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最終更新日:2022-12-06

融資の現場から 「経営改善計画書」の作成手順と「売上計画」の立て方

  • 2022/12/06
融資の現場から 「経営改善計画書」の作成手順と「売上計画」の立て方

監修者

徳永 貴則

徳永 貴則

(株)スペースワン 代表取締役 金融税理士アドバイザー講座主宰

大和銀行(現りそな銀行)にて、都内を中心に主に法人融資の新規開拓業務を行う。その後、本店融資部・審査部門を歴任。2,000社以上の融資に携わる。これらの経験を活かし㈱スペースワンを創設。銀行融資のコンサルをはじめ、事業再生や経営改善のアドバイスも行っている。
また、金融税理士アドバイザーの専任講師としても活躍中。

コロナ融資の返済が始まり、コロナ前の既往借入分の返済と合わせて返済負担が増加している企業が多く、売上回復がままならない中で、材料費高騰のダブルショックで資金繰りが厳しくなってきております。

私のHP記事でも「リスケ」に関する閲覧数が急増しており、リスケを本格的に考えている経営者が増えてきていることが想像できます。

リスケに際しては「経営改善計画書」の策定が必須になっておりますが、実際に経験がない方(経営者はもちろん会計事務所も同じく)が策定した計画書は「血が通っていない絵空」の計画書になっているケースが非常に多いです。

そこで、「経営改善計画書」の作成手順についてお話をしていきます。

改善計画書は金融機関の為に作るものではない

まず、「経営改善計画書(以下計画書)」はリスケをお願いするために金融機関のために作成すると考えている方が多いと感じています。

「リスケ」を通してもらいたので面倒だけど作成しなければいけないこの考え方が根底にあるので将来の収支計画について金融機関が求める以下の2つの指標に縛られている方が多いのが現実です。

〇債務超過は5年以内に解消する

〇事業計画最終年には実質長期負債返済年数が10年以内に収まるようにする

この指標から「逆算した」収支計画を作成しているケースが非常に多く見られます。

過去に何年も赤字を続けている企業が5年以内に債務超過を解消するのは現実的でしょうか?もちろん達成できる企業もあると思いますが、まずは計画書を作成するのは金融機関の為ではなく、自身の再生のための航海図であることを認識することがスタートです。

つまり、銀行側の求める指標に合わせるのではなく、自身がどうしたいのかの「意思」を数字で表現するものだと理解してください。

「SWOT分析」なき計画書は意味がない

計画書でよく見られるのが全体の「売上が年々〇%増加する」数字の立て方です。

これには何の根拠もなく、どの部門の売上をどう増やしていくのか?の具体性が乏しい計画と言えます。

また、粗利益率の設定についても「外注費抑制」だけで年々原価率を低減させていく計画もよく見ますが、何の売上に対する原価率を下げていくのか等々の具体性が乏しいと言えます。

具体性を持たせるには一言で言えば「SWOT分析」が必要です。

S(強み)→自社の製品・サービスは何が支持されて売れているのか?

W(弱み)→今苦境に陥っている要因は自社のどんな弱点が表面化しているのか

O(機会)→新商品・新サービス・新規顧客を獲得する余地がどこにあるか

T(脅威)→外部環境(感染症・円安・物価高)の変化は自社にどう影響するのか

この作業こそが計画書作成の50%を占めると言っても過言ではありません。慌てて数字を考える前にまずは自身を客観視することが計画書作成の近道なのです。

それでは次に、売上計画の立て方及び原価率の設定方法についてお話をさせて頂きます。

売上計画は計画策定作業の「80%」を占めるほど大事

よく目にする計画書では年間の売上計画に対して、「売上1行」で終わり、その中身について「誰に何を何月にいくら売るのか」が具現化されていないものが多く見受けられます。

なぜ、そのような「売上1行」で終わっているのでしょうか?

その理由の主たるものは私の経験上、以下のものがあります。

〇自分で作れないから税理士にお願いする→税理士も経営者と密に話をしていないから形だけの数字で終わる

〇「計画書」は金融機関がうるさいからとりあえず作る→自分の為と思っていない

〇前年比より増やしておけばいいだろう→将来の売上なんてわからない

〇どうせ計画通りにいかない→最初から計画策定の意味が分かっていない

では、どのように売上計画を立てるべきでしょうか。

〇売上をできるだけ細分化させる(部門別・商品別・営業所別・工場別など)

〇前年数字はあくまで参考値とし、どこに何を何月にいくら売るのか?月ごとに作成する

〇まずは、楽観的数字ではなく手堅い保守的な売上を立てる

つまり、売上は積み上げ・積算方式で組んでいきます。積み上げで行うことで、売上計画の具現性が出来、金融機関への説明の際にも「売上明細」を出すことで説得力が増します。

原価率の設定もグロスでやってはいけない

売上計画が決まったら、次は「原価率」の設定を行います。原価には業種によって様々な要素がありますが細かいところを追いすぎると「木を見て森を見ず」になりますので、主要な原価部門を抽出すればOKです。

例えば売上の数字に必ず連動する「変動費」を切り出します。

〇材料・商品仕入れ原価

〇外注費原価

〇運賃・梱包費原価

このぐらいを網羅できればいいと思います。製造業では「労務費」「減価償却費」「修繕費」などが原価にありますのが、こちらは「固定費」の要素が強いので横並びの数字でもOKです。

上記の「変動費」を策定した売上の「商品別」「事業所別」「工場別」などのカテゴリーに対して平均原価率を設定すれば、グロスで出す原価率よりも実態に近い原価率が表現できます。

面倒な作業に見えますが、計画書策定には、この作業は不可欠であることをよく覚えておいてください。

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