調書の提出件数は少ない?

国税庁から毎年、「国外財産債務調書」の提出件数が発表される。居住者で5千万円超の国外財産を有する人が税務署に提出するもので、国税当局では富裕層情報の一つとして重要視している。令和3年度分は、過去最高の提出件数になったが、富裕層の数からするとその数は少ないのではないかとの見方も少なくない。

執筆者

宮口 貴志

宮口 貴志

KaikeiBizline論説委員兼編集委員

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。現在は一般社団法人租税調査研究会の事務局長であり、会計事務所ウオッチャー、TAXジャーナリストとして活動。㈱ZEIKENメディアプラス代表取締役社長。

1.国税庁が取り組む「重点課題」とは?

国税庁が取り組んでいる「重点課題」をご存じですか?「租税回避への対応」「富裕層に対する適正課税の確保」「消費税不正還付等への対応」「大口・悪質事案への対応」と、要は「国際」「富裕層」「消費税」「悪質事案」です。

「国際」「富裕層」が絡むことが多く、国税庁では富裕層の海外資産の状況を含め情報収集に力を入れています。

何と言っても興味深いのが、国税庁が発表する「国外財産債務調書」の提出件数です。国外財産債務調書は、居住者(非永住者を除く)で、その年の12月31日において、その価額の合計額が5千万円を超える国外財産を所有していれば、その種類、数量及び価額その他必要な事項を記載し、住所地等の所轄税務署に提出する必要があります。令和4年12月31日分の国外財産調書の提出期限は、令和5年3月15日です。

2.加算税の特例措置も

国外財産債務調書は、自主的に自己の情報を記載し提出するものであることから、適正な提出を確保し、国外財産に係る情報を的確に把握するために、加算税の軽減措置が取られています。

これは、提出された調書に記載された国外財産に係る所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても加算税を5%軽減するものです。一方で、加算税の加重措置も取られており、同調書の提出がない場合又は提出された調書に記載のない国外財産に係る所得税・相続税の申告漏れが生じたときには、加算税を5%加重されます。このほかにも加算税に関する特例があります。

その国外財産債務調書の「令和3年度分(令和3年 12 月 31 日時点)」の提出件数が国税庁から公表されました。それによると、令和3年分は前年度より778件増え、1万2,109件と過去最高でした。平成25年の国外財産債務調書制度導入から見ると、2倍以上の提出件数となっています。件数が増えた理由はいくつか考えられますが、コロナ禍やウクライナ・ロシア戦争などによる為替変動が、急速な円安を招きドル高による資産増により同調書の提出件数増につながったと見る向きが強いようです。

(出典:国税庁のデータを筆者がまとめたもの)

富裕層に関するデータは野村総合研究所が有名ですが、2020年12月21日に公表した調査(https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2020/cc/1221_1)によれば、1億円以上5億円以下の純金融資産を保有する富裕層は約124万世帯で総額は236兆円。5億円以上保有する「超富裕層」も8.7万世帯で、その総額は97兆円と報告しています。

3.着々と進む富裕層への調査

この数字から見ると、現在の国外財産債務調書の提出件数は、少ないのではないかとの見方が少なくありません。国税庁も同様に考えているようで、ある幹部職員は、「制度導入時に想定していた件数と乖離している」と言っていました。そのため、富裕層に対しては、海外資産を含めて厳しい目が向けられています。

当局では現在、諸外国と国外送金等調書、国外財産債務調書、租税条約等に基づく情報交換制度のほか、CRS情報(共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報)などを効果的に活用し、富裕層への調査を進めています。図2の通り成果は着々と出ており、令和3事務年度は、コロナ禍で調査件数こそ減っているものの、1件当たりの申告漏れ所得金額は7,836万円、追徴税額も2,953万円とともに過去最高でした。

特に、海外投資等を行っている「富裕層」は、1件当たりの追徴税額が前年度の879万円から約3.4倍の2,953 万円と大幅にアップしています。この数字は、所得税の実地調査(特別・一般)全体の 323 万円に比べ 9.1 倍です。

国税庁では現在、全国の国税局に「重点管理富裕層プロジェクトチーム」を設置し、超富裕層に関係する個人や法人を含めて一体的に管理し、情報の収集・分析に取り組んでいます。国税当局では益々、富裕層包囲網を厳しくしていくことが確実です。調査になる前から十分な対応策を検討しておくことが不可欠になっています。

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