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最終更新日:2021-07-19

特例事業承継税制研究会が始動!粕谷会長に聞く「足踏み状態の制度利用からどう脱却?」

  • 2021/07/19
特例事業承継税制研究会が始動!粕谷会長に聞く-足踏み状態の制度利用からどう脱却?」

深刻化の一途を辿る中小企業の後継者問題。大きなネックとなっているのが、非上場株式の承継時の贈与税・相続税負担だ。これらが実質負担ゼロで、後継者へ自社株式を承継できる「特例事業承継税制」がスタートしたのが2018年(平成30年)のこと。

10年間にわたる特例措置として抜本的な拡充が行われているが、残念ながら思うほど活用されていないのが現状だ。税理士業界内では組織的な対応プロジェクトを組み、中心となる事業承継計画書の作成を支援する活動も展開されているが、ここにきて新たな研究会も発足。その「特例事業承継税制研究会」の会長を務めるKASUYA税理士法人代表社員税理士の粕谷幸男氏(写真)に、意気込みなどを聞いてみた。


迫る事業承継計画書の提出期限

まず、鳴り物入りで3年前にスタートした事業承継税制の大幅改正ですが、税理士として現状をどう捉えていますか。

経済産業省の資料によると、平成30年から令和2年7月までの事業承継税制の特例承継計画の申請件数は、7,186件と公表されています。「特例事業承継税制」は、自社株式の評価が高い優良企業ほど適用効果が高い制度とされていますが、わが国の中小企業の数から見ても、明らかに適用件数が少ない。最近では、コロナ禍が影響して、事業承継税制の申請件数の減少も伝えられており、対象となる顧問先に制度の概要やメリット等を伝えて、さらなるアピールが必要な時期だと痛感しています。

研究会発足の要因として、事業承継計画書の提出期限が迫っていることもありますよね。

はい。事業承継計画書の提出期限が2023年3月までと、あと2年に迫る中、制度の有益な活用を目指し、顧問先企業の事業承継を円滑に推進していくことを目的に立ち上げたのが今回の研究会です。税理士業界挙げての施策にもなっていることから、世代交代のための税制を活かすのは税理士の役目。中小企業経営者に対し、同税制の周知徹底を図るとともに、複雑な手続であっても税理士なら対応できるということをPRすべきだと思います。

画期的な制度であるが故に、専門家のフォローは重要ですが、現状を踏まえると制度の根本的な問題も普及を妨げる要因の一つではないでしょうか。

もちろん、今回の事業承継税制の改正だけで中小企業の事業承継をカバーできるわけではありませんが、この特例事業承継税制にはメリットとデメリット両面あるのは事実です。しかし、何といっても納税が100パーセント猶予されるメリットは大きいですし、猶予要件が以前に比べ緩和されたことも、少なからず事業承継税制の利用者増につながっているのではないでしょうか。 一方、そうした納税猶予を受けるために、一定の要件を満たし続けなければならない点がデメリットです。制度が拡充されたとは言っても、根本的に制度自体が複雑で、実務面での手続きも煩雑。また、認定の取り消しリスクなどの理由から、「この制度を利用したいが躊躇してしまう」というケースが企業経営者と専門家双方に見られ、それらの問題を解消していかないと、大幅な利用者増にはつながりません。

税理士が懸念する損害賠償の問題とは…

そうしたリスキーな面というと。

税理士側では、損害賠償の懸念が大きいですね。納税猶予の取り消しリスクの確率も下がったとは言えゼロではありません。状況が変わり、後継者が途中でM&Aに方向転換し、猶予を打ち切るケースも想定されます。計画通りに進まなかったミスについては、本税含めた利子税や延滞税などのペナルティが発生するでしょう。また、報酬面においても、届出書作成料だけではそれほど大きな収益にはつながりません。そうしたリスクと報酬の両面を捉えると、業務内容には見合わない仕事といえるかもしれません。そのため、税理士としては気軽にこの特例を顧問先には勧められない、というのが本音ではないでしょうか。

多くの税理士がこの制度に懐疑的な見方をしている現状を、いかに変えていくのか。研究会の目的はそこでしょうか。

はい、社会的責任を果たすためのチャレンジとして、現経営者が安心して引退を決断し、後継者にバトンを引き継げるような環境整備の支援を進めるためにも、この「特例税制」は有用な手段だと思います。また、後継者が会社を維持・発展させていくための教育パッケージの研究開発や経営支援サービスなども提供して、様々な角度から承継のための啓蒙活動を展開していくのが研究会の目的です。

それに加えて、税理士サイドのデメリット払拭も目的のひとつですね。

特例事業承継の適用を受けるには、平成30年4月1日から令和5年3月31日までの5年以内に「事業承継計画」を作成・提出し、都道府県知事の確認書の交付を受け、申告書に添付することが必須要件。まずはこの計画づくりからスタートするわけですが、適用後5年間は毎年、5年経過後は3年に1回、報告書を税務署と地方自治体に提出しなければなりません。後はスケジュール通りに実施すればいいのですが、経営環境に変化が生じる想定外のことも起こるでしょう。特例税制の猶予取り消し懸念といった、実務上ミスが起きやすいポイントをどう解決していくのかも課題です。

専用システムや経営支援サービス提供で問題点をクリア

それをクリアするためのソフト開発をされたというお話ですが。

顧問先のソフト会社の協力を得て、クラウド型の事業承継税制リスク管理ソリューションソフトを開発しました。長期に渡ってその適用要件を管理していけば、リスク軽減につながるだけでなく、提案する会計事務所も顧問先とのコミュニケーションが図れます。各種届出書や変更書類などを提出する時期が近くなるとアラート機能が働き、顧問先や税理士との間で情報共有することでヒューマンエラーが防げるというシステムです。

これまでのお話で、様々な対策を検討する上でのチームワークの必要性を感じます。

確かにその通りです。事業承継に悩む中小企業の経営者と実務家としてサポートする税理士、それに経営支援ンサルティング会社の3者が情報共有を図りながら、チームを組んで進めていかなければ承継問題は解決しません。今回、会計事務所と顧問先企業のための総合コンサルティングを全国に展開し、中小企業診断士の組織化で企業経営者らを支援する「(株)MBS Networks」の協力を得て、特例事業承継税制の適用企業への提案営業を、顧問税理士や中小企業診断士らと協力して進めていきます。事業承継はデリケートな問題を内包しているケースが多く、経営者側と支援者側が一緒になって第一歩を踏む出すきっかけを間違えると、それ以降スムーズに運びません。そのためには、専門のノウハウや安心感を与える各種支援サービスが極めて重要なポイントとなりますから、そうした分野を担ってもらえる「MBS Networks」さんには期待しています。

オンライン研修で承継の啓蒙とビジネス活動を

具体的な活動については。

特例事業承継税制の普及による親族もしくは従業員後継者への事業承継をテーマに、月額会費1万円の研究会を毎月1回、オンラインにて開催していきます。対象としては、会計事務所をはじめ経営者、経営支援コンサルティングなどを行う支援者にも参加していただきたいと考えています。研究会では、事業承継の重要性や課題をテーマとしたセミナーやスキーム紹介などを行う予定です。ただ、事業承継対策は、ひとつの税制に縛られることなく、幅広い対策を早い段階から検討することが大事なので、研究会ではそうした分野の支援も充実させていきたいと考えています。

会員組織の運営方法についてはいかがですか。

すでに事業承継税制についての知見や顧問先への承継指導の事例を持ち、実務的なアドバイスなどが提案できる「エキスパート会員」と、事業承継税制の推進意欲があり、顧問先に提案していきたいと考える「研究会員」に分けて、活動を展開していく予定です。入会2年目以降、実務取得・スキルアップにより「エキスパート会員」にランクアップも可能です。

最後にメッセージを。

知識だけの取得だけでなく、具体的な案件を持ち寄ったビジネス展開も行っていきますが、スタート時点では、事業承継税制を活用した親族内承継について、税のプロで経営者の身近な存在の税理士と中小企業診断士とで、事業承継クラウドサービスを上手く活用した承継支援サービスについて取り組んでいきます。ご興味がある税理士先生のご参加をお待ちしております。

プロフィール

KASUYA税理士法人
代表社員税理士 粕谷 幸男氏
税理士試験合格後、1978年個人事務所開業、 2008年法人化。東京会理事、常務理事、日税連理事、横浜商科大学非常勤講師(税務会計)、東京税理士会データ通信協同組合理事等を歴任。「税務援助と税理士法」をはじめ税務関連雑誌多数に論文執筆。

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