最終更新日:2025-02-08
「企業版ふるさと納税」でパートナー制度 会計事務所主体の組織的推進活動がスタート
- 2025/02/08
-1024x683.jpg)
「令和6 年能登半島地震」の復興支援として、「企業版ふるさと納税」の活用を検討する企業が増え
ている。この制度は、寄附金の使途が明確で、税制上の優遇措置もあることから、活用が期待されて
おり、税理士業界内でも、震災を契機に顧問先への周知や活用を呼び掛ける動きが出てきた。
プラットフォーム運営会社と税理士がタッグ組む
2016年度に創設された「企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)制度」は、企業が自治体の特定の事業に寄附をすると、実質負担4割で寄附が行える仕組み。
その後の税制改正によって、最大寄附金の9割(実質負担は1割)まで税額控除できるようになったことから関心が高まり、令和4年度実績は8,390件341.1億円と、件数にして前年比70%の伸びとなっている。
税理士業界内でも、国が認定した地方創生推進プロジェクトの趣旨に賛同し、個別に寄附行為を行うケースも見られていたが、ここにきて、組織的な推進活動に取り組む展開も活発化してきた。
企業版ふるさと納税の推進で、地方公共団体と企業を連携するためのプラットフォームを運営する組織と税理士がタッグを組み、企業版ふるさと納税を、より積極的に推進するための「パートナーズ制度」を活用する動きだ。昨年7月、東京・大阪で開催された税理士対象の事例発表会においては、この制度に関心が寄せられた。
このセミナーは、(株)企業版ふるさと納税マッチングサポート(東京・墨田区、取締役社長=百木田康二氏、以下マッチングサポート社)が開催したもので、内閣府担当者からの制度説明をはじめ、「パートナーズ制度」の概要、ふるさと納税を推進する石川県の税理士法人中山会計の小嶋純一代表社員と、大阪の御堂筋税理士法人の才木正之代表社員が講演した。
内閣府によると企業版ふるさと納税の活用意義は、①人口減少・少子高齢化、課題の複雑化の中で地方公共団体だけで地域課題を解決するのは容易ではなく、企業(民間)の力を活用する、②地域の社会課題解決に積極的に取り組む企業・人材は増えており、こうした民間の資金や人材を地方に還流させる、③単なる資金面での支援にとどまらず、企業のノウハウ・アイデアや人材を活用した新たな地方創生の取組が、全国的に生まれている、となっている。
寄附に伴う税務処理手続きも重要
企業版ふるさと納税で寄附を行う手順は、寄附の方針を検討し、寄附先の候補となる地方公共団体(事業)を選定。それから社内提案資料の作成と社内調整を実施し、地方公共団体との調整(寄附手続き、寄附活用事業について)をはじめ、寄附贈呈式、報道発表等などの広報活動も必要で、さらに税務処理手続きも重要なポイントとなっている。
しかし一般企業では、趣旨に賛同して寄附活動をしたくても、何からどう始めればよいか分からないのが現状だ。ここに、税務・会計、経営指導を行う会計事務所や税理士法人が主体となって税務面だけに留まらないアドバイスや提案を行う意義がある。ところが、会計事務
所自身も経験が乏しいこともあり、サポートが充分できるとは言えない状況にあり、その分野を担うのが「パートナー制度」の役目だ。
顧問先企業に喜ばれるポイントとは
顧問先に喜ばれるポイントは、①地域への貢献、②自治体とのパートナーシップ構築のキッカケ、③社員のモチベーションアップ、④震災復興支援、にあるという。こうした企業に対して、マッチングサポート社がコンシェルジュとして、会計事務所、顧問先企業、地方自治体の間に立って円滑な連携をサポートし、さらに寄附の進捗状況も共有化する。
具体的には、会計事務所がマッチングサポート社に代理店登録し、同社が提供する提案ツールを活用して顧問先に企業版ふるさと納税を勧める。興味ある企業を紹介すれば、マッチングサポート社がその後の処理を受け持つ。極論すれば、会計事務所は提案後、マッチングサポート社に丸投げすればよく、最後の税務処理だけを担当する事になる。会計事務所に対しては導入支援のための報酬(分配金)が、寄附実績の2%程度支払われる。
税効果はもちろん顧問先との信頼関係が増す
小嶋税理士は、会計事務所が推進する意義として、①信頼の醸成(企業が生み出した利益の使い道を一緒に考える)、②前向き思考(経営者が税をポジティブに捉えるきっかけ)、③関係強化(SDGsや広告宣伝、福利厚生などの企業活動の会話が出来る)、④安心の提供
(寄附に対する専門家の見地からのアドバイス)を上げている。
金沢市に拠点を置く小嶋氏が代表の中山会計では、能登半島地震をきっかけに地元として何かしなければならないと考え、企業版ふるさと納税に着目。社内研修を4回実施し、まず社員の実家がある石川県内の2市3町に各100万円の寄附を行った。企業向けにはYouTubeで8本配信、3,000件にメルマガを配信し啓蒙。その結果、10社検討し5社が企業版ふるさと納税を実行した。
また、小嶋税理士は「寄附金の最大9割を税額控除できると言われていますが、あくまで最大であり財務状況などで異なりますから、計算式で試算して間違いなく伝えることが必要です。また、企業への提案タイミングは、決算前に利益の使い方を検討する段階が良い」と語る。現状、企業側の理解はなかなか進んでおらず、今後はマッチングサポート社の協力を得て、より効果的な展開に取り組んでいくとしている。
一方、小嶋税理士の活動に賛同した才木税理士は、「当初は事務所社員の福利厚生での活用を考えていたが、小嶋先生に共感し能登の災害復興として企業型ふるさと納税を勧めてみた。結果、2事務所で19件2,220万円の寄附を実現した。新規顧問先からは社会貢献する姿勢を高く評価されて信頼関係も向上した。今後は人材派遣型の企業型ふるさと納税など、企業にとって戦略的な活用も提案していきたい」と話す。
企業版ふるさと納税、3年延長へ
企業版ふるさと納税制度は、寄附行為による社会貢献活動にとどまらず、人材派遣型に見られるように、企業活動と地方を繋ぐ戦略的なものへと変化してきている。
同制度は24年度末に適用期限を迎えるため、内閣府が5年間の延長を要望していたが、2025年度与党税制改正大綱に、「適用期限の3年延長」が盛り込まれた。
これにより、会計事務所が進めていく環境は整ってきたといえる。地域貢献を考えている会計事務所は、社会貢献に積極的に参画する手段として検討すべきだろう。
-1024x683.jpg)
顧問先が喜ぶポイントについて対談する小嶋税理士・左と才木税理士・右
-1024x683.jpg)
「いいね!」をしよう
- 最新情報をお届け!
- Follow @kaikeihaku
- Tweet to @kaikeihaku
クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
-300x200.jpg)

-8-300x200.jpg)


税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。




