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最終更新日:2022-11-30

弥生 “事業コンシュルジュ”を柱に中小企業支援を本格化 まずはバックオフィス業務の“紙”から“デジタル”化サポート

  • 2022/11/29
  • 2022/11/30
弥生 “事業コンシュルジュ”を柱に中小企業支援を本格化 まずはバックオフィス業務の“紙”から“デジタル”化サポート

 

弥生会計などのスモールビジネス向けバックオフィスツールを提供する弥生株式会社(東京・千代田区、代表取締役社長=岡本浩一郎氏)はこのほど、今後の事業活動について記者発表した。岡本社長は、中小企業や個人事業主の業務効率化をはじめ、事業支援サービスの開発・提供を強化し、事業主のあらゆるステップを支えていく“事業コンシュルジュ”として事業を展開していくことを強調した(写真)。

記者発表で岡本社長は、弥生の目指す方向性について「従来と全くかわらない」としながら、“事業コンシェルジュ”として「業務支援サービス」「事業支援サービス」の二本柱で中小企業や個人事業主などを総合的に支援していくことを明確に示した。

業務支援サービスは、事業者及び会計事務所の業務効率化の推進支援として、弥生シリーズ、記帳代行支援サービスの強化、充実を進めていく。

事業支援サービスについては、事業の立ち上げから発展の過程で起こる、さまざまな事業課題の解決のための支援を強化・充実させる。現在、「起業・開業ナビ」「税理士紹介ナビ」「資金調達ナビ」「事業承継ナビ」をラインナップさせてきたが、これらのサービスの普及をステップに、サービス内容の充実を進めていく。

弥生23シリーズの提供開始

現在、弥生シリーズは、デスクトップアプリとクラウドアプリを提供しているが、会計ソフト市場においてはそれぞれ過半数を超える占有率となっている。登録ユーザー数も2022年度(22年9月末)で284万2千と21年度と比較して、約112%の伸び率となっており、5年前の18年度から見ると約166%伸ばしている。岡本社長は「登録ユーザー数の増加を後押ししている最大の要因とも言えるのが、会計事務所向けのパートナープログラムである弥生PAP(Professional Advisor Program)の存在だ。弥生PAP会員数は現在1万1896とこちらも順調に会員数が増加している。

弥生シリーズはメジャーアップデートを施したデスクトップアプリの新版を10月21日に発表。主な強化点は2023年10月からスタートするインボイス制度(適格請求書等保存方式)や令和4年度の法令対応等となっている。

クラウドアプリに関しては現在、「やよいの白色申告 オンライン」「やよいの青色申告 オンライン」「弥生会計 オンライン」「やよいの給与明細 オンライン」「Misoca」の5サービスを提供しているが、それぞれ日々アップデートしているため、常に最新の状態で利用できる状態になっている。

利用伸びる記帳代行支援サービス

会計事務所の記帳代行業務の効率化をサポートするため、2020年から提供を開始している「記帳代行支援サービス」は、2022年9月末時点で951事務所が導入し、計2万1089の顧問先で利用されている。2021年9月には552事務所だったことから1年で約172%の伸び率だ。確定申告期には1日10万明細を超えるデータ化依頼にも対応しており、23年の確定申告ではさらに利用件数が増えることが見込まれる。また、インボイス制度がスタートしたら、適格請求書等の管理が不可欠になってくるため、会計事務所及びその顧問先の利用者数の急増が見込まれる。

「事業支援サービス」の充実と今後 

弥生が事業の両輪の一つとして充実させている「事業支援サービス」だが、この2年で「起業・開業ナビ」「資金調達ナビ」「税理士紹介ナビ」「事業承継ナビ」をそれぞれ開始している。

「起業・開業ナビ」は、起業を目指す人が、登記手続きなど「弥生のかんたん会社設立」を利用すれば容易に必要書類などの作成できるサービス。22年10月からは東京都内から会社設立書類の「オンライン申請」機能を追加。今後、利用地域の拡大をめざしていく。また、申請書類の作成などを専門家に依頼したいニーズに対応するため「弥生の設立お任せサービス」も提供。痒いところに手の届くサービスで起業家を支援している。

このほか「資金調達ナビ」では、22年10月から借入金の返済金額目安が計算できる「返済シミュレータ」機能を追加。「税理士紹介ナビ」についても、一部機能を改善し、使い勝手を良くした。

このほか「事業承継ナビ」では、22年8月に「弥生のあんしんM&A」をリリース。M&A仲介業者が積極的に取り扱わない中小零細企業に対してのサポート体制を整えた。また、10月からは、会計事務所向けに「M&Aサポートツール」の提供を開始。中小零細企業を会計事務所と二人三脚で支援していく体制を整えた。

岡本社長は「私たちは業務の支援がしたいのではなく、あくまでも事業を支援したい」と強調した。

「スマート証憑管理」を年内にリリース

2023年10月1日からインボイス制度がスタートするが、弥生では、企業や会計事務所のデジタル化を全面的に支援していく。この点について岡本社長は、「従来から指摘しているが、電子化(Digitization)ではなくデジタル化(Digitalization)に取り組むべき」と強調。デジタルインボイスの利用と、デジタル化時代の新ツールの提供、2024年1月から完全施行される改正電子帳簿保存法(電帳法)の対応も含めて弥生の取り組みについて紹介した。

デジタル化時代の新ツールとして弥生は、「証憑管理サービス」のベータ版を5月にリリースしているが、同サービスの機能をさらに拡充させた「スマート証憑管理」を年内にリリースする。

スマート証憑管理は、仕入れ先から紙やPDFで受け取った請求書、納品書、領収書などの証憑類を、AI(Artificial Intelligence:人工知能)を搭載したOCR(Optical Character Recognition/Reader:光学文字認識)機能で読み取り、デジタルデータに置き換える仕組み。データを読み取るだけではなく、支払いや入金消込、経費精算、会計仕訳など後続の業務まで一元的に管理できる。

スマート証憑管理では自社が発行する請求書や納品書をはじめ、受け取る全ての証憑を一元的に管理できるため、インボイス制度や電帳法にも対応できるシステムとして期待されている。例えば、スマート証憑管理が抽出するのは、証憑番号や発行日、取引日、登録番号など、適格請求書(インボイス)に求められている事項。加えて、登録番号の実在性や有効性を検証して確認する機能も有している。その他、税率ごとの対価の額と税率ごとの消費税額の整合性などを検算によって確認もできる。

今後、中小企業や会計事務所では、AI-OCRを搭載したスマート証憑管理を利用することにより、紙で受け取った証憑の確認や仕訳などが従来よりも効率化できることになる。ただ、AIは完璧ではない。岡本社長は、「AI技術の発展でOCRの精度は向上しているが、やはり手書き文字などを含めると100%の精度は難しい。紙を用いた証憑の取り扱いには一定の限界がある。弥生が目指すのは、情報の発生源から事業者間も含め業務プロセスの全体にわたって、一貫してデジタルデータとして処理可能な姿だ」と指摘。デジタルデータを扱っていく上でのベースとなる日本版標準仕様「Peppol BIS Standard Invoice JP PINT Version 1.0」への対応について弥生は、23年春にもスマート証憑管理がPeppolへ対応する予定としており、同サービスからデジタルインボイスの送受信、受け取った証憑類の自動仕訳まで完了できるようにするとしている。

取締役会の強化で更なる会社発展目指す

なお、弥生では、22年3月から株主がオリックスからKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ・アンド・カンパニー・エルピー、関係会社およびその他の関連事業体を含めた総称)へと変更。同社は現在、KKRジャパンから2名の社外取締役を迎えたほか、元日本マイクロソフト代表取締役社長である平野拓也氏も同職として招くなど、取締役会を強化している。

全体的な売り上げも堅調な成長を遂げており、過去5年間の同社の売り上げ推移は、18年度で173億4千万円だったものが、9月末に決算を迎えた2022年度の報告(速報値)によると、222億1千万円と過去最高の売り上げを記録している。

*すべての図表は弥生の記者発表資料より掲載

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