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最終更新日:2021-03-26

時流に乗るか?「相続手続ビジネス」若手士業が新資格「相続手続相談士」で市場開拓

  • 2018/08/20
  • 2021/03/26
時流に乗るか?「相続手続ビジネス」若手士業が新資格「相続手続相談士」で市場開拓

相続手続相談士研究協会 最高顧問 新井 健太 行政書士  
相続手続相談士研究協会 ディレクター 大野 晃 税理士

税制改正の影響で相続市場は拡大しつある一方、市場は低価格化が進展し、競合の激しいレッドオーシャンとなりつつある。逆に有望視されているのが申告以外の相続周辺ビジネスで、なかでも今、最も注目されるのは「相続手続き」の市場だ。そのタイミングを逃がさずこのほど誕生したのが、「相続手続相談士」の資格検定。あくまで運営団体の相続手続相談士研究協会としての任意資格だが、果たして相続手続ビジネスを加速させる牽引役になるのだろうか。制度創設の狙いや意気込み、今後の展開について、同研究会最高顧問の新井健太行政書士とディレクターの大野晃税理士にインタビューした。

「手続代行サービスから学んだノウハウを士業の質の底上げに」
相続手続相談士研究協会 最高顧問 新井 健太 行政書士(写真左)

「Web完結型の教育・実践ツールの提供で営業面のフォローも」
相続手続相談士研究協会 ディレクター 大野 晃 税理士(写真右)

―まず、大野先生から相続手続に関心を持たれた経緯をお話しください。

大野 6年前の税理士受験時代から相続には関心を持っていましたが、当時は相続税の基礎控除額が高く、実際に相続税がかかる相談者はほとんど皆無でした。申告のニーズが低ければ相続分野に本格的に参入していくのは無理だろうと思っていた矢先、銀行口座の解約依頼を有償で頼まれ、金融機関によってそれぞれ対応が違って苦労したことがありました。
その後もそうした現場経験を積んで、依頼者からも感謝されました。ならば「もっと相続手続きが認知されるようになったら相続人の負担も軽減されるのでは」と感じ、それが、この分野に着目したきっかけです。

―以前から相続分野に進みたかったという話ですが、新井先生との関りは?

大野 以前から新井先生のことは、豊富な相続手続きのサポート実績やノウハウの持ち主として存じ上げていましたので、業務提携を結んで悩める相続人を支援していこうと意気投合しました。3年前は税理士のための団体「(一社)中小企業税務経営研究協会」の設立と運営に携わっていた時期でもあり、この組織を母体として相続手続きのビジネス化構想を練りました。

地元密着の相続支援サイトで実績作り
申告等の顕在化したニーズを税理士と協業へ

―新井先生の税理士との協業のきっかけは?

相続手続相談士研究協会 最高顧問 新井 健太 行政書士

新井 私は行政書士の資格を取得し、今から10年前の23歳のときに独立開業しました。祖母の相続で家族が通帳などを探している姿をみて、何か寂しく思った経験があり、以来、相続税のかからないお客様向けのサービスとして、素人が面倒でわかりづらい相続の手続きを専門家が代行してあげられれば、家族間の争いやトラブルも解消でるのではないかと。何より、遺族の方々が個人を偲ぶ「気持ちの余裕」が持てるのはとても大切なことと思うようになりました。
私は行政書士として、手続きに必要な戸籍集めから、銀行口座解約まですべて代行しています。地元、東京・練馬区限定の相続支援サイトを活用して集客しており、現在は口座解約実績10億円を突破しました。その一方で、財産状況を細かくヒヤリングしていくと高額な資産があるケースもあり、専門家の手助けが必要と思われる相談案件が結構な割合で出てきました。その顕在化したニーズを税理士と提携することで、より幅広くビジネス展開が図れるのではないかと思ったのが協業のきっかけですね。

―申告以外の相続周辺ビジネスにブルーオーシャンがあると。

新井 はい。年間100万件超とされる相続案件に間違いなく発生するのが相続手続です。その手続ごとに必要書類や届出先、依頼先、期限等が異なり、また、相続人本人が行う手続もあれば、不動産登記、遺産分割書、相続税申告といった専門家が手がける手続もあります。
そうした相続手続で八方ふさがりの状態の時に、全てをサポートしてくれる存在の専門家がいたら、どんなに心強いことか。私のこれまでの10年間にわたる相続手続のノウハウを、税理士さんの業務に活かして欲しいという思いは常に持っていました。

―それが、今回の「相続手続相談士」資格の創設に繋がったわけですね。

相続手続相談士研究協会 ディレクター 大野 晃 税理士

大野 相続に関して専門家の分業体制を壊すことはできませんので、「餅は餅屋」の世界でお互いに協力し合い、相続手続の最初の相談相手となる受け皿づくりからスタートさせました。それを推進させるために考えたのが、今回の「相続手続相談士」(商標登録出願中)という任意な資格です。9割にも及ぶ相続税無縁の市場は推定10兆円ともされ、税理士が参入することで、相続手続の代行業務や申告、手続から派生する周辺ビジネス、もしかしたら富裕層関連の業務も発生する可能性もあり、とても旨味のある市場なのです。要はしっかり報酬を得るビジネスモデルが確立されていなかったわけで、短期間で計画を練り、「相続手続相談士」という任意資格を創設し、運営団体としての相続手続相談士研究協会を設立して、税理士の相続手続ビジネスを早急に立ち上げました。
背景にあるのは、相続申告市場に弁護士や信託銀行らも参入し、競合が増えたことで、市場は既にレッドオーシャン化してきた点と、少子高齢化の影響による今後の税理士業務の先細り感ですね。

―あえて資格にした理由とは?

新井 相続手続が複雑化してきた今、相談者が望むのは何をしていいのかわからない手続すべてを説明でき、処理の代行で相続を確実に終わらせてくれる人です。その適任者に、任意ではありますが称号を付与することは意義あることと思います。代行の範囲は光熱費や公共料金の名義変更や生命保険、遺族年金、未払年金、恩給等の請求方法など、細かく分類すれば100種類以上にもなります。協会への入会で相続手続が体系的に学習できるほか、他士業の相談業務の横断的に学べますので、相続のワンストップサービスが可能になります。

価格競争も少なく、相続手続代行は会計経験者でなくても仕事ができる。まさに“時流”に合ったサービス

―なるほど。講座受講後に得られるツールや資格等について教えて下さい。

大野 これから大々的に協会の説明会を開催していきますが、入会時には各種の営業・教育ツールが協会サイトの会員専用管理画面からダウンロードでき、メールでの個別相談にも対応します。まず、資格取得のためのWEB動画で概要をつかんでもらいます。これは、新井先生の手続業務の集大成を4時間にわたり収録したもので、78ページの資料も添付。動画を繰り返し閲覧できることから、おそらくこれで準備は完璧です。
また、相続手続相談士の検定受講もサイト上で行え、自動採点システムの導入で直ぐに合否がわかります。今は特例で税理士資格者は免除されますが、会計事務所職員の場合は、何名でも居ながらにして無料で検定受講できる仕組みです。入会金は5万円で、月額会費はプランによって違い、①サテライト(月額5千円)②スタンダート(同1万円、無料相談年間50回まで)③プレミアム(同1.5万円、無料相談年間150回まで)の各パターンから選ぶことができます。

新井 ここでの具体的なメール相談をもとに、ノウハウの蓄積や情報共有が図れ、例えば定期的なニュースレターの配信も可能になり、これらが協会の財産にもなります。

―協会はWEB完結型の教育・実践ツールの提供で相続手続ビジネスを支援していこうという流れですね。業界内の他の支援組織や団体との違いとは?

大野 いくつかの競合団体やグループがあるのは事実ですが、それなりの入会金や会費が掛かります。その点、当協会はコストの差別化が最大のウリ。あくまで勉強型の研修がメインですから、事務所研修や同行、案件紹介といったいわゆる至れり尽くせり型のサービスは提供しません。そこも大きく違う点ではないでしょうか。

新井 ただ、そうは言っても実際に営業フォローをして欲しいという声は当然あるでしょうから、業務受注のための契約書関係といった最低限費必要なツールは提供致します。

大野 税理士の立場からすると、営業開拓に役立つマンガ仕立ての「お亡くなりになった場合の手引き書」といったツールをはじめ、共通フォーマットの名刺、相続チェックリスト、セミナー開催のためのマニュアル、各種委任状などの独自ツールも提供します。

―報酬体系もあるのでしょうか。

大野 あくまで新井先生の標準的な報酬体系をWEB動画にて公開していますが、活動エリアによっても相場感は違うために、報酬規程は設けずにあくまで会員が独自で決められるような自由度を持たせています。

―最後にビジネスの勝算については。

新井 銀行関係の手続は今後、AIやフィンテックの進展で利用者にとっては利便性が高まり、相続手続自体の簡素化も図られていくでしょう。しかし遺族らとの人間的なコミュニケーションは不変で、これからもきっと有望視される市場に違いありません。

大野 税理士のビジネスと捉えた場合、課税対象外のマス層に膨大な潜在市場があり、現時点では価格競争も少なく、相続手続代行は会計経験者でなくても仕事ができることから、まさに、時流に合ったサービスです。大いに期待したいビジネス領域の一つではないでしょうか。

時流に乗るか?「相続手続ビジネス」若手士業が新資格「相続手続相談士」で市場開拓

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