最終更新日:2021-03-26
特別対談 今年もはじまります! IT導入の補助金
- 2018/02/07
- 2021/03/26
平井氏
「IT新戦略」で対象者層を大幅拡大
当面必要なインセンティブ政策
安田氏
消費税改正を見据え有用な施策
企業にメリット与える情報提供を
平成28年度からスタートしたIT導入のための経費の一部が助成される「サービス等生産性向上IT導入支援事業」(以下、IT補助金)が、今年度も引き続き実施される。前回と比べ予算規模が5倍に拡大する一方で補助の上限を半分に減らし、対象者層を大幅に拡大していくという。1社あたりの補助という点では、少しインパクトが弱いものになったものの、IT投資を行いたい事業者としては、このIT補助金をうまく活用したいところ。そこで、わが国のICT政策を主導し続けてきた衆議院議員の平井卓也自民党IT戦略特命委員長と、IT補助金申請に関わって実体験を積んできた安田信彦税理士に、補助金活用について語ってもらった。
500億円の予算で13万5千件を想定
安田 IT補助金のお話は、一昨年10月に開催された「会計事務所博覧会2016」で、平井議員が特別講演された時にはじめて知りました。あの時の大きなインパクトを今でも覚えています。
平井 この支援事業は、わが国の主要業種でもあるサービス産業等で活用できる補助事業を念頭に置いたものです。サービス産業等に関連する企業経営者や個人事業者の経営力向上を目的に、平成28年度第二次補正予算において、ITシステム導入等の費用の一部を補助することでスタートしました。この施策は、ITを最大限活用し、簡素で効率的な社会システムの構築を目標とした「IT新戦略」の基本方針にも掲げていることからも、単年度で終わらせるわけにもいきませんから、継続して今回も予算措置を講じました。
安田 確かに、デジタル社会の進展を見据えると、そういう流れが当分続いていくと思っておりました。
平井 昨年実施の事業を振り返りますと、初めての導入ケースでもあり、一次公募の採択率は非常に高かったのですが、認知度が上がり公募期間が長かった二次公募には人気が集中。それにより競争率が急増し、かなりの狭き門になったことが報告されています。また、特徴的なものとしてIT導入支援事業者の中に金融機関もいくつか入っています。既に北國銀行の例はありますが、今回、ほかにも出てくると思いますね。
安田 私どももIT活用する動きは大歓迎で、積極的な導入支援を展開しました。顧問先の経営者や仲間内の税理士らに情報提供しながらこの補助金申請に関わり、30件ほど採択されました。一次公募では期待通りの成果が得られましたが、二次は残念ながら厳しい採択となりました。そして今回も引き続き「IT補助金」が継続されるとのことで、大いに期待しているところです。
平井 今回の「IT補助金」の概要ですが、予算規模(前回100億円)を500億円へと大幅に増やしますが、採択事業者数も前回(約1万5千社)から大幅に拡大し、13万5千社を想定。また、1社あたりの補助額の上限(前回、補助率は投資額の2/3で100万円)を、今回は投資額の1/2の50万円に引き下げることで、より対象者の裾野を拡大していこうと。極論かもしれませんが、採択率を極めて高いレベルまで引き上げていきたいと考えております。また、今後のスケジュールについては、今国会での成立を前提に、4月頃からの補助事業者の募集開始を目指すこと、4月の公募開始を皮切りに、計3回程度の公募を実施することなどを予定しています。
安田 えっ⁉それは、ほぼ通るよ、みたいな話として受け止めていいのでしょうか?
平井 上限金額を引き下げるのは、できるだけ多くの人に使ってもらいたいというのと、申し込んだけどやっぱり駄目だったというようなことをできるだけ無くしたいと思っているからです。そういう意味で、今回は出していただければほぼ採択されるという状況になればいいと、私は思っています。実際には17万社以上に引き上げたいと考えております。
補助事業者対象のアンケートで成果報告が続々
安田 なるほど。要は「出せば通る」施策となる可能性が大いにあるということで、とてもありがたいですね。顧問先の経営者に対して、「補助金が出そうだから申請してみたら」といった単純な理由からでなく、自社で生産性を上げるためには、「今何をすべきか?」という視点に立ち、それを実現するためのIT補助金、という説明をする必要がありますね。
平井 おっしゃる通りです。安田先生のような実体験を踏まれた方は、補助金活用のメリットや導入のアプローチの仕方を熟知されており、とてもありがたいですね。補助事業者を対象としたアンケートを見ると、様々な成果が報告されています。
安田 例えばどんな事例がありますか。
平井 保育の現場では、登降園時刻のICカード化や保育記録のデータ管理、職員の業務管理のIT化により、帳票の作成・確認時間が縮減。各種管理業務を紙からデータベースに一元化することで生産性向上が図れた典型的な例があります。それ以外にも、ホームページへのプロモーション機能追加で、新規顧客を増加させた小売業の事例や、配車の効率化によるコスト削減がなされた運輸業の事例などがあります。
安田 なるほど。前回の全2回の公募事績で地域別、業種別にみるといかがでしょうか。
平井 1都3県の首都圏で全体の約27%を占めていますが、全国的にバランスよく分布されています。また、業種別では卸・小売、飲食、医療が目立ちますが、個人的には旅館・宿泊業への利用拡大を期待したいですね。ともあれ、今回は生産性向上が緊急の課題となる7業種を重点分野として、IT補助金の集中投資を行う方針です。
安田 前回同様、関連施策との連携を図る取組も重要なポイントになるのでしょうか。
平井 はい。自社の経営状況を丁寧に把握しつつ、事業計画(補助金申請様式)を作成した上で、例えば「おもてなし規格認証」など、生産性向上施策等の連携を図る取り込みに対しては、加点要素にしていきます。そのほか、今回から新たに、固定資産税ゼロの特例を措置した自治体において重点的に説明会を開催し、このエリアにある事業者を優先的に採択していこうと考えています。これはIT補助金に限らず、いわゆる「ものづくり補助金」も含めて全部です。地元の企業に生産性を上げるような設備投資をしてもらいたいと思っている首長さんがいれば大歓迎ということです。
安田 それはとても良い政策ですね。首長さんが条例を作って周知徹底してくれれば非常に大きなポイントになりますね。ただ、予算規模を大幅に増やして対象者層を拡大していく今回の事業については、「ばらまき批判」的な見方も出ているようですが、その点についてはいかがでしょうか。
多少の批判あってもITインフラを進展
平井 これは社会全体のITインフラを作る意味において、国の競争力につながる話でもあり、決してばらまき政策ではありません。ITツールを導入した成果の生産性向上の効果報告を義務づけたり、IT事業者の評価をホームページで公開するなど、成果が見える措置も講じていきます。業務効率化にはデジタル化は必須で、キャッシュレス化社会を見据えれば、多少の批判はあっても今ここで強引にインフラを進めていく必要があります。
安田 おっしゃる通りです。税理士の顧問先でもある中小・零細企業に、これまでITシステムの導入に使える補助金はなかったわけで、大きなメリットを感じています。
平井 むしろ、ばらまきの逆だと思いますね。消費税をこれから変えていくときの体制づくりにも重要で、やっぱり何年か続ける必要がありますから、デジタル化に伴うインセンティブ政策は当分続きますよ。
安田 今回の消費税の軽減税率についても、平成31年10月から免税事業者の発行できるインボイス方式がスタートし、それによって経理処理の手間が確実に増えるでしょう。いま、行政サービスのデジタル改革が進みつつある中で、来るべき消費税電子インボイスへの対応については、提出書類のデジタル化や民から官へのデータ連携は不可欠な要素だと断言できます。
平井 フィンテック関連でいうと、銀行のオープンAPIは大きいですよね。世の中が確実に今、その方向に変化している状況の中で、社会を分断したくない。政府の戦略本部の会合で安倍首相が行政サービスの100%デジタル化を宣言しており、一気に進んでいくはずです。
安田 そういう意味では、10年後の私たちの仕事もデジタル化によって9割がなくなるのではないかというショッキングな予測があります。変化を意識して今から対応に取り組まなければ時代に取り残されていきますね。
平井 先生方のお仕事も大変だと思いますが、中小企業のよき相談相手として支援を賜りたいですね。
安田 どうもありがとうございました。
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税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。