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最終更新日:2021-06-05

SaaSベンチャーが挑む金融サービス革命|税理士と金融機関の連携強化で生まれる〝未来予想図〞

  • 2021/06/04
  • 2021/06/05
SaaSベンチャーが挑む金融サービス革命|税理士と金融機関の連携強化で生まれる〝未来予想図〞

「令和2年事務年度金融行政方針」において「地域金融機関と税理士が連携して経営改善を積極的に取り組むべき」との方向性が示され、2者のさらなる連携強化がクローズアップされているなか、「金融サービス革命で地域経済の活性化に寄与する」をコンセプトとしたクラウドサービスが注目を集めている。

キーとなるのは、地域の金融機関との連携だが、経営支援プラットフォームという共通のツールを活用することで税理士の関わり方にも変化が出てきそうだ。

AIを活用した各種サービスを展開し、昨年末マザーズに上場した(株)ココペリ(東京・千代田区)の近藤繁代表取締役CEO(写真)に、中小企業向けの経営支援プラットフォーム「Big Advance」の新たな付加価値や税理士との関わりなどについて聞いてみた。


行員時代に感じた金融サービスの限界

まずは、会社の事業内容からお話ください。

「企業価値の中に、未来を見つける」をミッションに、2007年に設立したベンチャー企業です。「Big Advance」の開発・運用を中心に、金融機関向けの「AI融資審査モデル」の開発や、中小企業向けの専門家相談サービス「SHARES」(シェアーズ)、そして会計事務所との関係では、業務管理や属人化問題などを解消する働き改革AIツール「FLOW」(フロー)を提供しています。

近藤社長はもともと金融機関のご出身でしたよね。

はい。銀行員時代には、企業の決算書だけでは将来の成長性までを読み取ることが難しく、過去の実績、つまり目に見えやすい過去の結果でしか評価できない金融サービスに限界を感じていました。金融機関の役目はそういう企業の成長をサポートすることにありますが、現実的には融資ができない企業に対しては他のサポートができるかというと、なかなか当時は厳しい状況にありましたね。

そういう経験を経て、「中小企業にとって本当に価値のあるサービスのあり方とは」というテーマを追求するために、IT及びAIの各スペシャリストを集めて、「中小企業をテクノロジーで支援する」をビジョンに起業しました。そして、中小企業のサポート役には金融機関をはじめ士業、とりわけ税理士の先生方の存在は大きいですから、まず中小企業へいつでも専門家に相談できるソリューションとして「SHARES」の開発に取り組みました。

なるほど。このサービスは「スポットWeb相談」というものですね。

その通りです。経営から税金、財務、知財、法務など、中小企業が相談したい項目を選択して、まとめて見積もりから相談、解決までできるクラウドサービスを、2015年から開始しました。特長は、顧問料なしで「いつでも」「気軽に」「最適な専門家」に相談できる仕組みで、登録士業数も2,000名を超えました。

サービス誕生の秘話

金融機関にも活用されているという話ですが。

このサービスのプロモーションはWebを中心に展開してきましたが、一方、Webの取り組みだけでは利用してほしい中小企業に十分にサービスが訴求できないという課題がありました。その課題解決を十分に果たすためには金融機関との協力が重要なポイントであることに気づきました。そうしたなかで、横浜信用金庫が「SHARES」に関心を持ったことがきっかけとなり、双方でいろいろと協議を進めるうちに、このサービスと連携する形で、金融機関の取引先企業の経営をトータルサポートするアイデアが生まれました。その結果、誕生したのが、取引先と金融機関を結ぶコミュニケーションツール「Big Advance」です。

金融機関との共同開発で誕生したクラウドサービスというわけですが、リリースした2018 年当時は、金融機関にとっても金融イノベーションとフィンテックが注目を集めていた時期ですね。

確かに、「金融機関VSフィンテック」みたいな風潮が出始めた頃でしたが、我々としては敵対視することではなく、金融機関とパートナーシップを組むことでフィンテックを加速させることが出来るという認識を持っていました。ちょうど、米国シリコンバレーに行く機会があり、フィンテック企業が金融機関と協業した形でサービス展開をしていることを目に当たりにしたことが大きなインパクトを与えてくれました。

全国59の金融機関に「Big Advance」を導入

「Big Advance」の特長は。

月会費(3,300円・税込)で、プラットフォーム上での金融機関や会員同士のつながりを持つことができます。現在、販路拡大やビジネスマッチング、事業承継、福利厚生、補助金・助成金、オープンイノベーションによる新規事業の創出など、8つのサービスメニューを取り揃えており、機能は随時拡大していく方針です。参加する金融機関が増えれば、地域の枠を超えた会員同士のコミュニケーションが深まり、地域活性化にも貢献できます。現在(2021年2月末)、全国の地銀、信金など59の金融機関が導入し、取引先中小企業などに対して、金融機関をハブに枠を超えたサービスを提供しており、ユーザー企業数も44,312社(2021年2月末)に達しました。2年後には、金融機関数100、ユーザー企業数15万社が目標です。

運用面でのポイントというと。

好評をいただいている「ビジネスマッチング」ですと、会員企業が条件に合いそうな候補先企業を探して、金融機関の事務局を通じてアプローチし、商談を進めていただきます。ポイントは、会員企業同士が勝手に連絡を取るわけではなく、金融機関の担当者が間に入り、サイトを通して取引先に連絡する点ですね。

金融機関の枠を超え、取引先同士でのビジネスマッチングに特長

ビジネスマッチングはどこの金融機関でも手掛けているサービスですが。

こうしたサービスは、これまで同じ金融機関の取引先同士をつなげることにとどまっていますが、「Big Advance」のマッチングは金融機関の枠を超えた全国の異なる金融機関の取引先同士がつながることができるのが大きな特徴です。実際に、この1ヶ月間で3千件を超えるマッチング依頼件数があり、そのうち約7割が金融機関を跨いだ案件でした。まさに、「Big Advance」のメリットが活かされた結果だと思います。

また、システムに搭載するAI機能によってマッチング候補先の抽出が自動的に行え、負担が軽減し、かつ、高い成約率が可能になりました。金融機関が新たな収益モデルやサービスの構築を模索する中で、連携の輪の拡大がもたらす効果は大いに期待されている分野に違いありません。

コロナ禍における補助金・助成金ニーズも高いのではないでしょうか。

補助金・助成金については、現在、国や市区町村レベルまでの約7,900件の情報を掲載しています。対象となりそうな情報が見つかれば、関連する士業へ直接相談・依頼ができる仕組みで、人気のメニューにもなっています。

税理士は「経営支援プラットフォーム」の仲介役に

税理士との係わりという視点では、どうリンクするのでしょうか。

まず、先生方には、金融機関が地域の活性化や経営者の成長支援に本気で取り組んでいる現状を知って頂きたい。そして、そうした中小企業を力強く支援するさまざまな活動は、金融機関だけで完結することは不可能です。その伴走者として、地域の会計事務所の存在は大きく、金融機関との接点を強める連携はとても重要なポイントなのではないでしょうか。偉そうなことをいえば、そこに会計業界の未来があると言っても過言ではありません。

昨年夏には、ある税理士向けオンラインセミナーで、会計事務所と金融機関の連携強化の重要性についてお話をさせていただく機会があり、顧問先への経営支援で税務以外の新たな価値提供の仕組みを先生方にも活用して欲しい、と呼びかけました。

以前から、税理士と金融機関の間には、もちつもたれつの関係性が成り立っていると言われてきましたが、新たな展開も考えられるという話ですか?

はい。企業支援のインフラも整ってきましたので、先生方にとってこの枠組みに参加されることは、既存顧客との関係強化はもちろん、新規顧客開拓の可能性も広がるのではないでしょうか。

具体的にはどんな活動を。

金融機関と会計事務所双方に周知のためのセミナーなどを実施しています。毎週金曜日、認定支援機関の会計事務所を中心としたオンラインセミナーを開催し、会計事務所および顧問先支援に役立つこの「経営支援プラットフォーム」の活用について説明をさせていただいております。参加された先生からは、こういうサービス提供の仕組みを民間企業が行っていることから、興味を持っていただくケースが増えているという実感があります。

会計事務所と金融機関との仲人を御社が受け持っている感じでしょうか。

そんなイメージですね。税理士の先生方は、日本政策金融公庫とは関係があるものの、地元の地銀、信金さんとつながっているかというと、まだまだという先生は結構多いです。今のコロナ禍で顧問先から受ける融資相談の解決のヒントになれば、というスタンスで対応していますが、概ね良い評価をいただいております。そうは言っても、職員10人前後の会計事務所の場合、「導入したくとも事務所の体制が整っていない」という声もあり、総合的な経営相談に発展するケースもしばしばあります。 もちろん、こうした融資問題への対応だけではありません。起業したら銀行口座は必須ですから、その場面で税理士を探しているケースもあり、金融機関の担当者ともチャットでつながっていますので、相談から新規顧問先に繋がる可能性もあります。補助金・助成金相談や世代交代に伴う事業承継への対応も重要な経営課題とされているだけに、先生方には大きな期待が寄せられています。

最後にメッセージをどうぞ。

「Big Advance」の「未来をつなぐ、共に前へ」というキャッチフレーズのもとに、今後も税理士向けセミナーを通じて情報発信をしていきます。未来をつなぐために、顧客と共に前に進んでいきましょう。

プロフィール

株式会社ココペリ 代表取締役CEO 近藤 繁氏

みずほ銀行にて、中小企業向け融資業務に従事。その後、(株)ココペリを創業。経営支援プラットフォーム「Big Advance」の開発・運用や、AIを活用した与信モデル
「FA(I ファイ)」、中小企業が専門家にWeb相談ができる「SHARES(シェアーズ)」などを開発・運営。

※Big Advance

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